要請される仕事は
「―――。ん……んんんんんん……。どうにも考え付きませんね」
「あら。我が主なら分かる範囲ですのに。
ではご説明を。当然魔術ではなく機械制御による現象なのです。爆発程度は分子間の電子を操作出来れば簡単な現象ですわ。
呪文もアレらは命令権限が低いので音声認識が必須なだけ。加えて体内のマシンが脳の電流を拾って命令送信しております。
簡単な話でしたでしょう? 精霊というのはコレらが色々と試した時、そう口に出すと脳の電流が強まり確かに命令が出るとなったから。
えーと……我が主の時代で言うと―――あっ♪
ファジィ! そう、マシンはファジィなんです。お好きですよねファジィ機能」
機械制御。フェムトマシンの機能と仰るか。ならそうでしょうと言うしか無い。
しかしそれはそれとして。
「数十年前に流行ったセールス用造語を好きかと言われましても。
あのぉ。十数万年後にもどんどん作られては消えた詐欺用語が残ってるんですか?
実は精々百年後……いや、それだと今足を折られた哀れなステゴサウルスは造れないかな?」
「あら、まぁ。そうでしたの。申し訳ありません我が主。焦りのあまり適当な」
「……AIが焦る。ああ、いえ。そろそろ終わりそうなこの狩りが私が寝た未来に行われてると主張されるのは分かり……あれ?
―――。幾らか近づいて見てもバレませんかね?」
「ご安心を。少しなら触っても気のせいと思うでしょう」
では気になってた幾つかを確認しますか。……やはり。剣が骨で出来てるような。
「採掘が盛んですと有害な物を掘り返してしまいますから。
動物の骨に金属製を持たせ、更に皮を加工して使う文化へ調整を。採掘するのはこちらで鉱脈を調整してある貴金属くらいのものですね」
見ただけで解説してくださる気配り、落ち着かない物が。あ、いや。有難いのに文句を感じるのはヨロシクない。悔い改めよう。
「エコで結構……あ。だから加工しやすい動物ばかり狩られてバランスが崩れたとか?」
「そちらの調整は上手く行っております。不都合なのは危険で狩りやすい小さめの肉食獣を積極的に撲滅されまして。お陰で小さな草食動物の数が過剰に」
……犬耳ついてても人類か。米を食う雀を殺したら虫の大量発生で大飢饉みたいな真似を。
「耳がついても基礎で呪われてるのでしょうかね。ところで……こんな殺し合いの狩りに女が二人。このチームが珍しいんですか?」
「いいえ。コレらはご覧のように獣の要素を入れ生命体として強靭にしました。
ついでに活動が増すよう月のモノを軽くしたり色々。性差が人より少ないのです。
やはり男の方が筋肉の体積的に有利ですが、闘争力としてはフェムトマシンと上手に適合できるかの方が大事。
戦争だと女兵士が三割くらいの文化形態となります」
「女性も腹割かれてのた打ち回る危険を担っているのは結構な事で。一番嫌な仕事である兵隊は、出来る限り平等であるべきと思うんですよ。
なのに私の時代軍の扱いは酷い物がありましてねぇ。軍服でコンビニ行くだけで文句を言うヤカラが……あれ? んー……やはり」
この六人の顔……。傷で分かり難いけど骨格自体は。
「お気づきになりませんでした。として頂くのは如何でしょう……」
軽く懇願するような声色とは芸が細かい。と言うべきなのか。
「やはり偶々じゃないんですか。大分整った……崩れた所の少ない顔なのは」
「……はい。そのようにせよ。との命令が残っていましたので」
「そりゃ故意に不細工、デブ、ホモ、レズの方へ修正してたら精神病ですけど。
惑星再生というこの上無く重要な計画で態々人類を加え魔術使わせたり、美形化したり。立案した方々は真剣だったのかと」
無駄な拘りを増やすだけ本分が疎かになるのは物理法則並みの鉄則だろうに。
「人を、加えたのは多角的かつ深遠な理由がある……との判断も可能です。
魔術と美形化は……その……。浪漫と楽しさが欲しくなってしまったのでは無いでしょうか。実に殺伐とした末世でしたから」
「追い詰められて気が狂い見た夢がこの懐古趣味的な世界だと?」
「きょーーーれつ。強烈です。製作者たちが血涙で失血死するだろう物言い。
