〜名も無き愛〜

カオさん

愛と哀

──小さい頃の夢はかなりの奇妙っぷりだ。


夢に魅了されれば現実はつまらないものだ。

自分の居心地いい居場所を作れるから夢にも縋る。


──全ては快楽になり....苦しみもやがて快楽になる。


─────────


真っ暗で足元が殆ど見えない空間の中、誰かに見られているように感じる....。

見えない暗闇を彷徨い歩いていると、霧が発生した....。

そして霧の中から突然現れるように俺の前にチャイナ服を着た女が現れた、そいつは俺を見てこう言った。


???「......怖いの?.....こっちに来て...?」


....彼女はどうして俺の前に....?タイミングの良さに思わず"演芸部の出し物か何か"と勘違いしてしまいそうになった。ちなみに怖くはない。

何かがあるらしいのでついて行ってみる。


────────────────────


女に連れられて来た場所は無限階段の空間。


よく見ると人が13人ほど階段を昇り降りを繰り返していて、その光景はさながらイカゲームのようだ。


....女と呼ぶのは1にとっては不快かな?

そうだな.....普通に"お姉さん"って呼ぼうか。


お姉さんに俺は「君は誰なんだ?」と聞いた...。

するとお姉さんは....


お姉「私が誰か?私は.....誰でしょうか?笑」


少し意味の分からない事を言うお姉さんに思わずツッコミそうになったが、ひとつ分かったことがある。

お姉さんのジョークはつまらないという事だ。

なにか含み言葉の様に思えるが、自分しか知らない答えにニヤニヤしている様は本当に腹が立つ。


お姉「こっちです、来て」


しかしまるでAIのような存在だ。色で言えば白そのもの。

歩き方も上品で実に美しい。無駄が無い。

ジョークももう少し良ければいいんだが。

お姉さんの後ろを追うと、その空間は.....


"温泉"....?


男も女も、皆全裸だ。


主男「ここは...?男も、女も、皆居るぞ...?」


お姉「....さぁ...?男も女もいる風呂は混浴しかないでしょう....?上と下とじゃ相当温度差がある様ですね.....」


(そう言うお姉さんの表情かおはニヤけていた。

そして俺の目の前に来て、服を脱ぎ始めた....

リクルートスーツを1枚ずつ、ワイシャツ、下着......)


お姉「どうです...?見えますか...?」


主男「見えるって....見えてるよ......もうやめろって、服着ろよ.....いつまでも見てられねぇよ...。」


お姉「私がもし、貴方の好きな人だったら....それも裸だったら....貴方はどうします?」


(俺の隣に座り、二本の指を足のようにして、一歩、また一歩と太ももの上を進む。)


男主「どうする...?」


お姉「.......?(答えを待ってこっちを見ている)」


(俺の太ももの上でボディーソープで洗うように手のひらを滑らせる。)


男主「どうするって....君はなんの答えを期待して.....まさか俺が君を襲うと?」


(手で口元を隠しお姉さんが笑う)


お姉「...フフッ...貴方は私の考えが分かるのですね。流石です。」


男主「....は?」


笑いが収まるとお姉さんは何も言わず後ろを向き、温泉の出口へと足を動かす。出口の奥は光に溢れ奥が見えないが、追いかけて光の中に入るとそこは....まるで宮殿の中のようだった。


これはヴェルサイユ宮殿の内装だ。見た事がある。


全裸の俺の前にある机にはスーツが置いてあった。

サラリーマンが着るようなスーツだ。横に居るお姉さんを見ると、服装がドレスとはこれまた派手だ。


急いでスーツを着て、辺りを見渡す。


辺りには人がごった返し皆がそれぞれの服装をしていたが、舞踏会の様で踊っている人は居ない。

ワイングラスを持っている訳でもない....ただそこにいる人達が顔を合わせ話をしている.....。


満員のエレベーターのようにかなりの人が肩をぶつけ合っていて....俺とお姉さんもその中に入った。


お姉「見失っては見つけるのは難しいので私の手を掴んでいてください」


ここに来て一度も口を開かなかったお姉さんが言った言葉は頼もしかった。


2人でひとまず宮殿内を回っていく。

服装が統一されていないというか....私服の人、ドレス・タキシード、軍服とバラバラだった。


話しかける訳でもなく横を通り過ぎようとしたら、軍服の男に話し掛けられた。


軍服男「La giustizia è definizione. Il male è una lezione.」(正義は定義。悪は教訓。)


