第6話ステージ4

「……播種だ」

小林は呟いた。

細川は麻酔で眠っている純也の顔を見た。オペ看の1人が、

「ステージ1じゃなかったんですか?」

と、言葉を漏らすと細川が、

「播種はCTには写らんことが多い。開いて見ないと分からんのだ」

「ガンが胸膜全体に広がっている」

「小林先生、何とかなりませんか?」

小林は首を横に振る。

「細川君。君も分かってるだろ。播種は全身転移と同じ事だ。局所治療じゃ何ともならんよ。組織を迅速診断に出してくれたまえ」

「……はい。電メス」


【提出された胸膜には、腺癌組織を認めます】


「……よし。閉じよう」

「し、しかし。小林先生。まだ、開始30分しか経っていません。何とかなりませんか?せめて原発巣の切除でも……」

「どうにもならんよ。早く閉じて、体力を回復させることだ」

「……はい」


純也は目を覚ました。側には、まひると細川が立っていた。

「純也君頑張ったね」

「山崎、無事に済んだぞ」

2人は笑顔で立っている。

「ほ、細川、術時間は?」

「2時間50分」

「さすが小林先生だ。ありがとう細川。二三日すれば、小林先生に挨拶に行く」

「あぁ」

「細川、まひるは今、妊娠してるんだ。おめでた婚になるけどな。結婚式は2人だけでバリ島で挙式するんだ。退院したら、直ぐにでも結婚式の準備だ。それが済んだら、内科部長として頑張るよ」

純也は嬉々として話す。

「じゃ、おれはこの辺で」

細川は病室から出ると、涙が止まらなかった。


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