第7話  迷い

翌日、タケルとナオが付き合っていると言う話しが学校中に広まっていた。

 2人が一緒にいるのを見かけた誰かが噂を広めたのだろう。

 無理もない。

 飛ぶ鳥落とす勢いのバスケ部の次期エースであり、美男子であるタケルとミステリアスな才女として知られるナオが付き合ってるとなれば世間でどんなスキャンダルが起きようと敵うものではない。

 しかし、敢えて否定しようとはしなかった。

 2人の心が繋がったことは紛れもない事実であったから。

 2人は、常に一緒にいた。

 教室の中でも、昼食の時も、部活帰りも。

 学校内で2人がいない時を見つける方が逆に難しかったし、2人自身が自分達が離れなければいけない理由を見つけることが出来なかった。

 ソウルメイトと言う言葉がある。

 魂同士が繋がりあった伴侶のことを言うと何かの本で読んだ。

 確かにそうなのかもしれない。

 しかし、もし自分たちがソウルメイトならこれは祝福でなく呪いだろうと2人は思った。

 なぜなら、どんなに魂が結びつこうとも2人の身体が結びつくことはないのだ。

 手に触れるだけで肌が粟立つ。

 唇が触れ合うだけで嫌悪感に吐き気がする。

 行為に及ぶことを考えるだけで気持ち悪すぎて涙が出る。

 これが呪いでなくてなんだと言うのだろう。

 こんなにもお互いの存在を求めているのに触れることすら出来ないのだ。

 俺達が何をしたと言うのだ。

 私達が何をしたって言うの?

 2人は、苦しみ、自問自答し、それでも離れることは出来なかった。

 そんなことは考えもしなかった。

 もし、姿の見えない何かが自分たちを引き裂こうと、呪い潰そうとしているのなら、徹底的に足掻いてやる!

 そして出会ってから10年目、2人は籍を入れたのだ。


 病院から解放されたタケルとナオは、家に戻ると朝の約束通り作り置きの惣菜を食べ、風呂に入り、お互いの寝室で眠った。

「私たちってやっぱり間違ってるのかな?」

 ナオの放った言葉をタケルは、違うと否定した。

 しかし、内心では悩んでいた。

 俺たちは、ずっと努力してきた。 

 それこそ普通と変わらない人生を送る為に。

 運命に嘲笑されないよう、したい仕事に就いた。タケルなどは個人で行う仕事だから異性にも同性にもそこまで振り回されないが、ナオは、同性の刺激があまりに強い仕事だ。自分が進めたのも確かにあるかもしれない。しかし、今日まで歩んでこれたのは彼女の持って生まれた強さと努力だ。

 性欲に関しては逆に縛らずに自由にすることにした。心を満たす最愛の相手がいるのだ。ただの処理と割り切り、それだけの関係になるよう努めた。そうすることで今まで悩んでいたことが馬鹿馬鹿しくなり、前を向くことが出来た。最初は、そう言う商売の人たちに金を払ってお願いしていたが、欲が出てしまい、誘いあって見つけた。それでも自分たちなら上手くやれると思っていた。

 しかし、やはり人間に絶対はない。

 人と付き合えば欲だけでなく、感情も付いてくる。

 生きたいように生きるには、運命に抗うには代償が必要なのだ。

 タケルは、英国紳士を思い出す。

 もう、彼に会うことはないだろう。

 メッセージもいつの間にか拒否されていた。

 彼には酷いことをした。

 彼の純情な思いを泥に捨てた。

 彼の悲壮な顔が脳裏に焼き付く。

 彼には俺たちの考えなど理解出来ないだろう。

 俺たちは、誰にも理解されないのだろうか?

 思考に耽ると必ずはまってしまう論理。

 誰にも理解されない俺たちは間違っているのか?悪なのか?

 タケルは、答えの出ない迷路に迷い込んでしまった。

              

                 つづく

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