人生詰んでる底辺社畜だけど、幼馴染のボッチJDが勝手に始めたカップルチャンネルが大人気なので仕事辞めてイチャコラお酒飲みます。〜明るい未来に乾杯!〜

ゆきゆめ

第1話 酔いどれ幼馴染は一生、隣にいる。

 夜7時。

 週に一度、その幕は上がる。


「はい、それでは本日も始まりました! 先輩くんと後輩ちゃんのラブラブカップルチャンネル! 週末生放送〜! 酔いどれ飲み配信ですよ! はい拍手〜」


 パチパチパチパチ。

 軽快な語り口によって、配信が始まった。


「なぁそのチャンネル名変えようっていつも言ってるんだけど俺の意見反映されないねぇ」

「あ、ごめんなさい私が先輩に先輩くんなんて失礼でしたよね……ごめんなさい……先輩……さん」

「ちがーうそこちがーう!」

「先輩様♡」

「ラブラブ! おかしいのラブラブだから!」

「え〜、なーに言ってんですか私たち以上にラブラブな2人なんていませんよ〜!」

「俺たち恋人とかじゃないんだよなぁ!?」

「そうですよ? そうですけど、恋人以上にラブラブな幼馴染で、先輩後輩です♡ ね♡」

「ね♡ じゃないんだよぉ……勘違いされるからやめようよぉ。いつか炎上するからぁ……俺知ってるんだぞぉ詳しいんだぞぉ……」

「あ、同接一万ですって!すごいすごい! コメントもたくさん。きゃはは何も読めなーい流れはやーい!」

「話聞けー?」

「まぁまぁいいじゃないですか。素晴らしいオープニングトークでしたね。計画通り(ニヤッ)」

「すべてアドリブです」

「それではかんぱーい! いえーい! ガブガブガブガブ! ぷへー! うめえ!」

「唐突すぎん!?」

「ぱいぱーい!」

「下ネタ!?」

「お下大好き♡」

「本当に申し訳ありませんみなさんこちらのJDの精神年齢はおよそ男子中学生並でお送りしています……」

「そんなこと言ってー、先輩エロゲー大好きなくせにー」

「エロゲを下ネタと混同するんじゃねぇ! エロゲってのはもっとこう神聖にして高次元なものであって、救われていなきゃいけなくてだなぁ……!」


 クドクドクドクド。


 配信中だってのに、俺は一体何を語っているんだ? わけがわからないよ……。

 

 だが、今の俺にとっては、これが仕事。

 真面目に、楽しく、ハッピーにいこうじゃないか。


 明るい未来に。

 さぁ、乾杯だ。



 ◇◆◇



 早川伊吹はやかわいぶき

 24歳。男。真性童貞。

 社会人生活4ヶ月目。底辺社畜。

 本日もクソ上司の新人イビリに耐えて帰宅途中。


 ふらふらトボトボ、闇の中。


『いつもいつも暗い顔しやがって……見てるだけでイライラしてくる』

『どうしてこんなこともできないの? 真面目にやってる? やる気ないなら帰っていいよ』

『常識なさすぎ。陰キャってやつ? 大学でもどうせ友達とかいなかったでしょ?』

『人事もどうして君みたいなの採用したんだろうね。あ、最後の売れ残りだから仕方なくか。あはは』


 わずか数ヶ月で際限なしに更新されている嫌な記憶は、ぐるぐるぐるぐる頭をかけ巡る。


「はぁ………………」


 ため息を吐くことは、得意になった気がする。

 あと、切り替え。

 それができなきゃ社会人なんてやってられない。

 今日の仕事はもう終わったのだ。


 力ないその足は自宅へまっすぐ……ではなく、とある店へと向かっていた。


「おかえりなさいませ旦那様♡ マンゴー♡にします? 乳頭♡温泉にします? そ、れ、と、も〜、可愛い可愛い幼馴染♡ で後輩♡ でボッチ♡ 仲間でもはや運命共同体♡ な、わ♡た♡し???♡♡♡」


