07-09:「手配しましょう。ミロ殿下」
ミロの思惑通り、その作戦は成功した。
それから一年。キングマン、ウルフファングは偽辺境伯マクラクランとの戦いで命を落とし、そしてミロもアルヴィンに己の名と妹ルーシアを託して世を去った。
いまミロ・ベンディットと名乗るのはアルヴィン・マイルズ。それを知ってるのはシュライデン一族の一部とエレーミアラウンダーズの仲間だけ。
ミロから託された妹ルーシアにすら知らせていない。
ミロとして考え、アルヴィンとして行動しろ。それが本物のミロ、そしてシュライデン家前当主ゼルギウスから望まれた事なのだ。
◆ ◆ ◆
そうだ、奴らはこちらのテリトリーに入ってきたのだ。
奇襲、通信妨害、そして学園宇宙船の移動。
色々な事が同時に起きてパニックを覚えそうになるが、それこそテロリストの思うつぼ。こちらのテリトリーに入ってきた分、本来テロリストの方が不利なのだ。
では自分たちが有利な点。
それは学園宇宙船の構造を熟知してる事。テロリストたちも下調べはしてきただろうが、学園宇宙船は頻繁に改修されている。隅から隅まで調べ尽くしたとは言えまい。
ミロ自身の感覚では十数分にも思えたが、実際に考えを巡らせていたのはせいぜい十数秒。この状況下では長考とも言えぬ時間だ。だからミロがディスプレイを指さして尋ねても、ピネラ中尉は長時間待たされたという印象は無かった。
「このテロリスト部隊はかなり被害を受けたようだな。ブリッジスは何をやったんだ?」
「テロリストに向かってギル皇子から下賜されたロケット弾を撃ち込んだそうです。この倉庫はもともと弾薬庫として使われていたのでかなり頑丈です。爆風が逃げなかった為に大きな爆圧が掛かり、テロリストばかりか攻撃を仕掛けた学生側にもかなりの被害が出たようです」
なるほど。ブリッジスはテロリストをここへ誘い込んだわけか。ブリッジスはロケット弾の爆発で、壁や天井が崩れ、爆風が逃げる事を想定したのだろうか。
今となってはそれは分からない。分からないがヒントにはなった。
うまくすれば一網打尽に出来るかも知れない。ミロはブリッジスとは面識が無いが、これで多少は彼の犠牲に報いる事が出来るかも知れない。
「学園宇宙船の全体構造図を」
ミロの要望にコンソールに着いていた警備兵がすぐさま答えた。
立体ディスプレイに巨大なコマ型の学園宇宙船の立体構造が映し出される。モーションセンサーに対応したその映像を、オーケストラの指揮者のように操作して自分が求める情報を探した。
テロリストたちは中央区画へ向かっている。不審を抱かぬように誘導できる場所。そしてミロの作戦に的確な場所。
どこだ!? どこかにあるはずだ。
ミロの手が止まる。それと同時にモーションセンサーで拡大、移動していた学園宇宙船の構造図も停まった。
「ここだ」
「ここ?」
ミロの意図が読めずにピネラ中尉以下の警備兵たちも首を傾げる。しかしそれに構わずミロは続けた。
「カスガ会長、執行部員でも誰もいい。学園内の施設や通路の使用状態がどうなってるのか、詳しい人間に連絡を取ってくれ」
「施設と言いますと……」
ピンとこないようでカスガは尋ねた。
「例えば使ってない通路を倉庫代わりにしている。遠回りになるので壁を壊して通路を作ったとかそんな状態を把握している人間だ。出来れば通路周辺の荷物、備品の管理状態まで分かればそれに越した事はない」
「分かりました。荷物、備品の管理状況ならある程度グレタが把握しています。通路や周辺の状態なら、専任の執行部員がいるので連絡を取ってみましょう」
ミロの意図が分かったのか、カスガは少し気持ちに張りが出たようだ。自らを鼓舞するように肯くと、携帯端末を取り出す。そんなカスガに警備兵が声をかけた。
「会長さん、こちらの通信回線の方が確実です。自治会役員室にもつながります」
「有り難うございます」
カスガはそう答えるとグレタを呼び出した。
「ピネラ中尉、兵の移動を頼む。移動先は私から指示する。それから学園宇宙船の外壁を破壊できる威力がある兵器とそれを扱える要員の手配も。破壊目標はここだ」
ミロは構造図の一点を示した。
「ここを……? なるほど、そういう事ですか。しかしうまく行きますか?」
一目でおおよそミロの作戦は理解したものの、ピネラ中尉は当然の疑問を口にした。
「その為の人員配置と通路や施設の使用状況の把握だ。侵入してきたテロリストは、その情報が無い。こちらが圧倒的に有利に運べるテリトリーに誘導する事が出来る」
「分かりました。手配しましょう。ミロ殿下」
その時だ。
別の場所に移動させておいたパーセク警備保障の社員を確認に行った警備兵からの連絡が入った。
「ジョンソン曹長から連絡がありました。パーセク社の連中を閉じこめておいた部屋はもぬけの殻です」
ピネラ中尉が何か言う前にミロは命じた。
「最低限の人員で良いからパーセクの連中を探せ。奴らが乗ってきたトレーラーも調査だ。ただし交戦は必要最低限に留めろ。足止め程度で充分だ」
そしてピネラ中尉の方へ振り返ると、ミロは改めて言った。
「そのように手配出来るだろうか。ピネラ中尉」
「あ、はい。承知しました」
曖昧に肯くとピネラ中尉は部下の方へ振り返った。
「殿下の仰る通りだ。指揮と人選はデービス軍曹に任せる」
殿下と呼ばれるのはまだ面映ゆい。しかし今はそれを気にしている余裕はない。
「……ミロ、大丈夫なのか?」
横に来たスカーレットがそっと囁いた。スカーレットだけはミロがルーシアを気に掛けて作戦を考えているのを知っている。
ミロ・ベンディットを名乗るアルヴィン・マイルズは学園宇宙船の構造図に見つめながら無言で肯いた。
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