Episode.4 ビルド・マジック

「畜生ォ! 地方貴族のクセに! てめェ自分が何やってんのかわかってんのか!?もはやお前は犯罪者、これはな……『国家反逆罪』だぞ!」

「御託はいい。もっと見せろ……! お前の魔法!」

 バドの文句をリームは一蹴した。

「おれの魔力量は『1000』だ! 王家にもこんな魔力量持ってる奴はそうそういねェ! このおれが……敗けるわけがないんだよ! くそォー! 倒れろォー!」

 バドの攻撃をリームはバリアでた易く防いだ。

「もうお前の魔法は見せて貰った。これで最後だ……『創造炎雷魔法』……」

 リームが再び魔法を構えた。

「『炎砲えんぽう自雷じらい!』」

 リームは再び魔法陣を展開し、そこから火炎と電撃合わせた魔法を放射した。

「ぐあァー!」

 バドは、もはやなすすべもなく食らった。

「そもそもお前……何でそんなに強ェんだよ……!」

 バドはリームにそう聞いた。

「お前自分の魔力量を1000って言ったな?」

「……?」

「おれの魔力量は10だ。相手が悪かったな。」

 その事実に絶望したのか、バドはガクッと気を失った。

 しかし、魔力量10万というのは便利なだけではない。多ければ多いで日常生活に支障をきたす事がある。

 例えるなら、小さい軽トラと大型トラックのどちらが運転しやすいかという話である。馬力も容量も大型トラックの方が上だが、「制御しやすさ」なら軽トラの方に軍配が上がる。

 魔力量も同様で、あまりに多いと逆に人間では制御しづらくなるのである。

 制御しづらくなると、魔力の暴発が起こりやすくなる。当然魔力10万という莫大なエネルギーを蓄えているのなら、戦いの時ならまだしも日常生活がなおさら危険になってくる。

 それを防ぐ為にリームが開発したのが魔道具、「魔力制御用ベルト『タイフーイン』」である。ベルトの横側に水道の蛇口の様なものが取りつけられており、栓を開閉する事でその時の必要に応じて自分の総魔力量を調節する事ができる。この装置を常に身につけておく事で、リームはどうにか日常生活を送れているのである。


 ———ノアはリームの処遇が気になっていた。「決闘」という場とはいえ、地方貴族が王家に手を出し、あまつさえブチのめしたという事実は変わらないからである。王子が言っていた様に、これは立派な「国家反逆罪」なのである。

 周りもそれを理解していたのか、彼女の処遇について意見を言い合っていた。その状況を破ったのが、ロイヤルであった。

「やあやあ二人共、よく戦ってくれた! やっぱり若いっていいな!」

「理事長!?」

 ブライトが驚くのも気に留めず、ロイヤルはさらに話を進めた。

「だからな、その若者の未来がこんな過ちの為に閉ざされるのは非常に心苦しいのだ。だからわしは、この件をする! マジーロ魔法学園理事長の名において、この件の他言を禁ずる! それでこの件は終いだ!」

 理事長は、この国において非常に大きな権力を持っている。その権力は現国王すら無視できないものであり、つまり彼女が言った事がそのままとなるのである。

 さらに、敗けを隠したい王家とも利害が一致したという事もあり、よりその隠蔽は強固なものとなったのだった。

 しかし、王家が地方貴族に「決闘」で負けたという噂は、瞬く間に学園、そして国中に広まった。そして「もし事実ならばそいつが処罰されている筈だが、その様な痕跡は一切ない」という事から、よりその噂の信憑性を低める結果になった。皮肉にも、事実の隠蔽が「事実」をより噂たらしめたのである。


 ———七十五日とまではいかないが、だんだんとその噂が消えてきた時、リームはノアと二人で寮へ帰っていた。二人は同じ寮の隣部屋だが、グループが固定化されたので、二人で下校する事はなくなっていたのだ。

「それで、あいつには謝られたのか?」

 リームはふと気になったので聞いてみた。

「土下座されてね、謝られたよ。『ごめんな、言い過ぎた』って。だからね、ものすごくせいせいした! 案外悪い奴じゃなかったのかも」

ノアはそう言うと、にかっと笑って見せた。

「そうか、それはよかった」

それなら、自分が体を張る甲斐があったもんだと、リームは嬉しくなった。

「そういえば、最近クラス内でグループとか言わなくなったよな。」

 リームがふと口にした。

「そりゃだって……」

 ノアが答える。

「地方貴族が王家に勝つっていう下剋上見せつけられて、しかももっと強大な大人の「権力」を見せつけられたんだもん。自分達がやって来た事がただの『権力ごっこ』だったってみんな思い始めたんだよ」

「でもさ、本当に、これでよかったのかな」

 リームがぽつりと呟いた。そもそもグループを作る事は、将来のつながりを作るという点で、別に悪い事ではなかったのだ。それを自分は潰した。リームはそれに負い目を感じていたのである。

 それを感じ取ったのか、ノアはにこりと笑って言った。

「そんな事ないよ。あなたのお陰で、打算的な関係じゃなくて、一緒にいたい人といれる様になったんだから。それに……」

「?」

「ありがとう。私の為に怒ってくれて。嬉しかった」

「キミの為じゃないよ。ただあいつの言葉が心底気に入らなかっただけだ。それとノア。」

「うん?」

 キミは、おれの事を『化け物』だと思うか?人一倍の魔力を持って生まれて、そのせいで生身じゃ日常生活すらままならない。こんなおれの事を、キミはどう思ってるんだ?」

 なぜこんな事を聞いたのか、自分でもわからなかった。実の両親に化け物呼ばわりされて捨てられ、それからずっと一人で生きてきた。また同じ絶望を繰り返すかも知れないのに、それでもリームは、いやヒロムは、どこかで彼女に安らぎを求めていたのかも知れない。

「リーム、あなたは他の人と同じ、怒って、笑って。反省して、悲しむ、ただの女の子。あなたの過去に何があったのかはまだわからないけど、あなたが『化け物』なんて、私が誰にも、絶対に言わせない」

 ノアはそう言うと、リームを抱きしめてくれた。温かい。そしてそれは、リームにとって100点満点の答えだった。

 ———彼女になら、言っていいかも知れないな。

 リームはそう考え、自分の過去を洗いざらい言おうと思った。

「ノア、実はおれは……」

 リームが言いかけたその時であった。

「あっヤバっ!」

 ノアが急に叫んだ。

「へ?」

「あのカフェの限定スイーツ、今日までだった!」

「え、は? いや、あの……」

 いきなり突拍子のない事を言うもんだから、リームは面食らった。

「リーム、一緒に行かない? 限定スイーツ」

 リームは心の中でため息をつき、告白を諦め、「ああ、行こう」と答えた。

 ———また今度でいいや。

 リームはそう思い、「じゃあ行こう!」と自分の手を握ってきたノアの手を握り返した。

 その握った手も、リームには温かく感じた。

 そして二人の少女は、お互いの手を握って、目的地のカフェへ一緒に駆け出したのであった。


 Episode.4終わり

 Episode.5に続く




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