「とりあえず生」


 店員の出迎えを華麗にスルーしていつものカウンターに腰掛けた。

 不揃いな木目の椅子とテーブルが身体に馴染む。

 特別綺麗でもないが決して不衛生でもない。

 よくある居酒屋って感じのデザイン。


「はーい生一丁いただきました!大将準備よろー!!」

「はいよぉ生一丁ねぇ! ってバカ!! ドリンクはてめえの担当だろうが!?」

「はぁぁぁぁあ!? なーに言ってんですか私がやったら9割泡ですよ!? 9割! いいんですか!? いいんですねやりますよ!?」

「いいわけあるか!? いいわけねぇ……が、そいつ相手ならいい!!」

「ですよね知ってましたぁ!!!!!! ヤります(ガッッッッシャーン)!!!!」

「なになに!? なんか嫌な音したよぉ何したのぉ!?」

「割れました!」

「何が!?」

「えーとえーとえと、たくさん!」

「ドアホぉ!!!!」

「ってへぺろ(๑˃̵ᴗ˂̵)」


 そう、ここは居酒屋。

 …………居酒屋だよ?

 最初ちょっと♡が多い珍生物いたけど……如何わしい店じゃない。

 ちょっと騒がしすぎるけど……(主に客ではなく店員が)、ごく普通の居酒屋だ。


 喧騒の中でも、常連である俺は平常運転。


「枝豆とエイヒレもちょうだい」

「えだまめえええええええエイヒレええええええですね!」


 すぐさま反応が返ってくる。


「それも私がちゃちゃっとやっちゃいますね!」

「料理はオレの役目だわっかんねぇやつだなおまえは!? つかなにその注文確認!?」

「こうしないと覚えないんですよーだ! 叫ばないと、こう、脳が! 3歩でくるくるパァ!」

「鳥頭め……!! メモしろメモ!!」

「どうでもいいけど生つくります!!!!」


 ようやくもって店員の少女が裏へ引っ込むと、店内は落ち着いた様子を見せる。

 もはや言うまでもないだろうが、彼女————片桐祈莉かたぎりいのりとは知り合いだ。

 年はふたつ下。

 小さい頃から家が近く、親交があった。

 その関係は、何の因果か未だに続いている。

 

「いいんすか大将、あれ」


 厨房の大将に声をかける。

 するとコワモテのおっさんは渋い顔で頭をかきながらこちらを向く。


「いやぁオレも正直どうかと思うが……あれでお前さん以外には案外普通なんだぜ?」

「え、そなの? マジで?」

「いやうん、普通よりかはかなり塩対応寄りだが……マジだマジ。お前にだけだけだよ。あいつがあんなに接客張り切るのは……」

「はぁ……」


 祈莉はあれで、筋金入りの人見知りだ。内弁慶ともいう。

 気心知れた人間としかまともに話せないタイプの人間。


 大学ではもちろんボッチ街道をひた走っているらしい。


「普段は何考えてるかわかんねぇ面してるってのにねぇ……何がまたそんなに楽しいんだか」


 少しだけ嬉しそうに笑みを見せる大将だが、一転、ため息を吐く。


「はぁ……いや、いつも通りサービス精神ゼロのしょっぺえ接客してくれねぇかな……そっちの方がまだ楽だよほんと……なぁ、お前さんまだ帰らないのか?」

「まだビールすら来てないんですがっ」

「帰れよもぉ……!!!!」


 ここだけは俺の居場所だと思っていたのに……。

 そしてビールおせぇ……嫌な予感しかしない。


 その予感は次の瞬間、的中する。


「はいこちらご注文のお客様限定サービス!!’’ナマ’’JDになりまーす!!」


 ババーーーーーーン‼︎‼︎‼︎‼︎


「…………はい?」

「もっと喜べ♡ 喜べ♡」


 目の前に現れたのは、なぜか店員用のエプロンを脱ぎ捨て肌着になった上、謎の泡だらけでスケスケになった祈莉。

 

 俺が頼んだのは’’生’’ビールなのだが……?


