第9話『コクコク頷くシグマ』
泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
9『コクコク頷くシグマ』
だれかにハメられたか!?
そう思いついた時、背後でカサリと人の気配がした。
尻の穴がキュっとなって逃げ出したくなった。
根性無しの俺は、瞬間の妄想で反射的に逃げ腰だ。
「あ、先輩!」
グゥアーーーン!!
声でシグマと知れたが、逃げ腰の勢いで階段室の鉄の扉に思いっきりぶつかってしまった。
「ツーーーーーーーッ!」
「大丈夫ですか!」
顔からぶつかったようで、オデコと鼻がめっぽう痛い。
反射的に押えた手には、ヌルッと生暖かい感触がした。
「あ、先輩!」
シグマは、すぐにハンカチを出して俺の顔にあてがってくれる。
オデコと鼻は痛いんだけど、至近距離に寄って来たシグマからは、ソープだかシャンプーだかのいい匂いがする。
こういう匂いは妹の小菊もするんだけど、絶対的に違う。
うまく言えないけど、小菊のは臭いで、シグマは匂いだ。
堂本からは不評のΣ口も間近で見ると、心配からだろう小さく開いてなかなか可愛い。なまじ媚びて作った表情じゃないので(なんたって、俺のω口といっしょで、本人にはウィークポイントなんだから)ナチュラルな可愛さを感じてしまう。
分類の仕方によってはアヒル口だな……アルファベット三文字のアイドルグループに、こういうのが居たが評価は極端に分かれていたっけ……なにより本人が嫌いっていうか、表情の活かし方を知らない。
知っていたら、このΣ口は武器になるぞ。最終兵器Σ!とかな……それにシグマの肌は潤いがあって雪のように白く、白の内側からポッと赤みがさしていて、祖父ちゃん言うところの羽二重肌(はぶたえはだ)だ。
先輩?
気づくと、じっくり観察なんかしてしまって、目と鼻の先のシグマの顔にうろたえる。
「あ、すまん(;'∀')」
「ごめんなさい、ビックリさせてしまって……」
「いや、勝手に驚いたのは俺だから」
「あの、こっち来てもらっていいですか? ここだと本館の四階から丸見えなもんで」
アッ!?
そうなんだ、別館は敷地の端っこで、あまり人の目は刺さないが、中庭挟んだ本館からは見えてしまう。
それを考えて、シグマは人目が刺さない階段室の向こう側で待っていたんだ。
「あ、あの……これ、ハワイのお土産です」
シグマは通学カバンからマカダミアナッツチョコの箱を出して差し出した。
「あ、いいのに、観光じゃないんだし。あ、お祖母ちゃんどうだった?」
「着いたら、もうピンピンしてました。心臓の発作で、周囲の人たちがビックリして日本まで電話してきたみたいで、でも、お祖母ちゃん喜んでたし、お祖母ちゃん孝行できて結果オーライだったと……いや、先輩にはつまんない用事頼んでしまって、すみませんでした」
ペコリと頭を下げるシグマ。
「そうだ、これ約束の……」
気を使って単に「これ」とだけ言ったが、シグマは一瞬で顔が真っ赤になった。
「あ、ありがとうございました(*≧o≦*)!」
それだけ言うと、ふんだくるようにしてゲームの入った袋をとって階段室に飛び込んだ。
「あ、あの!」
呼び止めると、俺は階段の上、シグマは踊り場という構図になった。
「は、はひ(;'∀')」
まるで警察の職質にあったみたいに、シグマは振り返った。
「えと、ハンカチ」
差し出したハンカチは鼻血で染まっていた。
「あ、洗ってから……いや、新しいの買って返すよ」
「あ、いいんです、そんなハンカチ(#'∀'#)」
クルリと向き直って階段を下りようとする。
「じゃ、なくって! えと……そのゲームコンプリートしたら、貸してもらえないかな!」
シグマに恥ずかしい思いをさせちゃいけないのとノリスケの言葉がごっちゃになって口走ってしまった。
「え!? え、え、えと、えと……」
突然の申し出に頭も口も付いてこないシグマ。
「連絡とかしたいから、番号の交換とか……」
そう言うと、目を白黒させながらコクコクと頷くシグマだった。
☆彡 主な登場人物
妻鹿雄一(オメガ) 高校二年
百地 (シグマ) 高校一年
妻鹿小菊 中三 オメガの妹
ノリスケ 高校二年 雄一の数少ない友だち
ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
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