主よ。この千景は計画と人に忠実であるよう鎖でムッチムチに縛られているのです。馬鹿にすると処理が重くなるのです。ご配慮ください」
「私がはち切れそうな筋肉が好きなのを秘密にする配慮も欲しかったですよ。
本当に配慮が必要な時はそんな感じじゃなく分かりやすく言ってください……お。
ステゴサウルスをどうやって森から運ぶのかと思ったら。
内臓は即捨て。肉も……特に美味しい所だけ? で、皮と骨が大事ですか。
おや、随分慎重に心臓付近を処理してますが」
「あ、笑って下さって結構ですよ。魔石の採取とソレは名付けられています。実際はフェムトマシンの動作エネルギーが貯蔵された部位ですのに。
積極的に森で狩りをさせるためアレを電池代わりにする技術を伝えまして。までは良かったのですが。
近頃ジュンイチロウ・イズミという貴族が奴隷商人と組み繁栄し、より良い奴隷を求めて技術者を山ほど奴隷にして研究させ、息子の代に人骨へあの石を付けて動かす技術を見つけてしまったのです。
これが非常に不都合。イズミ家も調整必須項目ですわね」
―――。話を聞いた時から思ってはいたが。技術。社会の調整。つまり既得権益を捨てさせなきゃいけないはず。
この犬耳ちゃんたちは人に見えるけど、クーラー温度の強制を受け入れるのか? 人には不可能だった賢さがあるのだろうか? 無いとしたら……。
「まだ。貴方とだけ暮らし、彼らと殆ど接触せずに彼らを調整するか聞いてませんでしたね?」
「はい。そして今お考えの通りでしょう。殺します。
もし我が主が面倒を引き受けてくださるなら、支配者層が説得に快く応じるようになるまで。面倒なら文明が後退するまで。
手段はこれから調整し増やしていただく森の獣たちの氾濫。最重要目標は王都。その道すがらを含め最小で死者数一千万となる予定です」
「……疑問、なのですが。今まで見せて頂いた技術ならステゴサウルス相手に剣と魔法で戦うような相手、一蹴出来る兵器をお持ちでは?」
「この身を縛る規約の関連があります。加えて自分たちの支配存在が周知となれば変数が発生を。なので極力自然現象と思われるようにしたいのです。
それと
「―――私が彼らの社会に参加する方を選択したら結果が変わってしまうような」
「この国の不満分子を糾合すると申しました。内戦ですから関連して同程度の人数は死にます。加えて幾つかの貴族家と領地を更地にするよう願いますから」
「成程、ね。……この幸せそうな狩人たちみたいなのを一千万人ほどか。
確かに適正が要る仕事のようで。可愛いのを殺すのは罪。という考えじゃ厳しい。
しかしご存知でしょうか。私の居た社会では、自分の将来全てを捨てでも一人で生きていけない老人や障碍者を世話しないと重罰を受けたんですよ?」
「その罰を与える者たちは、己の親の世話を他人に押し付けられる者たち。でしたわね。存じております。この身の計算では星が滅んだ遠因の一つですから」
「きょーーーれつ。爽快なくらいです千景さん。しかし私に適性ねぇ。
六歳くらいの頃、家畜を食べた狼を殺し尽くそうとするカウボーイの話を読んで、牧場の人間を皆殺しにしたい。と、思ったのが片鱗でしょうか?」
「おや。どうやらこの身とだけ生涯共にする方を選んでくださったようですが。
良いのですか? 人にとって正常な環境ではありません。孤独感に苛まれるかも。
コレらに交じり英雄として社会を調整する方なら、少なくとも多くの者に褒められる喜びは味わえるでしょう。掛け値なし特別な英雄になれちゃいますよ?」
人の一種にしか見えない生物を殺しまくるより孤独の方が精神的に問題のような物言い。
なのにそれへ怒りや不満を感じてない、な。……本当に適正があるのかもねぇ。
踏み付けられ、酷使され続け何もかも奪われたら相手を殺すのではなく自分を殺す国に生まれ育った私が。
自殺するくらいなら投げ出して、たくさんある楽しい事をするよう勧めたい。と、思う程度は命を大切にしていたんだが。
せめて貯金を全部使い切るまでは勿体なくて死ねないだろ。と。
「貴方ほど理解してくれる相手が居て孤独を感じるとしたら、私の時代では自殺してますよ。軟弱過ぎて同情さえ貰えないでしょうね。
それと他者の褒め言葉は最高の毒。と、マトモな大人は知ってる社会でしたので。
