手紙(3)
『優悟へ
この手紙を読んでるってことは俺はもうこの世にいないことだ。読まれるのを知って書いてるのはなんか緊張する。
まずはあの時は悪い。あの時ってガキの頃じゃない。
俺に気を遣って来なくていいって言ってた日のこと。俺、あの時すごい傷付いた。言い返してやったけど、後々謝れば良かったって思う。今更、ずるずる引き摺るのも無意味だけどさ。
正直、色々あって悩んでいたのも原因なんだ。
進学したい学校があっても、弟や妹たちのためを考えると、就職がしたほうがいいらしいんだ。母ちゃんと親父には将来のことで悩まなくていいって言われてんだけどさ。弟や妹たちには進みたい道に進んでほしいって思ってる。
もう一つの悩みは優悟以外にも移植が待っている人がいるって考えるんだ。もしものことがあったら、臓器提供出来たらなって思ってる。17になっても年齢的に未成年。意思表示だけじゃ無理そうだから、母ちゃんと親父に話したんだ。
親父に怒鳴られたし、やっぱり喧嘩になった。母ちゃんには泣かれてさ。何度も何度も話した結果、なんとか意思を分かってもらえた。俺の気持ちを一番に考えるって言ってくれた。
俺、決めたんだ。誰かのために生きたいってさ。この手紙が読まれてるってことは誰かのためになったってことかもしれない。
知らない人に臓器が渡ってもいいけど、優悟だったら笑えるわ。
臓器提供者とドナーの関係って秘密なんだったっけ。まあ、いいか。
もし、優悟に行き渡ったんなら、後悔せず俺のために生きてほしい。生きたくなかったなんて思ったら許さないからな。あの世から叱ってやる。
それともう一つ。俺の彼女の遥をよろしく。俺の代わりに一緒にいて守ってほしい。俺からの頼みは以上。
今までありがとう。さようなら。
ベストフレンド 陽輔より』
自然と目から雫が流れる。ぽたぽたと手紙を濡らしていくのが分かる。
陽輔は人に優しいお調子者かと思っていた。だが、違った。優しいのは優しい。度がすぎるくらいに優しすぎるやつだったんだ。
こんなやつだとは思っていなかった。いや、分かろうとしていなかっただけなのかもしれない。
優しくても最後のほうは文字が歪んでいる。相当な覚悟を決めて書いたことがひしひしと伝わってきた。
移植手術をして、陽輔の臓器をもらって後悔している自分が恥ずかしいとさえ思ってしまう。
俺は、生きなきゃいけない。
「優悟くん?」
「優悟?」
遥さんと母さんの声が耳に届くが、顔を上げられなかった。涙を拭って俺は落ち着こうとする。涙は止まっても心はまだ落ち着けなかった。親友である陽輔の手紙を読んで落ち着けるわけがない。
気持ちを知ったら尚更だ。俺は椅子から腰を上げ、立ち上がると二人に言葉を残して洗面所へと向かった。
顔を洗って目を覚そう、そう思ったんだ。
洗面に着くと、蛇口を捻り水を出す。軽く顔を洗って顔を上げ鏡に映る自分の顔を見つめる。よく見ると、目元が赤くなって腫れていた。
そうなるほどまでに俺は泣いていたことに気付く。
ふと、長袖服の胸元から手術痕がちらっと見えた。小さい頃から病気に悩まされ何度も手術した。それだけじゃない。
移植して、この胸に今は亡き親友の臓器がある。俺が生きている証拠でもあり、生きなきゃいけないという事実があった。
「陽輔、ありがとう。俺はお前のために生きる」
誰にいうわけでもなく、自然と言葉が溢れた。胸に手を当て、鼓動を感じる。生きている音。
俺は新たな決意をすると、向き合うために俺は洗面所を後にした。
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