出会い(1)

 俺がまだ小学生の頃、入退院を繰り返して学校に馴染めないまま俺に声を掛けてくれたのがあいつだった。本当ならば、俺は運動することを禁止されていた。すぐに発作が出て病院に運ばれてしまうからだ。

 それでも、あの時初めて声を掛けてくれたことが嬉しかった。運動するなって言われても実際は体を動かしたかったんだと思う。


   *


「ねぇ、優悟くんも一緒に遊ぼうよ。サッカー好き?」

 にこりと笑う陽輔は太陽みたいに眩しかった。たくさん友人がいたし、きっと人気者だからだ。

 その理由は誰にでも優しい性格にある。いつも明るくて人を惹きつける何かがあるんじゃないかとも思う。

「サッカーが好きじゃなかったら、ドッジボールとか鬼ごっことか、他の遊びでもいいよ」

 無言になってしまうわけでも、そっぽを向いてどっかに行くわけでもなく、俺の好みに合わせてくれる。

「サッカーやったことがないんだ」

「え、そうなの? じゃあやろうよ! 楽しいよ」

 陽輔は目を丸くして驚いた。スポーツ自体ほとんどやってないと言えば珍しい目で見てくるはずだと思い、口に出すことが出来なかった。

 誘いを断ることが出来なくて、結局はサッカーをやることにした。本当はサッカーをやってみたい気持ちが大きかったのかもしれない。苦しくなることなど忘れていたんだ。


「優悟くん!」

 当然、息が苦しくなって胸が痛んだ。胸を抑えて痛みを必死に耐えた。それでも耐えることが出来ず、いつの間にか視界が暗くなっていった。

 気が付いた時には、病院のベッドの上だった。目が覚めると、真っ先に目に入ったのは天井じゃなかった。母さんと父さんに不安な目で見られていた。直ぐに身体を起こした。

「優悟! あれほど、運動はするなと言ったはずだぞ」

 父さんが低い声で怒鳴った。言葉の通り、運動はしてはいけないと言われている。

 父さんと母さんとも約束をしていた。絶対に運動はしないとも誓った。それを平気で破ってしまった。

 当然、父さんは大きな声で怒鳴り散らす。それでも謝らなかった。運動しないと誓ったけど、一度でもいいからスポーツをしてみたかったんだ。

「優悟の父ちゃん、ごめんなさい。サッカーやろうって誘ったの僕なんだ。優悟くんは悪くない。僕が悪いんだ」

 陽輔が不意に言葉を発した。俺と父さん、母さんは驚いてほぼ同時に振り向いた。

「陽輔は悪くない! 誘いが断らなかったのが、」

 大きな声で否定した直後、胸が痛くなった。こんな時に発作が出るなんて……。身体が弱すぎる。悔しい。苦しくて思わず胸を抑えた。

「優悟!」

「優悟くん!」

 呼ぶ声もだんだんと遠くなって気付いたら意識が遠のいていった。



 走ったことが原因で、長い入院生活をすることになった。なぜ、体が弱いんだろう。そんなことを考えても分からない。分かるのはただ一つ。一生、この病気と闘わなきゃいけないかもしれないってこと。

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