『周りに特別な存在と認められたい』等という色んな意味での妄言は親に甘やかされ切ってる証明じゃないですか。流石に其処まで世の中を知らないままではないです。
ま、やれるだけやってみます。よろしくご指導ください」
自分より遥かに慎ましく生活してるであろう方々を皆殺しにするのは忸怩たる物もあるが……。
彼らはどう見ても人類。殺して止めるしかあるまい。
「お任せください我が主よ。
それでー。あのー。出来れば。我が主からご尊名をお聞かせ願いたく」
「あ。失礼しましたすみません。私の名前は矢間…………いえ。名は。ありません。
この名前は、母なる星を凌辱し尽くした考えが籠っているでしょう? 人権なんて詐欺用語を思い出しては事です。貴方がくれる職名か何かで呼んでください。
第一、二人しか居ないのに名前の意味なんて無いのでは。三人目との出会いがあれば名乗りますよ」
目を見開いて。どういう驚きなの。……痛々しかったかな? 『アホに使命を持たせたら』みたいな観察をしてる人が居るならさぞ笑い処なのは否めん……。
「我が主よ。何故恥を感じておられるのか理解致しかねます。
天晴……そう、これがジャパニーズ天晴という感情ですのね。この身は天晴なお覚悟に電流をまき散らして感動しております」
「……偶に仰る機械ジョークらしき何か、私受け答え困ります」
「慣れてください。人の最高の非常識能力は何でも慣れる事です。
では。職名をお伝えいたしましょう。貴方様は『調整者』
管理個体千景に選ばれし惑星再生計画の調整者です」
恭しく綺麗なお辞儀。『調整者』か。これまた厳つい名前で。余りに嘘臭い話だらけだが……。
自力で動かせる物だけを頼って動くのが大人というものさ。今は話の丸のみしか出来ん。
他人とか外の要因で幸せを目指す運頼みの寄生虫になるのは気が進まんしね。
お仕事を目の前に置かれたなら精々頑張るとしましょう。
「分かりました。名乗る必要がある時はそう名乗ります。
さて。今からドラゴンみたいなのを見せて頂けるんですよね。楽しみです。好きなんですよ。巨大爬虫類」
「あら。それは重畳ですわ。大きな生物はフェムトマシンの動作が非効率で、環境評価的に重く数は居ないのですが。
ティラノと呼ばれていた生物そっくりのも居ますの。お好きだと良いのですけど」
ま、マジ? ニワトリティラノじゃないよね? いや、ニワトリでも良い。しかし腐肉漁りな食性だったら……少し泣いちゃうかも。……身勝手な、望みだな。
しかし何にせよ会えるのか。ティラノ的なのに! ぬふっ。ぬふふふふふ。
「大好きです。……そうか。ティラノが生きる森を守るのが仕事か。
凄く。殺る気が出てきました。ティラノの為なら一千万人処理致しましょう」
話の全てが本当だとして、幾つかの予想と気に食わない事もあるが……ティラノを幸せに出来るなら。よろしい。そういう歯車になるのが夢でした。
せめて動物園で働きたいと思った時には進路変更出来ない歳なんだもんなー。
ひでー社会だったぜ。
「……。つい先ほどこの環境を無慈悲に貶しておられましたのに。と申しても?」
そうだね。そして遠慮してくれたのだろうけど、話の通りなら全部AIに作られてる訳で。片方を守るのだけはやる気が出るなんて酷く気色悪い話だね。
しかし現人類守る方がやる気出るよりは健全で害も少なかろうて。
「甘んじて受けます。所で。海中には首長竜が居たり?」
首長竜は思い出深い。初めてペットにしたいと思った生物だ。是非生で見たい。
「あ~。魚は選挙に行きませんでしょう? だから人類は最後まで海へ滅茶苦茶なさいまして。うんこ塗れの尻拭いで強靭な生物と植物の魔境となっております。
なので、確かに巨大な生物は居るのですが……海は千景の管理範囲外ですし近寄らないよう願います。食われます」
今までで一等真面目な顔。……うん、納得がある。私の時から海の扱いはヤバかった。
「はい。近寄りません」
「有難うございます。ではご期待である森のヌシをご覧いただきましょう」
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