姫の末路
「ソレは旦那様が特別嫌いな性質で御座いましょう? なので楽に殺さない方がお好みかと存じまして。
ついでに残りの者へ『苦痛と共に殺される時もある』と、教育できますから」
ま、ね。他人の苦しみなんて全く気にならない。というのが、人の上に立つ者として有用とは思うけど。
やはり此処まで振り切っていては迷惑な存在だと思いたい。生きている限り世の中を悪くする確率が高いとも。
……苦しんでもらいましょうか。
「そうだね。上手い事苦しめて処理を」
「お、お待ちください! 上なる方よ、どうか、我が妹に慈悲をお願い致します!」
あら、まぁ。王太子君。陛下と猊下が絶望的な表情になるような真似を。一瞬陛下の手がこちらへ上がろうとしたぞ。
本当賢いお方だ。それに対して二十の前半っぽいのなら仕方ない面もあるが……。
慈悲、ねぇ。
「お姫様に手を出すな。との意味ですよね? 何のために? 私には生きてるだけで迷惑を振りまく妹さんで、殺した方があなたにとっても良いと思えますが?」
怒り、の中に少し理解が見えるような。分かってるのに恐怖のなか歯を食いしばって、とね。んー。良いお兄ちゃんと言うべきか。
それが強国の後継者……苦労大そう。
「御方がそのようにお感じならばそうなのでしょう。しかしその者は最後に残された妹。加えて如何に愚かでも王族ならば使いようは幾らでも御座います。
それに……この身は妻、子、そして家族の為に歯を食いしばり国を担ってまいりました。
弱き者には己を支える柱が必要なのです。どうか、哀れと思い、柱を残して頂きたく。伏してお願い申し上げます」
血を吐くように仰る。家族想い。と、言うべきか。……賢いとは思えないけども。
しかし。しかしだ。この若者には国の復興という超面倒くさい仕事をさせる。
要所要所で奥さんが陰で手助けする予定だが、気遣うのが筋。かなぁ。
うぅ~む。一度は生かすか。その方が自分を納得させやすかろう。
「分かりました。これから苦労するであろう王太子殿下が望むなら、一度は触らずにおきます」
おお。凄い勢いで、信じられないと書いてある顔をお上げに。
「あ、……感謝申し上げます!」
感謝、をこの青年がすべきかは難解な話に思えるなー。ま、良い未来が来ると良い「旦那様。悪い結果になる率が余りに高いと存じますわ」
あら、まぁ。奥さんがそう言うなら。そして王太子殿が可哀想なお顔に。……余計申し訳ない事したか。
「やはりそうですか」
「はい。今、その雌は旦那様を侮りましたわ。
元より恐怖も薄く、結局は自分を殺せる訳も無いと『分かっていた』通りである。と、いった所で御座いますね。
そして旦那様がお気遣いなされてるその未熟者は、非常に身内に甘いのです。義理の妹を厳格に管理し続ける可能性は雀の涙。
一方で父の方は遥かに自分たちの危うさを存じてます。ですからその女を残してしまうと、父と息子の間に扱いを巡って亀裂が出来あがる公算が高くありますの」
王太子君が悲痛な顔で口を動かしてるが、聞こえん。ま、意味のある事を言ってる訳も無い。
「ああ……それは、最悪。……うん。言う通りになりそうだ。小さな親切で悲劇を作ってしまう所だ止めてくれて有難う。
じゃあ、コレ。処理をお願いして良いかな?」
「お待ちなさい!」
おや? 娘さんが声を? 何故奥さんが許した?
「舌の根も乾かぬ内にも程がありますわ。わたしより遥か年上の男が恥を知りなさい。
お前は今、わたしを兄上へ任せると申したでしょう。己の言葉に責任を持つ程度の品性、我らへ仕事を願おうというのに持ちえないなんて。前代未聞ですわよ」
―――。お、おお。これは、奥さんも発言を許して当然だ。は、
「はは、あは、はははははははは! いやー、凄いね。愚か過ぎて面白い。自分の言葉に責任と来たか。ねぇ奥さん。コレ、陛下が教育したんだよね? なんでこんなのが出来たの?」
「なっ!? 愚か者はお前でしょう! 娼婦を妻と呼ぶ男としての弱さ、怖気が走りますわ! 第一ッ……?! ―――!?!?」
あら黙らされた。これ以上は面白い事言えないのか。しかし……うちの奥さんを娼婦。いやはや。分からないって恐ろしい。
で、奥さんや。この知能の病気は何故発症したの?
「先の質問の答えは……そうですわねぇ。まず、コレの実の両親からの遺伝。
しかしそれは教育と、本人の努力で相当緩和出来たのですが……。コレの父親は暗愚に過ぎて、家臣に殺されておりますの。
そして弟であるコブラ・ジルは遠因が自分にあると存じてますので、娘であるコレへの対応がどうしても甘くなってしまいましたわね。
後は本人に自分を省みる気がこの通り欠片もありませんから。この通りの愚物が出来上がった訳ですわ。
ただお陰で旦那様も心置きなく有効利用できますかしら?」
「そうだね。感謝すべきと思うよ。コレは愚か者の考え方を、王太子殿下も幾らかはある考えを教えてくれたんじゃないかな。
ならば王太子殿下。お教えします。私たちはあなた方を使う方が少し楽というだけで、使えそうもないならあなた方が人と認識してる生物を全て殺し、新しく。妹さんのようなのが産まれないよう改良して『あなた方みたい』なのをばら撒くだけ。
私たちとあなた方にはそれだけの力の差があるのですよ。ですから言葉への責任なんて物を守る理由はありません。
……強者に言葉を守らせたければ、損をさせる必要がある。くらいご存知と思ったんですけどねぇ。異論があれば後で陛下にお聞きください。
しかしまずは。私たちが害になりそうなモノをどう扱う事も可能か。ご覧にいれましょう。
奥さん。コレ。苦しめて殺して」
「御命令、歓喜の極みです旦那様」
朗らかに嬉しそうな笑顔。して馬鹿は……。立ち上がり睨んでるが怯えも見える。
ついさっき、痛みでのた打ち回ったし流石に学んだか。遅すぎたが。
と、馬鹿の前に立った奥さんの手へ壁に立てかけてあった板が飛んだ。いや、あれは鏡? 苦しめて殺すのに何故鏡? しかも見え易くする為か光まで浮かべて……。
「自分が見えますね? ならば何か気づきませんか?」
気づく? このお馬鹿さんに何か―――埃がついてるくらいで、特に……いや、ついさっきまでもっと肌が艶々していたような。
「何を。何時も通りのわたし……え。肌に……ヒビみたいな、シワ? う、嘘。増えて……美しさが……。
何ですのこれは! 幻を見せて騙そうとするのはお止めなさい!」
「幻? あなたにそんな物を使う価値はありませんわ。家族の驚き怯えた表情を御覧なさい。そして自分の目でその手を見ては如何? 年老い、シワだらけになった手を」
あ、あ、あーーーーーーね。成程。そういう苦しみ。
これは一本取られた。ただこれって老化ではなく急激な乾燥ではなかろうか。
人をこうも短時間で、シワだらけになるほど乾燥させられるのも恐ろしいが。
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