 いや、それにしてもちょっ、エロいなウホホッ……欲求不満な底辺童貞にはキツい刺激だ。


「どうですかぁ? 可愛い? 私可愛い?」

「エr……可愛い。が、アホ」

「きゃ〜嬉しい〜、え?アホ?」


 俺は上着を脱ぎ去ると、祈莉に被せる。


「うわっぷ」

「さっさと着替えてきなさい」

「えー、ダメですか? ナマJD〜、ビールも搾れますよ? ほら(ギュッ)(ポタポタ)」


 店内にビールを滴らせるな。


「居酒屋でそんな際どいカッコしたらめーでしょ」

「むぅ〜」


 ペシっとおでこを叩いてやると、祈莉は頬を膨らませる。


「盛大におビールひっくり返したから自らの身体で賄う作戦が……」

「おまえの身体はワンコインじゃないのー」

「え? え? 先輩今なんて——」

「——っ、はいはい五月蝿いよー。さっきから周りの視線集めてるし」

「え、……ひぇ!?」


 数名の客がこちらを不思議そうに見ている。

 それに気づいた祈莉は被せられた上着をギュッと抱き寄せて、顔を真っ赤に染めた。


 接客業務にはある程度慣れたらしいが、他人からの過度な注目は彼女にとって毒でしかない。


「しゅ、しゅしゅしゅみましぇん……」

「ほれ、さっさと引っ込む」

「ひゃい……」


 背中を押してやると、すっかり萎縮した祈莉は体を縮こまらせながら再び厨房裏へ消えていった。


 

 ◇

「幼馴染の後輩ちゃん、帰還しました!」

「よろしい」


 メンタルと身だしなみを回復させた祈がちょこんと隣に座る。


「………………」


 やっぱりよろしくない。

 働けや。

 ビールまだなんだが?(来店から20分経過)。


 ビール! ビール! ビール! ビール!

 はよはよはよはよはよ!

 バシバシバシバシバシッ(テーブルを叩く音)


 ジトリと睨んでやると、祈はすぐさま俺のテーブルの惨状に気づく。


「ちょっと大将〜!」

「ああん!?」

「ビールはやく〜! はやくはやくはやく〜! もちろん私のも〜!」


 違う、そうやない。

 でも、もういいや大将に任せるよ……。


「はぁぁぁあ!? 自分でやれよ店員んんんん!? なんで当たり前のように席ついてんの!?」

「なんですか。また可愛い店員を泡だらけにしたいんですか? 奥さんに言っちゃいますよ?」

「うぐっ、んご、んごごごごごっ…………な、なぁオレ、こいつ、カイコ、したい」

「あ、もしもし奥さん? 今ですね、大将が私をえっちな目に」

「だぁーーーー!! わーった! わーったからやめろーーーー!!!! おまえにもビールな! はいはい!」

「わーいわーい」


 いいように踊らされてるなぁ大将……。

 しかし先程の通り、祈莉は本来人見知りだ。

 故に彼女のこの態度は、大将への信頼を感じさせた。2人の関係は良好だと思っていいのだろう。


「ふんふーん♪」


 足をパタパタとさせて落ち着かない様子で、祈莉はドリンクの到着を待っている


「今日はいつもに増してテンション高いんだな」


 普段はビールくらいちゃんと出てくるんですよ。うちの子だってそれくらいは出来るんです。ねえ信じて? ホントだって。


「そりゃあ待ってましたもん先輩が来るの〜」

「ん、なんかあったっけ?」

「べっつに〜。先輩と会えればそれだけで、今日の私はスペシャルなんです〜」


 つまり、特にも何もないと。まあそういう日もあるさ。わかるわかる。


 雑談もそこそこにようやくビールが到着する。


「あいよ生お待ち! エイヒレと枝豆もね!」

「どもっす」

「あ〜りがとございま〜す」


 ああ、ついに琥珀色をした命の水がこの手に……! 長かった。本当に長かった!


 俺も祈莉も満面の笑みであることは間違いない。

 これが大人のご褒美だ!


