真実

 外の空気は気持ちが良い。

 ずっと病院から出られない状態だったのが懐かしいくらいだ。最近までは管が繋がれていた。今は点滴すらない。健康体といってもいいぐらい調子がいい。

 病気だった頃は身体的にも精神的にも色々あり過ぎて心が押し潰されそうだった。今の状態が嘘のようだ。

「そういえば、君は陽輔くんと仲が良かったね」

 唐突に三ツ橋先生は言葉を発した。なぜ、そんなことを言うんだろうと思った。

「はい」

 返事以外の言葉は出なかった。

 陽輔を怒らせてしまったのは俺の言葉のせいだ。そのことを言ってしまえば、罪悪感が募ってきてしまうと感じた。恐らく、逃げたいんだ。

 三ツ橋先生は何も言わない。

 ふと、三ツ橋先生に顔を向けると、どこか遠くを見つめているような表情をしていた。その表情は哀愁が漂っているようにも見える。

 陽輔について何か知っている、そんな予感が過ぎる。

「陽輔のこと、何か、」

 陽輔のことを聞こうとした瞬間だった。

 不意に着信音が聞こえた。どうやら、三ツ橋先生にらしい。

『三ツ橋先生、どこにいるんですか! 至急、来てください』

 慌てる様子の看護師の大声が聞こえてくる。俺でも分かるくらいに焦っている様子だ。

 三ツ橋先生は看護師に応えた後、直ぐに駆け出そうとするが、一度振り返って言葉を発する。

「悪い、病院に戻って、またあとで話そう。陽輔くんのことで大事な話があるんだ」

 言葉を最後に俺たちは病院に戻った。



 病室に辿り着くと、ある人物がぽつんと立っていた。久しぶりに見る彼女はどこか寂しそうにしているように見える。

「遥さん」

 俺はそっと声を掛ける。遥さんはどこか辛そうにしながらも笑う。引き攣っている顔が無理をしているように見えた。

「優悟くん、話があるの。陽輔くんのことで、」

 遥さんは話を切り出した。俺はじっと耳を傾ける。


 夏休みの間、陽輔は学校の他の人たちと海に出掛けたらしい。海に来る人は少なくない。

 そこで、陽輔は溺れかけている子どもを真っ先に見つけて助けようと海に飛び込んだらしい。

 子どもは助かったものの陽輔は意識不明の末、亡くなったという。

 海に行く数日前、遥さんと陽輔は二人で会って買い物をしたり、映画に行ったり、色々楽しんだらしい。所謂、デートってやつだ。それを聞いて仲直りしたんだと思った。

 一方で俺は不思議に思った。ここ最近、陽輔はアルバイトで忙しい毎日を送っていたはずだ、と。夏休みは学校が休みでアルバイトのシフトを多く入れるはずだと思っていた。実際は違った。

 遥さんと会って楽しんでいたり、学校の人と海に行ったり、病院には来ずに日々を過ごしていた。

 何かあったんだろうか。

 疑問に答えるように、遥さんは口を開いた。

「あのね、私と出掛けている時、陽輔くんの様子がいつもと違って見えたの。楽しんでいるようで、時々辛そうな感じがしてたの。もしかして、何か悩みでもあったんじゃないかな……」

 悩みか。おそらく、悩みの原因に俺とのこともあったのかもしれない。そう思うと、直ぐに謝っておけばよかったと後悔が募ってきた。

「優悟くん、何か知ってたりするかな?」

「俺にも原因が、」

 遥さんの質問に答えようとした時、ちょうど三ツ橋先生が入ってきた。俺たちはほぼ同時に振り向く。三ツ橋先生は雰囲気に何かを察したような表情で立ち止まっている。

「陽輔くんのこと聞いたんだね」

 俺は合図するように軽く頷いた。

 それから、三ツ橋先生と遥さんと三人で懐かしい話をした。陽輔がいた時のことを。

 時間を忘れるような感覚に陥るほど、浸るように話をした。時々、遥さんは面白い陽輔を思い出したのか、笑っていた。

 ただ、三ツ橋先生は違った。所々、泣きそうな表情をしていた。俺たちには知らない何か・・があるような気がしたんだ。

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