降霊術

覧都

第1話 やってはいけない降霊術

 現在、公園の中央にある一本の木について話し合われている。

 いつ誰が種を植えたのか分からない巨木についてである。

 太く育った巨木は、こんな所にあっては邪魔以外の何物でも無い。

 そしていざ切る日になると。


「この地には不思議な力がある。恐れ多いことはしない方が良い」


 近所のおばあさんが、どこからとも無くやって来て、切り倒そうとする業者に訴えかけるのだ。

 おばあさんが亡くなってからは、切ろうとするたびに業者がケガをしたり、交通事故を起こしたり良くないことが続いた。

 結局今もその木はそのまま残っている。

 



 昭和の時代、ここには神社があったと言われている。

 ベッドタウンとして開発が進んだとき、地元民の反対を押し切って、神社を移転させたのである。

 神社は無くなったが、この場所には立派なご神木が有り、その時も切る、切らないで大きくもめたのだ。


 そしてその時は木を切り倒したのだ。

 チェーンソーの刃が入ると、血のような赤い樹液があたりに飛び散ったと言われている。

 こんな場所だから、地元の人間はこの地を恐れていた。

 だが、開発の波はこの空き地を放置できなかった。


 はじめこの場所には集合住宅が建ったのだが、深夜に原因不明の出火で全焼し何人も死者が出た。

 しばらく放置されたのだが、大きなマンションの建設工事が始まった。だが、その建設工事は事故続きで何人も死者が出た。そのため建設が断念されるという、曰く付きの場所となった。


 ずっと空き地になっていたが、いつからか公園になっている。


「美代! はやく来なさいよー」


 その公園に四人の少女がやってきた。

 美代と呼ばれた少女は、美しい長い黒髪の少女だった。

 その少女は、他の少女のカバンを全部持たされ少し遅れて歩いている。

 体には無数のあざがあり、教科書には酷い落書きもある。


「あんな子はほっといて、私達で始めましょう」


 美代以外の三人は、公園の片隅の休憩スペースの机に、一枚の紙を置いた。

 その紙はコックリさんの降霊術に使う為のものだった。

 美代はそれを見て、ビックリした。そして美代の体は震えが止まらなくなった。


(この人達はここがどういう場所か知らないのだわ)

 ずっと代々この地に住んでいる美代は、祖母からこの場所で遊ばないよう、口が酸っぱくなるほど言われてきた。


「コックリさん、コックリさん……」


 三人は無邪気に、降霊の呪文を口にしていた。

 その時、ざざざざーー、公園の生け垣が風も無いのに鳴った。

 美代の体は驚きの余り少し飛び上がった。

 だが三人の少女はまるで気が付いていなかった。


「クラスの男子で、私達のことを好きな人を教えて下さい」


 質問は無邪気なものだった。

 美代は、この三人から陰湿ないじめを受けていた。

 毎日続くこの拷問は、美代の心を蝕んでいた。


(もう耐えられない、死にたい。私が死んだら誰か罰を与えて下さい)

 

 美代は最近強く心に思っていた。


「うわー!」

「すごーい!」

「うごいたー!」


 三人は喜んでいた。

 三人は人差し指で、十円硬貨を押さえている。

 それが、つつーと動いたのだ。

 この降霊術は、紙に書いた文字の上に、指で押さえた硬貨がひとりでに動くという降霊術なのだ。


 コックリさんと呼んで近くの力を取り込む降霊術は、時に強い力が呼ばれてしまうので、おそろしい降霊術の一つなのである。


「ねえ、誰か動かしていないよね」


 三人のリーダー的存在、美加が質問する。

 残りの二人が首を全力で振る。

 何か得体のしれない物の存在を感じ、三人は熱くも無いのに汗が吹き出していた。


 後ろで美代は、手を口に当て悲鳴を押し殺していた。

 十円硬貨が動いた時、少し悲鳴が上がってしまったのだ。

 最早、全身がガタガタ震えている。


「こ」


 美加が恐る恐る言った。


「い」


「きゃー、恋だって」


 この二文字で三人の緊張は解けて無くなってしまった。


「つ」


「ら」


「で」


「ねーー、つらで、って誰のことかな」


「津田君じゃ無い」


「そうね、きっとそうよ」


「い」


「い」


「井伊君だわ」


 井伊君と言うのはクラスで一番人気の男子だった。

 三人のテンションは上がった。


「の」


「か」


「きっと野田君だわ」


 美加はわざとらしく、はしゃぐように喜んでいた。


「はい」


 美代は無表情で何者かの呼びかけに返事をしていた。


「きゃー! 美代―、あんた何で急に声を出しているのよ」


 背後からの「はい」と言う美代の返事に三人は大げさに驚いていた。

 何者かの得体の知れない気配を感じ、三人は恐怖を強く感じているようだった。


 三人は手元を見て驚いた。

 十円硬貨が勝手に素早く動き、三人の指の下から飛んでいった。

 

 この降霊術には、大きなルールがある。

 降霊術が終るまでは決して硬貨から、指を離してはならないと……。


「きゃー!」


 三人は悲鳴を上げると、すごい勢いで走り出した。

 まるで何かに後ろを押されている様に。


 キー!!

 ドンッ


 公園から飛び出すと、三人は道路を走っていたトラックの前に飛び出していた。




 美代はいじめから解放されると、公園の中央に感謝の気持ちを込めて森で拾った木の種を埋めた。

 その種は異常なほどの成長を見せ、数年で巨木に育った。

 それは、この地に何か不思議な力があることを訴えているかのようだった。

 神社は移ったが、不思議な力はまだこの地に残ったままなのだろう。

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降霊術 覧都 @runmiyako

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