第三十二話:勇者に剣を、魔法少女には星の輝きを①
魔法少女はコンビニで立ち読みとかしない。
勇者は安いカップラーメンのシリーズ全制覇とかでやって喜ばない。
魔法少女は酒を飲まない、吐くまで飲むな。
勇者は軟派な美少女ゲームとかには手を伸ばさない。
魔法少女は着やすいからという理由で自室をジャージで過ごしたりしない。
勇者はチンピラふぜいに道を譲るな。
魔法少女はこっそり勇者のアイス食べたりしない。
勇者はポテチで汚れた手でそのままゲーム機を触ったりしない。
魔法少女は
勇者は
魔法少女は
勇者は
「「やかましいわ!!!」」
ラピズと田中にそんな風に同時に吠えた。
激闘は続く、何時の間にか一対一をそれぞれやっていた四人は合流し、電波塔の上での戦いは乱戦の様相を呈していた。
その戦いの最中に二人から語られるのは「魔法少女としてどうなんだ」、「魔法少女に相応しくない」、「魔法少女はそんなことはしない」、「勇者としてどうなんだ」、「勇者に相応しくない」、「勇者はそんなことはしない」等々……。
「だ、黙って聞いていれば調子に乗って……!」
「今の貴方は無様に過ぎるゥ! 魔法少女だった貴方はそんなにも心が弱くなかったァ! 魔法少女であることに誇りをもっていたァ! それなのに恥じるなどと……っ! 何ですか今の体たらくはァ! 今の貴方に魔法少女の名は過ぎたものだ。ただの元・魔法少女でしかないィ!」
「好き放題に……でも、ええ!! そうよ、私は元・魔法少女! かつて魔法少女であったもの!!」
「っ!? ……そうですか。魔法少女をただの過去として捨てるというのであればっ!!」
激闘は苛烈になっていく。
アレハンドロと、そしてアズールがまるで堰を切ったかのように感情を吐き出しながら攻め立てる。
「勇者! 勇者よ! 貴様はもう勇者ではない! あれほど美しく強かった貴様がただの凡俗へと堕ちる! 堕落していく様……もはや、見苦しいの一言だ!」
「凡俗も何も……ここはフィンガイアではない、田中はただの田中。元・異世界勇者だっただけの男」
「力を失い、弱くなり、心も弱くなったか。勇者であることすら捨てるか! やはり、貴様は勇者タナカではなくなってしまった!」
「それは間違いない。ここは地球、そうであるが故に田中は異世界勇者ではない。それが事実」
「そうか――では、死ね。」
「ここで終わりにしましょうォ。元・魔法少女ォ! 魔法少女を捨てし者! 我が好敵手だった存在よォ!」
アレハンドロは天に向けて両手を広げると禍々しいまでの闇の球体が現れる。
ダークエナジーを収束させた大技だ。
「勇者の名を捨てた者よ。フハハハ、貴様の血をもって新たな闘争の幕開けとしよう!」
アズールも同じくプライド・ディードを構えた。
凄まじい勢いで力が収束していくのがわかる。
その二つの力が合わさり、未知の極大の一撃として放たれそうになっている。
それは正しく致命の一撃。
いくら、ラピズや田中でもそれを相殺することは難しい。
特に田中の方はもはやアズールとの戦いで身体はボロボロの状態だった。
だが、それでも二人は脚を踏み出してアズールとアレハンドロへと対峙した。
「誤解があるわね」
「ああ、全くだ」
「確かに私は元・魔法少女だけど」
「田中は元・異世界勇者だが」
「では」「死ぬがいい」「元・異世界勇者よ」「元・魔法少女よ」
放たれたのはただの闇。
闇色の破滅的な力の塊。
田中とラピズはそれを真正面から立ち向かい――
――その瞬間、遥か天より白き光が電波塔へと直撃した。
◆
「ここは異世界ではない。異世界から帰って来た時点で異世界勇者の異名は取るべきだろう。だって異世界じゃないんだし……だから、元・異世界勇者。簡単な話だと田中は思う」
「なっ!? それは……その白き輝きは――!!」
アズールとアレハンドロの合体技。
それは田中の記憶からすれば魔王の攻撃にも匹敵する一撃だった。
力を十全に使えるラピズはともかく、田中の方は出来たとしても魔法を全開で使うぐらいしか攻撃手段は残っていなかった。
とはいえ、彼女に言わせれば二流の田中の魔法だ。
彼女の大魔法クラスの攻撃を相殺できるとは思えなかったが……だとしても、する必要があるならやるしかないのだ。
何故なら
少しでも威力を減衰させればその分のラピズの負担は減る。
だからこそ――
――……全く、相も変わらずですね。これ、こっちに置いていても困るのでそっちで管理をどうぞ。
そんなことを考えていた刹那、何やら声が聞こえた気がした。
電波塔目掛けて落ちてくる白き光。
田中はそれが何なのか見当はついていた。
だからこそ、田中はそれを見もせずに掴み取ると同時に――抜き放った。
真っ白な刀身。
身の丈ほどの長細い片刃の直剣。
それこそが――
「聖剣!! 白の契約かっ!?」
「――ありがとう」
懐かしき声にそう返しながら田中は聖剣の一撃を放った。
「
◆
「そりゃね、魔法少女の名は捨てたいわよ。当然でしょ? だってもう少女じゃないんだし、流石にこの年で少女を素面で名乗れる度胸は無いのよ。永遠の十八歳なんてキャラでも無いしね」
田中とラピズ、二人を呑み込んでもなお余りがありそうなほどの巨大な力の塊。
それを迎え撃つようにラピズは変身する。
魔法少女の二段変身。
それ即ち、最終決戦使用。
そう、ラピズ・ラ・ズーリは既に最終回を終わらせた元・魔法少女だ。
だからこそ、こんな奥の手もあるのだ。
桃色の髪は蒼穹を思わせる蒼に変化し、飛び回るスフィアや身体から迸るオーラも青く碧く蒼く――ラピスラズリという名の如く。
「魔法少女を捨てたってのはそういうことよ。確かに嫌なこともあったし、最後最後での記憶と記録の抹消はきつかった。そりゃ、覚えていてもらえないなんて辛いしね。正直、だいぶ凹んだけど……後悔だけはしなかった。愚痴は結構吐いてたけどね。でも、みんなの記憶が無くなっても私は覚えている。感謝の言葉、喜んでくれた時の顔……だから、魔法少女じゃなかったらよかったなんて思わない」
エクセリオンを構える。
最終決戦使用へと変わったことでエクセリオンも変化し、凶悪そうな砲門へと変形する。
「今までも、これからも。……魔法少女の称号こそ、もう勘弁だけどね。だから、強いて私を今後呼びたい時にはこう呼べばいいわ!」
迫り来るまでのほんの数秒にも満たない時間。
ラピズはただ胸を張って叫んだ。
「魔法少女改め――魔法
◆
世界を全て飲み干さんとする黒き闇。
対するは白き光の刃。
鮮烈にして清らかな輝きを放ちながら、真白なる閃刃は闇を切り裂いた。
対するは蒼き流星
夜空を翔ける流星の如く、蒼き輝きの波濤は闇を貫いた。
その様にアズールとそしてアレハンドロは笑った。
嗤ったのではない、笑ったのだ。
ただ嬉しそうに破顔した。
「そうだ!」「その輝きこそォ!」「勇者だ!」「魔法少女だァ!」
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