引きこもって2年目

白城香恋

引きこもりだぜっ!

「なんかあいつ、キモくね?」


 その言葉がどこかから聞こえてきたときから、ボクは引きこもりになった。

 外に出たくなかった。

 仲間と顔を合わせたくなかった。

 でも別に引きこもりでも問題なかった。


 家族は、最初は具合悪いと思っていたらしく、心配してくれていたが、家でずっとゴロゴロして、食っちゃ寝食っちゃ寝しているボクをだんだん叱りつけるようになった。


「もっと運動しなさい」「外に出て外の空気を吸ってきなさい」


 いつもお小言を言ってくる。


 でもボクは聞こえないふりをしていた。

 それでも問題なかった。



 引きこもり2年目。


「そんなにずっと引きこもってたら人生終わっちゃうよ?」


 家族(?)にそんなことを言われてきていたボクにも青春が来た。

 ―――あの人以外は。


 あの人…家族の中では妹という立場。


 あの華奢な体、猫のように大きな目、いつも風になびいているサラサラな黒髪、揺れるセーラー服のリボン…。

 そして何より、あの人はいつも優しかった。

 いつもボクのことを気にかけてくれる。


 そしていつからだろうか、あの人と話すたびに心臓の鼓動が早くなって、飛び出してしまいそうになって、頭が真っ白になって…。


 これが”恋”っていうやつらしい。


 そう気づいてしまったら気持ちは膨らむばかりだ。

 家族の中での”恋”は許されないらしい。でも…

 伝えたい、伝えたい、伝えたい…。


 けれど出来なかった。伝えられなかった。

 いつも、喉まで出かかっていた”好き”の2文字はいつも声にならなかった。

 それを伝えるためなら、引きこもりをやめてもいいとすら思っていた。



 ある日、ボクは窓から外を見ていた。

 するとちょうどその時、あの人が学校から帰ってくるのが見えた。


 一人じゃなかった。


 血の気が引いていく。

 あの人を見たときとは全く違う感覚で、心臓が飛び出しそうだった。


 あの人の隣に…ずっとボクの場所だと思っていたあの人の隣に他の男が立っていた。

 並んで歩いていた。

 家の前までつくとあの人とその男は抱き合った。


 …ああ、そうか。

 あの人には想い人がいたのか。


 ボクではない、他の男のことをずっと想っていたのか。

 ボクのことなんて何とも想ってなかったのか。


 ”なんかあいつ、キモくね?”

 そう言われたときの何倍も、何千倍もの衝撃が襲ってくる。



 ボクはそれからも引き続き引きこもりだった。

 それでも別に問題はなかった。


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引きこもって2年目 白城香恋 @kako_00

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