.....分からん。分からない。何も分からない。

ひとつわかる要素を挙げるとすれば、ヨーロッパの言語である事のみ。意味など全くもって理解不能。


彼が最後に言った事のみ聞き取ることが出来た。


「正義に甘んじるな」


この言葉を聞いた瞬間、人の波が強くなり始めた。

押され押し返しのまさにおしくらまんじゅう。手が離れてしまわぬ様に強く握っていたつもりが、後ろから物凄い力で押され見失ってしまった....。


波に流され続けてもお姉さんを探そうと、波に逆らって名前を大声で呼んだ。


「お姉さーん!!!お姉さーん!!!」


声は虚しく人々の声に紛れ去った。

もうダメか....と肩を落とした時、声がした。


「こっちだよ~」


俺の向いている逆の方向から声がした。

声のする方へと藁にもすがる思いで足を進め、聞こえてくる声の元へと向かう。

長い廊下を走り、ドアを力強く開けるとそこには──

お姉さんはいなかった....。

居たのはお姉さんとも呼べぬ1人の少女が椅子に座って、この俺を待っていた様な雰囲気を出していた。


???「来てくれたんだね...エヘヘッ...嬉しいよ...。」


そう言う少女の見た目は、一般的なJK....髪はショートで俺より背が低い、そんな感じだ。


主男「....誰だ?君は一体....?どうして俺を...?」


???「....えっとね...その....言いたいことがあってさ」


(照れくさそうに体をモジモジさせ、俺から目線を外しそう言った。)


主男「言いたいこと....?」


???「君ってさ、好きな人のこと好き?」


男主「....当たり前だろ、好きに決まってる。じゃなきゃ"好きな人"じゃないだろう」


???「じゃあ、ずっと好きなままでいれる?喧嘩はするし仕方ない....。何か二人の間で嫌なことが起きて、それで出来た少しの"嫌い"という感情。それを"愛"で乗り越えられる自信はある....?」


主男「なぁ待て、君は一体なんの───」


???「君は過去に3回女の子とお付き合いをしたことがあるね?そうでしょ?」


男主「....」


???「3人とも全員喧嘩別れが原因で別れてる。どれも3ヶ月には別れてる....」


男主「っ...言っている言葉の意味が───」


???「君は愛で"嫌い"という感情を乗り切れると言ったけど、喧嘩別れした君はどうして乗り切れ無かったの?どうして?愛が足りなかった?それとも──」


「愛が無かったから?」


主男「お前はいきなり何を───」


???「私は自分に見栄を張っちゃダメだよと言いたいんだよ。あんな感じでいざ聞かれたり質問された時に恥ずかしい思いをしてしまうんだよ?

....はっきり言うね


自分を偽って良い人ぶるのはやめて。


"愛が1番"と思うのは悪いことじゃないの、

でもね、"良い人"っていうのは自分の欠点を自覚して直そうと努力する人のことだよ?直そうとせずに良い人の成りすましをするのは悪い人且つ狡猾な人がすることだよ」


男主「なぁ、なんなんだ君は。俺に声を掛け、来させた挙句何の話をするかと思えば俺に対するお説教か?君はなんなんだ!誰なんだ君は!」


???「──私?....誰だろうね?笑」


誰かも知らない少女から説教を受けた。

流石に言われまくりで腹が立ち少々声を荒らげてしまった。


.....ってそんなことは最早どうでもいい。

お姉さんだ。お姉さんはどこにいるんだ....聞かなくては。


男主「なぁ....ドレスを着た綺麗な女性を見なかったか?」


???「◆◆さんのこと?その人なら残念だけどもう居ないよ」


男主「....ん?誰だって?よく聞こえなかっ──」


???「彼女はここには居ない、けど伝言は預かってあるよ」


そう言って突っ込んだポッケの中から出したのは俺のスマホ。何処からパクったのかは知らないが確かに俺のスマホだ。

俺に見せたスマホの画面は"ギャラリー"だ。

その写真に映るのは....俺と、お姉さん....?いつ撮った...?覚えが無い。


主男「これは....確かに俺とお姉さんが映っている。

しかしこれを撮ったことは一度も無い、だって今日会ったばかりだそ?」


???「...今日?....まぁとにかく、伝言は貰ってるよ


"大切なものは保管できるものではありません。目を離した隙に無くなってしまうものが一番大切なものなのです。私を貴方は見つけられますか...?なんてね...笑


これが預かった伝言だよ。」


男主「.....一体どういう.....」


???「一つ聞くんだけど、


なんでまだここにいるの?」


俺の体は後ろへ物凄い謎の力か引力かで引っ張られた。


──────────


......目を開けるとベッドの上だった。

....PC画面はつけっぱなしで、コップが倒れそこからお茶が零れていた。


.....あの少女は結局誰だったんだ...?なんだか既視感があった気がしたんだが....。

2日前にでも会ったような....子供の頃に会ったような...

懐かしさを感じさせるような....そんな存在だったように思う。


.....目を離した隙に居なくなる.....お姉さん、君の事じゃないか...。

君は俺の考えを見通しているんだろう?...なら分かるはずだ、俺の大切な人が.....。


君はホントに謎の深い存在だ。AIの様に礼儀正しいかと思えばそうでも無い。

何を考えているのかも分からず、気付けば風のように消えてしまった…。


夢の人物に恋をしてしまった俺は....バカだよ

会える以前に見かけることすら出来ないかもしれないのに.......バカ丸出しだよ...俺は...。


二次元に恋をする方がよっぽどマシだってもんさ.....

あれは画面から出ないだけでどこにも行かない。

夢は目の前に出ないし目を離した隙にどこかへ行ってしまう....どうしようも無い.....。



なぁ、この"不安"を...."愛"で乗り切れるのか.......?

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〜名も無き愛〜 カオさん @KAO_SAN

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