「完全に客の顔してるよこの店員……」


 呆れ顔の大将。


「え? 仕事中ですよ? ご指名ですし」

「うちにそんなシステムはねえよ!?」

「いいじゃないですか〜先輩のお相手してるのはたしかですし。ちゃーんとお給料、お願いしますね?」

「やるかドアホぉ!? むしろ払え!!」

「ぷんすか」

「なんなのその超不服そうな顔ぉ……オレが悪いみたいじゃん…………ごめんよぉ……」


 これ以上の会話を避けたのか、大将はそさくさと逃げていった。


 さて、ワンオペになった大将には気の毒だが、これでようやく準備は整った。


「先輩先輩」

「おう」


 満面の笑みの余韻を残したまま、あるいはさらに期待を膨らませて俺たちは微笑み合う。


「ではでは、本日はお集まりいただきありがとうございます」

「2人だけどな」

「乾杯の音頭はわたくし、片桐祈莉が務めさせていただきます。…………えーと、えと、えと……?」


 言葉が出てこないらしい。

 30秒ほど頭を捻らせる。そして火山噴火。


「あーもう! 乾杯の音頭とかどうでもいいですよね!? ね!? ね!?」

 

 いや、なぜやろうとしたし。これまでやったときないよね?


「こんなわけ分からない音頭に慣れてるリア充は死ね! 御託はいいからさっさと飲ませろバあぁぁぁぁカぁぁぁぁあ!!!!」


 キレちまった祈莉はガッと乱暴にジョッキを掲げる。

 それに合わせて、俺もジョッキを取る。


「でもでも私たち、この素晴らしくないクソッタレな世界で今日も生きててちょーえらい! かんぱーい!」

「かんぱーい!」


 グビグビクビクビグビグビ。


 カーーーーーーーッ!!!!


「「うめぇぇぇぇっっっっ!!!!」」


 この瞬間の幸福を、大人になってから知った。

 大人はずるいよなぁホントに。こんなに素晴らしいモノを隠しているんだから。


 一瞬の幸せ。


 いや、もしかしたら。


「おビールいぇいいぇーい」 


 カチン、コチン(ジョッキが合わさる音)。


「楽しいですねぇ嬉しいですねぇ先輩♡」


 ひとりじゃないから、一瞬よりも、もう少しだけ、永遠に近い幸せなのかもしれない。



 ◇



 10分後。


「大将生おかわりー」

「あいよー」


 ドンッ!

 提供まで3秒。

 あれー? 一杯目までに20分かかったのはなんだったんですかね。

 もう大将一人でよくない?


「あ、私はレモンサワーでお願いしまーす」

「もうガチのガチで飲む気だねぇ!!!!」

「えへへぇ、もちろん〜、……濃いめで♪」

「聞いてねえよ!」


 ドンッ! 

 濃いめレモンサワー(メガジョッキ)も3秒で到着。

 いや、なにさらっとメガサービスしてるんですか大将? 

 なんだかんだ好きじゃんもう絶対。


 なお、俺は通常ジョッキ。悲しみ。奥さんに言うぞ。


「かんぱい♪ かんぱい♪」

「へいへいかんぱーいっ」

「いえーい」


 祈莉は毎回乾杯する。いや、もはや毎秒。気づいた時にはしてる。病気の一種かも。

 音頭を取るのは嫌いだが、ジョッキを合わせるのは好きらしい。


 飲み始めると時間の流れるスピードは急激に加速する。

 気づけば1時間。

 3杯目、4杯目。

 

 俺も祈莉も酒には強い方だが、それなりに酔いが回ってくる頃合いだ。


「ところで、先輩」

「あんー? どした後輩」

「ギュッとしてもいいですか」

「はぁ?」

「します」

「うおっ」


 祈莉は脈絡もなく俺の頭へ両手を差し出すと、そっと包んで胸元へ抱き寄せた。

 

