2-2 仕えている神がとんでもない変態だった

(まさか、本当に修行のし直しになるなんてね……)


 イヴはミタ神を祀る神殿の前に立っていた。


 ご存じミタ神は『清潔』を司る神性であり、長くミタ神のみを信仰し続けてきた信者の集うこの建物は、『神殿通りストリート』の周囲の建物と比べても清潔感が段違いだ。


 たくさんいる神はそれぞれ信者に加護を与える。ミタ神のみを長く信仰し続けて、信仰ポイントが一定数たまると、『触れただけでものを清潔にする』という加護が手に入るのだ。


 くすみ一つない白い石でできた神像の真下をくぐり、神殿の扉を叩く。


 すると開いた扉の中から人差し指程度の丈のスカートのメイド服をまとった痴女が現れた。

 言わずもがなこのスカートという概念について哲学を強いる服装をした女性はミタ神を祀る神殿に詰めている神官であり、人差し指程度の丈のスカートのメイド服はこの神殿における正式な神官服である。


(…………ちょっと待って? ここで修行するっていうことは、私もアレを着るってこと!?)


 今さらながらに気付いたが、もう姉妹シスターが「距離を置いたあなたが戻ってきたということは、自分を見つめ直し終えたということですね。さ、どうぞ中へ」と招き始めていて、帰れない。


「えー、あの、姉妹……その…………ぐ、ぎ、ぎ…………」


「ぐぎぎ?」


「しゅ、しゅ………………しゅぎょ………………」


「しゅぎょ?」


「…………修行をやり直させてください!」


 仲間のために覚悟を決めてそう述べると、姉妹はにっこり微笑み、うなずいた。


「あなたの決意は、ミタ様も物陰からこっそりご覧になられていることでしょう」


 ミタ神は『物陰からこっそり真実をのぞき見る神』とも言われているので、これは定型句である。


「さっそくあなたのための神官服を用意しなければ」


「あの、私はそれ、なしということには……」


「まあ、姉妹イヴ……なんということを言うのでしょう。いかに信仰あつくとも、ミタ様は純潔なる者に加護を与える神なのですよ? 今のあなたの服装は、冒険者として必要な機能性があるというのは理解しますが……なんと申しますか……少し……神殿仕えをするには、痴態をさらしすぎていると思うのです」


「人差し指程度の丈のスカートのメイド服に言われたくないですが!!!!」


「姉妹イヴ、わたくしの格好をよくご覧なさい」


「胸の谷間! 下半身丸出し! 申し訳程度にシスターケープ! よく見た上で言ってます!」


「しかし、この神官服はパンツをはいています」


「……」


「あなたは、はいていない」


 なにも言い返せなかった。


 すさまじく鋭角な三角形の黒い布ではあるが、神官服にはたしかにパンツがある。

 一方でイヴは股間に魔物除けの符を貼っているだけだ。


「姉妹イヴ、理解しましたね? それでは、あなたも神殿での修行の最中ぐらい、貞淑な服装を心がけるのですよ」


「……いや、それを貞淑と言われるのはまったく納得がいきませんが! もっとスカート長くするとかないですか!?」


「まあ、伝統ある人差し指程度の丈のスカートになんたることを……! これは加護の都合上王族の住居の世話役に抜擢されることさえある我らが、お告げにより賜った神意からなる装束なのですよ。一般にも広く膾炙かいしゃし正式なメイド服のデザインはこの服装を見本にしているぐらいなのです。その素晴らしきデザインにケチをつけるなんて……ショックです……」


 ミタ神、処女厨の変態であり、えっちなメイドさんが好き。


 急速に後悔が押し寄せてきたが、ここまで来て帰ってしまうと、神殿と永遠の決別になりかねない。

 自己強化のために時間をとっているというのに、ここで神殿と決別してしまうと僧侶スキルが使えなくなってしまい、本末転倒だ。


 イヴは色々なものを堪えて謝罪し、修行に入ることになったのだった。

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