Episode.10 ユア・バースデー①

 ———6月25日。

「今日が何の日か知ってる?」

 今日の授業が終わり、さあ帰ろうという所で、不意にノアがリームに聞いてきた。

「ああ、知ってるよ」

 ノアはワクワクしながら返事を待っていたが、リームが口にしたのは意外な回答だった。

「『指定自動車教習所の日』だろ?」

「何それ!?」

「指定自動車教習所の日」とは、指定自動車教習所制度が導入された日にちなんで制定されたものである。しかしここは自動車の概念のない異世界、ノアにとっては二重の意味で意味不明なものだった。

「冗談だよ。誕生日おめでとう」

 意外にあっさり祝ってくれたので、ノアは面食らって「あっありがとう……」とだけ返した。

 そう、今日はノアの誕生日なのだ。これは「EpisodeEX.1 『ヒロインズ・プロフィール」にも記載されている事なので、是非見返して欲しい。


「じゃあおれ用事あるから」

 リームはそういうと荷物をまとめ、そそくさと教室から出て行ってしまった。

 やけに淡白だとノアは思った。いやリームだけではない。自分の友達が、今日は何だか妙に自分を避けている気がする。

 気になり出したノアは、リームの事をつけてみる事にした。

 教室から見える正門をリームが通過するのを見て、尾行を開始した。

 つかず離れずで、ノアはリームから10m離れてつけていった。

 リームが歩いているのは、学生寮とはまったくの正反対の道である。何か買い物して帰るのかと思っていたが、そもそもリームはほとんど買い物はしない。学食と学校内で買えるレトルトカレーで朝昼晩を済ませてしまうのである。

 不意にリームが角で曲がったので、ノアは慌てて彼女が曲がった裏通りに行ってみた。

 すると、リームの姿はどこにも見えなかった。文字通り、影も形もなかったのだ。

 もしかしたら自分の取り越し苦労だったかも知れないと思い、ノアは自分の部屋へ帰る事にした。


 ———「『煙魔法 煙遁えんとん 煙撒けむまき

 その数秒前、リームはサベーラの魔法によって、ノアを文字通り煙に巻いた。

「危ねェ、助かったよ。サベーラ」

 リームは素直にお礼を言った。

「ふふ、私への恋文メールが役に立った様だな」

 はは、Episode.7以来の登場だから張り切ってるな……とリームは思ったが、あえて言わなかった。

「それで、の方は滞りなくできてるか?」

 リームはサベーラに聞く。

「ああ、飾り付けにプレゼント、それにリハーサルもな。後は予約してたケーキを持ち帰れば完了だ!」

 サベーラはサムズアップして答えた。

「一週間前から計画してんだ。みんなで絶対成功させるぞ。ノアの誕生サプライズパーティー!」

「おー!」

 二人は拳を上に突き出して叫んだ。


 ———1週間前———

「ノアの誕生サプライズパーティー!?」

「しーっ声が大きい!」

 その日、リームは一人でいた所を3人の女子グループに拉致され、彼女達の計画を知らされた。

 とりあえず一週間、バレない様に準備をする事、本人が誕生日の事を話題に出したら、なあなあにごまかす事などである。

「それで、それがおれとどう関係があるんだ?」

 リームがそう聞くと、明るい茶髪の虎の獣人少女が口を開いた。

「そういう詳しい事はジャミラが伝えるにゃ」

 それを受けて黒髪の魔族少女も言う。

「このパーティーも、この事をリームに話すのを決めたのも、全部ジャミラだからな」

 そのジャミラと呼ばれた少女が話を続ける。

「そうそう。ノアと一番仲がいいのがリームだし、部屋も隣同士、だからこっち側に引き入れておけば多少うるさくしても大丈夫かなって思ってね」

 確かに論理的だとリームは思ったが、ある疑問を呈した。

「場所はどうするんだ? ノアの部屋に忍び込んで準備するのか?」

 3人は黙ってしまった。考えてなかったのか……。

「よし……」リームは決心した。

「おれの部屋でやればいい。防音機能を施してあるから、多少の物音なら文句は言われない。みんなで最高させようぜ。サプライズパーティーを!」

 その返答に3人の顔は明るくなった。ありがとうありがとうと3人共口々に言った。


「ところでさ……」

 リームが口を開く。

「?」

「キミ達の名前って、何で言うんだ?」

 思わぬ質問に、3人はずっこけた。


「私は『アム・スノーフィールド』にゃ。固有魔法は『雪』にゃ。よろしくにゃ」

 さっきの虎の獣人少女である。

 続いて魔族少女が口を開く。

「私は『アヤセ・ボルテック』だ。固有魔法は『岩』。よろしく。それで彼女が……」

「『ジャミール・ラプラー』。よろしく」

 どうやら彼女がリーダーみたいだ。

 一通り自己紹介が終わり、早速準備に取り掛かる事にした。

 色とりどりの紙を輪っかにしてつなげて飾ったり、風船で飾りつけをしたり、万国旗(この世界の)を飾ったり……。

 間もなく人手が足りなくなったので、リームは頼んだら必ず手伝ってくれる「友達」を応援に呼ぶ事にした。

「友達?」

 間もなく、その友達がやって来た。

「まさか……、リームが私を頼ってくれるとはな……フフ……」

 それはサベーラだった。

「来てくれてありがとうな。早速だが花の飾りつけを手伝ってくれ」

 まさか「究極の女性」を連れて来るとは思わなかったので、3人は驚いた。

「まさかサベーラさんとは……」

「まあ、多少所はあるけど、いい奴だぞ」

「思いが……?」

 ともかく新たなメンバーも増え、準備も捗ってきた。それぞれ誕生日プレゼントを買った。ケーキの予約もした。後は店から誕生ケーキを持ってくるだけだった。



「スポンジにクリームが塗ってあって、その上にイチゴが乗ったオーソドックスなケーキだ。ろうそくは年の数の16本ある」

 リームはサベーラにケーキの特徴を話す。ケーキを取ってくるのは二人の役目なのだ。

 リームとサベーラは、早速店に行って事を話し、ケーキを手に入れた。

 後はこのケーキを持っていくだけである。

 しかし、そう上手くはいかないのが人生である。

 ケーキを持って帰るだけでも、また更なるトラブルが起こる事を、二人は知らなかった。



 ————————————————————

 読んで下さりありがとうございました。よろしければPV、フォロー、レビューの方をよろしくお願い致します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る