「ギュッ」


 抵抗して引き剥がそうとした時間は1秒にも満たなかったと思う。

 幼馴染で後輩で、大切な人の体温と柔らかさが俺の疲れ切った身体を優しく迎えてくれる。

 甘い香りが荒んだ心を癒すかのように身体を巡ってゆく。


「よしよし」


 ボサボサの髪を撫でる、優しい手。


「今日もお仕事お疲れ様です、先輩」


 耳元で囁かれるのは、染み入るような労いの言葉。


 ああ、ったく……この幼馴染で後輩は……。

 こんな週の中日に俺が来た理由をしっかりわかっていやがる。


 毎日毎日、汗水流して働いて。

 そんな生活も数ヶ月経ってようやく慣れてきたようにも感じてきたけれど。

 たとえ大丈夫だと思っても、何かがすり減ってゆくモノなんだと思う。


 だから、こんな優しい言葉を囁かれると自分が弱くなってしまうのがわかる。


「うおおおおおんありがとうよおおおおお疲れたよもぉぉぉぉんんんん!!!!」

「よしよし。先輩えらいねーつかれたねーよしよしぃ」

「いのりいいいいいんしゅきいいいいいいい」

「私も先輩しゅきしゅき」


 そう言って、祈莉はまた俺の頭を優しく撫でる。


「先輩には私がいますから。ずっと、いますから。だから、大丈夫」


 それはまるで、女神の祝福か。

 さっきまでバカでアホにしか見えなかった少女が、神聖な光を放つかのようだ。


「うおおおおおおおんずっと一緒にいてくれよおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 片や、冴えない陰キャ。

 片や、ボッチのJD。


 たとえば、某新型ウイルスが猛威を奮う世界であろうとも。

 俺たちは肩を寄せ合って生きてきた。


 ああ、一年前に帰りたい。

 俺もまだ大学生。

 某ウイルスの蔓延により、授業はオンライン。

 2人でたっぷりニート生活だ。


 どんなに願おうとそんな日々はもう戻らないけれど、片桐祈莉が今も隣にいてくれることは変わらない。


 陰キャにとってこんな嬉しいことがあるだろうか、いやない(キリッ)。


「おまえらさぁ……店で抱き合うのとかやめてくれない?」

「何言ってんですか大将! それで先輩が死んだらどうするんです!? 責任取れるんですか責任!!!!」

「ええ!? そこまでの話なの!? マジの瀕死なの!? そ、そりゃあ悪かったな……ご、ごめんて……」


 大将……なんでその女の言うこと真に受けちゃうんですかね……。

 根がいい人なんだろうなぁ。


「で、でもさぁおまえら、付き合ってるわけじゃないんだろ?」


「「は? なに?」」


「いやそんなハモらんでも。息ピッタリか」


 大将はガシガシと頭をかく。


「2人は、恋人じゃねえんだろ?」

「「恋人なわけないじゃないですか」」


 またハモる。

 しかしまぁ大将ったら。また笑えないジョークだ。

 俺と祈莉が恋人同士? 

 そんなわけないだろう。


「逆に聞きますが大将、私たちが恋人とか作れるような人種に見えますか?」

「そりゃ見えねぇな」

「ぶちのめしますよ」

「オレになんて言って欲しかったの!?」


 祈莉さんマジ理不尽。

 しかし大将の言う通り、俺たちは恋人を作れるような人間ではないのだ。

 いわゆるマイノリティと言うのだろうか。

 俺も祈莉も、お酒が飲める年齢以上に生きて、それを充分理解している。


「私たちは恋人なんかじゃなくて、ただずっと一緒にいるだけですよ〜。ね〜先輩」

「そうだな死ぬまで一緒だな」

「はい♡」


 恋人とか、結婚とか、重いしな。

 約束も誓いも何もなくていい。

 

 難しいことは知らないが、2人でいればいつだって楽しくやっていけそうな気がする。

 軽〜いノリで、いいではないか。

 

「おまえら絶対おかしいよ……」


 既婚者の大将は納得いかずボヤいていたが、俺たちにとっては何の関係もないのであった。


 ・


 ・


 ・


「あ、先輩先輩」


 帰り際、祈莉に呼び止められる。


「実は、大事なお話があるのです」

「あん? 大事な話? なんだ?」


 真面目な顔を覗かせた祈莉に、すっかり出来上がった頭が少しだけ冴えを見せる。


「週末、空けておいてくださいね」


 今すぐ聞かせてくれとも思ったが酔ったまま聞く話でもないのかと考え直し、俺はそのまま帰宅したのだった。



 


〜〜〜〜〜〜〜




もし需要ありそうなら続きを書くます。

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