第二十八話:元・悪役幹部たちと元・主人公たち①



「始まったのですかぁ?」


 道化師のようなナニカが問いかけた。


「問題ない。術式は完全に起動している」


 悪魔のような羽根を持つナニカは答えた。


「ふむふむ、なるほど確かに……異なる世界の観測が徐々にできるようになって来ていますねェ。これが儀式魔法というやつですか、面倒な手順を踏んだだけのことはある」


「一応、協力には感謝しておこうアレハンドロ。貴様の助けがなければ独力ではここまで完璧な術式の発動は無理だった」


「いえいえ、ワタシにとっても興味深かったですからねェ。イビルスター星人という種族からしても、異世界という存在はとても魅力ですしィ?」


「……前に言った通りだが、フィンガイアに手を出すのなら容赦はしない。あれは魔王様が欲した世界。それを横から手を出そうというのなら――」


「ィハハハ、おー怖い怖い! しませんよォ、アズールさん。あくまで異世界という概念が魅力的という話です」


「ならばいい」


 明らかに人ではない。

 それどころか害する存在たちの会話。


 それをただただ佐々木玲は聞いていた。


 街の中心にある電波塔。

 その頂上にどうやって用意したのか謎な豪奢な椅子に座らされて。



「貴方たちは何が目的なんですか?」



 拘束されているわけではない。

 だが、場所が場所だけに逃げようと下手に動けば地上に真っ逆さまな状況、玲はキッと二人を睨みつけながら問いかけた。


「おやァ?」


「ほう? 先程まで泣きべそをかいていたというのに存外……」


「流石は魔法少女の後輩と言ったところですかねェ? くひひ」


「こ、答えてください!」


 出来るだけ弱みを見せまいと強気の姿勢を見せるも二人の人外は嗤うだけだ。


 ――何なのこの人たち……。


「まあまあ、キミを傷つけるつもりはありませェん。だから、そんな風にチワワのように威嚇しなくてもよろしいですよォ?」


「だ、誰がチワワですか!」


「お前は誘き寄せるための餌で、そして観客。変なことをしなければ危害は加えない。興味もないからな」


「誘き寄せるための餌って……」


「アハハ、アズールさんはそれは酷い言い草ですよォ。興味もないだなんて……ああ、安心してください。ワタシは貴方に興味を、価値を感じていますよォ? 不幸に追い込んだらどんな上質なダークエナジーを取れるかなァ――ってねェ?」


 ニヤニヤとした顔近づけ嗤うその表情。

 マスクに隠れて半分も見えないはずなのに感じる悪意に玲は息を呑んだ。


「まあ、普段なら――の話ですけどね。今日は用事が立て込んでいるのでそういう趣味をする気にはならないんですけどネ」


「くだらん揶揄いはよせ」


「……誘き寄せるって佐藤先輩や田中さんのことですか」



「その通りィ! 我が怨敵、魔法少女ラピズ・ラ・ズーリ!」


「フハハハハ! そして、勇者タナカこそが目的よ」



 玲の言葉に我が意を得たりと声をあげた。

 その様子に困惑する。


「異世界勇者に魔法少女だなんて……」


 普通に考えれば信じられないような存在だ。

 だが、玲は何故か妙に受け入れている自分に気付いていた。


 それは須藤を筆頭に超常的な力を使っていた存在や田中の異常な戦闘力等々、理由は多々あったが……。



「信じられませんかァ? しかし、貴方は覚えているのでは? 忘れてしまったとしても、魂には――あの星の輝きは刻まれているはずです」


「…………」



 魔法少女。

 創作の世界のヒロイン、そんな存在のはずなのに……。


 ――何でだろう?


