第29話 地割れ

 その日、城塞都市は揺れた。


 領主の嫡男がやらかして領主一家が没落する事になって、領民や出入りする者達の心は不安に揺れていたが、大地が揺れるという物理的な揺れに見舞われていた。


「やっと姫様をお迎えに参れる用意が整いましたのに…嫌なタイミングです」


 王女付き筆頭侍女のアイネは、激しい縦揺れに身を屈めた。


「この辺りで地揺れの話を聞いたことはなかったが…アイネ、大丈夫か?」

「ええ」


 町の地面に大きな亀裂が走り、倒壊した家屋から土埃が巻き上る。中には料理でもしていたのか、黒煙が上つているものも見受けられる。


「これは…いったい?」

「原因は分からないな。だが、この亀裂…空堀まで続いている」

「まさか」


 揺れが収まる。

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