第2話

プレイバック。プレイバック。時よ止まれと言うのでない。バーニング・ゴッド・デビル・女神ちゃん降誕は素晴らしき世界幸福、宇宙意思であるが、田中光村亮がいかにしてバーニング・ゴッド・デビル・女神ちゃんを大召喚したか、それ以前に遡ることによってバーニング・ゴッド・デビル・女神ちゃんの降誕の正当なることを謳い、世界の無限幸福的伸長をいかにして慶ぶべきかをとくと知るために時を戻して昨日へ帰り、過去を明日として未来を懐古して、雨をしのぐこともできない野晒しの天の恵みの全身に浴びる幸いよ。田中光村亮はバーニング・ゴッド・デビル・女神ちゃんを訝しく思っている。彼には考える時間が必要だ、説明してやる義理がある、そして然る後にバーニング・ゴッド・デビル・女神ちゃんを崇めたまえ。しかし時よ止まれとはファウスト博士の求めたる時間の停止とは青春の輝きの最高潮の永遠の保存であった。ゆえに田中光村亮には時間の停止をいずこにも求めようがない。言うならば、時よ、戻れ! 虚無に消え失せる呪いの言葉はエリ・エリ・レマ・サバクタニという言葉の響きに似たり。あぁ、青春よ、無限の喜びよ、止まれと願いし若草の息吹よ! 汝、いったいどこにあらんか。パペ・サタン・パペ・サタン・アレッペ! 悪魔は隣人であった! 教師であった! 群衆であった! 宇宙である! 田中光村亮も希望の華挿し入学し、虚無にして栄光の未来夢見て天上から降り注ぐ青春の光というものを無闇に信じていたが、地獄教育法第六章第五十条には、高等地獄は、中地獄における責め苦の基礎の上に、心身の発達及び進路に応じて、高度な普通地獄及び専門地獄を地獄することを目的とするとあるように、無闇矢鱈の理不尽が横行して内外隔てる校門にこの門をくぐる者は一切の希望を捨てよ式の地獄門を連想せざるを得ず、実際に世界は既にして光溢れる闇に呑み込まれて新世紀に君臨する王と配下の恩賜の民主主義によって支配されたこの世は地獄。ここは地獄界第九圏コキュートス。度重なる責苦に助けを呼べばヒーロー参上、必殺の天地逆転大回転、半重力に足が浮き上がり地獄の最深部より一気に足取り軽くどころか万有引力にまっすぐ降下して、天国界至高天へと突き落とされたが地獄と天国は転々とする神の恣意に定められたるところの境界のそちらとあちらに過ぎず、そちらであるからあちらでないと、あちらの奴らがそちらを誹り、そちらがあちらにあれするにもそれであってどれでもいよいよあれとなってそれはこれだがあれあれどうしたここはどこと気づいた時には一切が万歳青春を謳歌せよの光溢るる地は無謬の光線に焼き尽くされた焦土となって隠れる影もないのに日射病を恐れぬ腕白な白い肌は手と手を取り合い、あぁ嫌ダイヤダイヤダイヤ金剛石よ! 八億カラットの人々よ! 宝石の国の住人たちよ! 俺に友はなく、お前たちに敵はなく、そして俺には敵ばかりでお前たちは高質化した冷徹な皮膚の子供らだ! それでも奴らは笑っていた。だから田中光村亮は学校に行くのをやめた。人並みの正義を有して人並みの不正義に憤り、人並みに正義と不正義の区別が恣意的であって、そして遮光カーテンの内側の薄暗闇で時を止めたがごとくして生きてきたが毎日髪は伸び、爪は伸び、しかし髪の不潔であることは36時間を限度として痒くなくなるように放恣な生活は時間意識を奪いながらYouTubeで殺し合いの実況動画の揺れる画面に吐き気を覚えながら新しい動画が更新されることを心待ちにしたり、己の小遣いでは買えないニンテンドーの新作発表会のゲリラ的告知をTwitterで2分ごとに待ち望んだりして日々を生きていた田中光村亮の心には、旱天に苛まれた大地のひび割れの鱗のように剥がれ突き出た下から脈々と何かが出てきそうで何も出て来ず、リビドーが日々貯まる割にはあぶくのように毎日機械的に霧散して微々たる日銭のごとき性欲を指先で弾いて18歳という年齢を遠く見やりながら、彼は18歳か尋ねられることが正義の証であることを知らずに闇マーケットの扉を叩くなどして5月に17歳になったから未来は明るくって目が潰れた。誰か助けてください。その声すら出せなくなったら人はどうなる。誰も田中光村亮に気づかなくなる。決して声を上げることをやめてはならない。だが偽善者よ、無駄だと分かっていて続けられる者がどこにある。お前は空を飛べるか。壁を抜けられるか。透明になれるか。万物の創造主に成り代われるか。それら一つとしてできた試しはあるか。毎日試したか。毎秒試したか。刹那でも諦めなかったか。カーテンの外をそっと覗こうとする意志は、とうに過ぎた地点なのだ。ヒーロー見参、ヒーロー見参、ヒーロー見参、光村だって時々呟いてみる言葉はパソコンの冷却ファンの轟音に掻き消えて世界は神もろとも死んだと聞かせる声もなくて、この頃じゃ親の顔も忘れたというから驚くかもしれないが腹が減ると生きている感じがして死にたくなるが飯を食うと腹がいっぱいになって光村は眠る。ニルヴァーナの荘重さの一欠片でもあれば誰かが光村目がけて小銭を投げるだろうか。そしたらニンテンドーのゲームを買えるだろうか。何か変えるだろうか。何も変えられないから遮光カーテンは開きはしなかった。ゆえにバーニング・ゴッド・デビル・女神ちゃんの大召喚の魔法陣の完成は必然だった。

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