1-6新しい階層に挑戦する動機は人それぞれだ

「第六階層、行くか?」


 第五階層で足踏みしている期間もだいぶ長い。

 冒険者というのはあくまでも『稼業』なものだから、全員が全員、より深い階層を目指すわけではなかった。

 ただし深い階層に行くほど実入りがいいのも事実であり、冒険者はいつも『稼ぎ』と『安全性』のあいだで板挟みになり、このバランスがちょうどよくなる階層を探り続けることになる。


 イヴのパーティは第五階層に慣れてきていた。

 ゴーストハンドのような例外は別としても、安定して対応できるようになっており……


 退屈さを覚えるようになっていた。


 冒険者は新しい階層に辿り着くと『緊張期』に入る。

 そうしてしばらくして慣れてくると『安定期』に入り……

 さらに時間が経つと『退屈期』へ突入する。


 この『退屈期』というのが曲者で、この時期に入ると注意力が散漫になり、集中力は持続せず、失敗は増え、不真面目な者がその態度から真面目な者に怒られたりし、パーティ存続の危機となることもある。


 冒険者ギルドでもこの『三つの期間』については注意されており、『退屈期』に入ったパーティは一度冒険稼業から距離を置くか、新しい階層に挑戦することが推奨されていた。


 イヴはもとより一級の冒険者……ここらで使われる基準だと『二十階層級』を目指している。


 そこまで行くと『人類として優秀』という扱いになり、世界的に貴重な『男』を回してもらえる可能性が高まる。


 イヴの目標は『もとの世界に戻ること』だ。

 そのために『ダンジョンを見守るダイスの男神』を怒らせるべく、男をダンジョンに連れ込みたい。


 だからイヴは下層を目指す理由があったし……


「あたしはもう少し稼ぎたいな」


「……危険が足りてない。下へ……もっと下へ……」


「し、下へ行けばより多くの魔物を見れるんですよね……? イキたい……魔物、もっと多くの種類の魔物を、魔物魔物魔物魔物……!」


 全員、下層へ挑むことに反対はなさそうだった。


(……心強い仲間たちよね)


 イヴはパーティメンバーを見てうなずく。


 頼りになる前衛剣士のリーダー。

 冷静な魔法使い。

 ポーターを兼ねる錬金術師。


 リーダーは「もっと儲かればもっとうまいものを毎日食える……」とヨダレを垂らしている。

 魔法使いは「スリル、もっと危険を……ぐちゃぐちゃにされて……苗床でたくさんの魔物に……」と体を抱いて震えながら熱い息を吐いている。

 錬金術師は「ああ、新たな魔物新たな素材アイデアがふくらむもっともっと魔物魔物魔物魔物ォォォォォ!」と興奮している。


(………………心強い仲間たちよね!)


 人付き合いのコツは、見たくないところから適度に目を逸らすことだ。


 頼れる仲間たちと階段を下って次なる階層へ向かう。

 探索・戦闘においては頼れる。本当に頼れる。だからそれでいい。

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