03-03:「あいつは助平だ」
「ミロ、おいミロ!!」
先に教室を出たミロを、慌ててスカーレットが追いかけてきた。
「あの男を仲間にするつもりなのか?」
「仲間?」
一度、足を止めたミロだが、スカーレットが追いつくのを待って、再び廊下を歩き出した。
「仲間も何も、別に俺は組織の長では無い。あいつを利用できれば利用するだけだ。潰されてしまっては困ると思った時は何か対応を考える。それだけだ」
「組織の長って……。エレーミアラウンダーズはお前がリーダーじゃないのか?」
息を切らせながら尋ねるスカーレットに、ミロは一瞥をくれてから答えた。
「あれはもともとリッキー・パワーズと、偽辺境伯の戦いで命を落としたキップ・キングマンがリーダーだった集団を、俺がどさくさに紛れて統合しただけだ。俺はリーダーでもないし、メンバーでも無い。ただメンバーと仲がいいだけだ」
「相変わらず回りくどい説明をする奴だな」
ミロの横を歩きながらスカーレットはそう言った。
「いずれにせよ上級貴族出身の生徒なら、つるんでいる連中はその
そしてスカーレットは周囲を見回す。教室を移動する生徒たちの姿は見えるが、二人に注意を払っている者はいない。スカーレットはつま先歩きになって、ミロの耳元で囁いた。
「貴様の最終目的の為にもだ。自由になる兵隊と情報網、そして単なる支持者はちゃんと区別するべきだ」
スカーレットの言葉にミロは素直に肯いた。
「うむ、それもそうだな。考えておこう」
「しかしあいつは駄目だ! カスパー・キンスラーは!!」
肯くミロから離れると、スカーレットは声を少し荒らげてそう言った。
「なぜだ?」
足を止めて、ミロは不思議そうな顔で聞き返す。そんなミロにスカーレットは少し頬を染めて答えた。
「あ、あいつは助平だ」
スカーレットのその答えにミロはきょとんとした顔をする。そして今度は声をあげて笑い始めた。
「な、何がおかしい!!」
意外なミロの反応にスカーレットは狼狽えた。
「いや、悪い。しかしお前にも年頃の女の子らしい所があるんだな」
「感心したように言うな! もともと年頃の女子だ!!」
勢い任せでそこまで言ったスカーレットだが、その時になってようやく周囲の様子に気付いた。生徒たちが足を止めて、にやにやと笑いながらミロとスカーレットのやりとりを見ていたのだ。
「お~~、見せつけてくれちゃって!」
「いいよなぁ、婚約者がいる奴は」
「シュライデンくんは売約済みか。残念」
「昼間からいちゃついて、まったく何様のつもりよ」
端から見れば仲良しカップルの口げんかにしか思えないのだろう。
羨望、やっかみ、ひがみ、そねみ。そんな言葉が耳に入ってきた。
「いや、違う。違うんだ、これはだな……!!」
「いちいち気にするな」
ミロはそう言うとまた歩き出す。不承不承ながらスカーレットが着いてくると、ミロは声を潜めて言った。
「俺もあいつの噂は色々と耳にしてる。大層な好き者らしいのは確かだが、不思議と女から憎まれてるという話は聞いていない」
「そんなはずがあるか!」
スカーレットはむきになる。しかしミロの言う通り、他の女子生徒からカスパーに注意しろと警告された覚えはあっても、彼への恨みや怒りは聞いた覚えが無かった。
「その辺、節度は弁えているんだろう。好き者は好き者らしくな」
「好き者と連呼するな。嫌らしいぞ」
ぷいと横を向くスカーレットに、ミロは思い出したように尋ねた。
「そういえばルーシアはどうだった」
「ああ、元気そうだ。環境が変わって心配だったが、周りも良くしてくれてるらしい。食事もちゃんと摂ってる」
「そうか。それは一安心だな」
中等部女子
ルーシアの様子を見るには、どうしてもスカーレットに骨を折って貰うしか無いのだ。そのスカーレットも高等部生徒である以上、四六時中、ルーシアに着いているわけにもいかないのである。
「それで、例の、護衛の件は?」
「うん、本人の方からルーシアに直接挨拶したいと言う事だ。仕方ない、あの子は我々を嫌っているからな。だがルーシアとその父、祖父の意思を尊重したいという点では、今のところ我々と意見は一致してる。それについては安心してくれ」
そう答えたスカーレットに、ミロはつぶやいた。
「いまの所は……、か」
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