第二十九話:元・悪役幹部たちと元・主人公たち②
「さ、佐藤先輩! 田中さん!」
「玲……良かった、無事なようね」
四人の怪人を打ち倒し、この魔法陣の中心である電波塔へとやってきたラピズは玲の様子を見て内心で安堵の息を吐いた。
大丈夫だろうとは思っていたものの、やはり実際にこの眼で見るのとでは違う。
「フハハハ、もう倒してきたのか。いや、当然というべきか」
「アズール」
「久しいな、勇者タナカよ!」
「こちらも久しぶりの挨拶とかいかがですゥ?」
「必要ないわ。全くまた面倒なことをコソコソと……っ!」
「イビルスター星人なのだから悪いことをするのは当然でしょうォ?」
元・異世界勇者の田中とアズール、元・魔法少女のラピズとアレハンドロはそれぞれ旧知の敵と言葉を交わした。
明確な敵対関係で親しいわけでもないが、真正面から戦った相手だ。
切っても切れない腐れ縁のような奇妙な感情をもっているが故の――
「……ダメだな。妙な気配で間を固められている。ラピズ、どうする? 不意討ちが出来そうにない」
「ふっ、やはりまた喋っている間に斬り殺そうとしてきましたねェ!? ちゃんと準備ぐらいはしているんですよォ! 不意討ち対策ぐらいねェ! アズールさんと共同で固めましたから、どれだけこっちの意識の裏をかいても反応できるようにしています!」
「フハハハ! やっぱりな! どうせそんなことだろうと思ったわ! 勇者め! あえて真正面からきての奇襲――何度も通すと思うなぁ!」
「田中……お前……」
訂正。
田中は特に何とも思わず普通に奇襲をかけようとしていたが、どうにも断念したようらしい。
ラピズが解析するとこの場の至る所に感知用の術式がこれでもかと仕込まれていた。
完全な奇襲対策である。
これを掻い潜って決めるのは至難の業だ。
――アレハンドロのやつ、どこまで田中に対策してるの……。まあ、アイツ様式美とかは気にするタイプだから……。
何だかんだとラピズも魔法少女としてお約束を守るタイプなので気持ちはわかってしまう。
「ま、まあ、いいわ。それよりもあの
場の雰囲気を切り替えるようにラピズは声を張り上げた。
「そういうことになりますねェ。異世界から持ち込まれた金貨を起点に異世界魔法の使用者を誕生させ、その力を使って異世界への門を繋げる儀式魔法を発動させる……そして魔王軍の残党をこちらへと引き込み、この星に混沌を生み出しダークエナジーで満たす! それこそが今回の事件の目的です!」
ラピズの声に応えるようにアレハンドロは答えた。
チラチラっと田中の方に注意の視線をやりつつ、ではあったが。
「それで? わざわざ私たちを巻き込んだ理由は?」
「ほほゥ? なんのォ、ことですかァ?」
「惚けるんじゃないわよ。アフラフの異様なほどの急拡大、依頼の集まり方は明らかに人為的な工作によるもの。そして、その相手はこの私の力を以てしても情報を掴ませることはなかった……。そんなの出来るのは、アンタらイビルスター星人ぐらい」
「ふむ……それでェ?」
「それに須藤たちの事件に田中達が関われたのもおかしいわ。そもそも、単に異世界魔法に目覚めた人間が五人居ればいいだけなら、目覚めた後を自由にさせておく理由もない。私たちの目を避けたいのなら適当に隠して監禁でも何でもしておけばいい。それをせずにわざと気付かせるようにヒントをばら撒くように自由にさせていたり、一度戦った後で玲を人質に取れたらあっさりと引いたりとあからさまなのよ」
「あからさま……ですかァ。確かに少し美意識に展開ではあるかもしれませン。素直というかシンプルと言うか……とはいえ、奇を衒えばいいというものでもなク。ううむ、難しいィ」
「理由は私達への復讐かしら? それなら、まあ……わかるけど」
ラピズはそうアレハンドロに問いかけた。
二人を敢えての手間をかけてまで、関わらせようとした理由が彼女には思いつかなったのだ。
「復讐ゥ? ええ、ええェ……! あるいはそうなのかもしれないですねェ!」
「怒りだ、怒りがあるのだ勇者よ。湧き出るような憤怒。それこそが我らを結びつかせたのだ」
反応は劇的だった。
アズールもアレハンドロも怒っている。
その生々しいまでのドロドロとした感情を田中とラピズへとぶつけてきた。
二人は反射的に臨戦態勢を取った。
高まる殺気にようやく本番が始まるようだと気を引き締めた。
「勇者よ! あと十分ほどで
「つまりはタイムリミットォ!!」
「田中、解析が終わったわ。術式の操作権を持っているのはアズール。あいつをさっさと斬り捨てなさい」
「どのみち、田中はそのつもり。七天王の生き残りというだけでも十分なのに、残党を呼び寄せての侵略など……今度は確実に――
「では、始めましょうォ」
「決して負けられぬ、世界の命運を賭けた戦いを」
「つまりは何時もの通りってことね」
「田中の戦いに負けていい戦いなどありはしない」
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