「……佐藤先輩や田中さんがそういう存在で貴方たちの目的というのはわかりました。でも、佐藤先輩の方はともかく田中さんの方は誘き寄せようにも大怪我を――」




「は? 勇者タナカがその程度のことで折れるはずがないだろう。一度や二度死んでも殺しにかかってきた男だ。まあ、魔法少女の方は痛めつけてやったからあるいは折れているかもしれないが、勇者は――」


「はァ? 魔法少女がちょっと痛めつけられたぐらいで根を上げると思っているんですかァ? 身体と精神を両方からボロボロにしても復活するのが魔法少女ですよォ? あんな「田中田中」言ってキャラ立てている勇者とは違って、魔法少女は――」


「は?」


「はァ?」




「えっ、あのっ、ちょっと?」


 ――何なのこの人たち……。


 いきなり仲間割れをするかのようにメンチを切り始めた二人に玲は極めて混乱した。



「……おっと、失礼。気が立ってしまって」


「フハハハ、いやこちらこそ失敬した。迂闊だった、これは協定違反だな」


「いえ、ワタシの方も売り言葉に買い言葉をしたのでお相子ということで……。まァ、アレです。ともかく、安心してください佐々木玲さん。魔法少女も勇者もこれこの通り元気に暴れています」



 そう言ってアレハンドロが空中にテレビのモニターのようなものを創り出したかと思えば、そこには二人の男女がそれぞれ異形の姿の怪人と戦っている光景が映し出されていた。

 その男女は勿論――


「田中さん! あと……あれ、佐藤先輩? か、可愛い!」


「エクセレント!! ああ、懐かしい! 懐かしきかな魔法少女ラピズ・ラ・ズーリの姿!!」


 画面の中で桃色の髪を躍らせた女は輝きを以って敵を吹き飛ばし、


「フハハハっ、勇者タナカのやつめ。相も変わらずの容赦のなさだ。しかし、持っているのが木刀と言うのは些か風情にかけるな。まあ、暗器の一つでも持っているのだろうが……あっ、今刺したな」


 褐色の肌をした男は恐ろしいほどに研ぎ澄まされた斬撃を以って敵を切り裂く、


「二人は本当に……」


 四対二という状況でありながら圧倒的な蹂躙と言える光景がそこにあった。


「やれやれェ、即席怪人ではこの程度ですかァ。もうちょっと素材の厳選に時間をくれたら、歓待に相応しい相手を用意できたのですが」


「構わん。所詮は奴らは端役に過ぎんのだから」


「まァ、それもそうですねェ。それよりも本当に儀式魔法の方は大丈夫なんですか? 全員倒されてしまいそうですがァ」


「フハハハ、問題はない。術式の起動自体は済んでいるし、既に大地に紋は刻んだ後だ。奴らがそのまま基点に留まってれば「ゲート」の創造も早く済んだが、居なくとも自動に進行する……あの女魔導士ならともかく、術式の解体は勇者タナカには出来ん」


「結構、結構。遅延させることは出来ても根本的な解決にはならず、であれば彼らはここにやってくるしかない。実にエレガントな展開ですゥ!!」


ゲート……?」


「上を見よ、少女よ。あれこそがフィンガイアへと繋がる門」


「つまりはこちらの世界とあちらの世界を繋ぐ道」


「あれが……」


 見上げたそこには空を覆い尽くすほどの魔法陣。

 その中心であるちょうど真上にある渦の先に、確かに玲は何かの存在を感じた。


「そんなものを作って何をしようと――」




「魔王軍の残党を呼び寄せ、そして組織を再編する」




「はい?」


「勇者たち一行に蹴散らされて崩壊した魔王軍。まだ残党は居るらしいんですよねェ」


「フハハハ、七天王などの最高幹部こそ徹底的に滅せられたがな。それでも魔王軍全てが滅んだわけではない。魔王様が無くなった以上、組織的な活動は出来なくなったため散り散りにはなっては居るもののまだ生き残りも多いであろう。とはいえ、フィンガイアでの戦いの趨勢は決まってしまった以上再起は難しい」


「まさか……だからこの世界に侵攻しようと?!」


「頭の巡りは悪くないようですねェ! まあ、そういうことですよ。異世界よりやってくる魔王軍残党! それらの力は強大です! 世に混沌と恐怖を巻き起こすでしょう! そしてこの星は負の感情の坩堝と化し、ワタシはそれを美味しくいただく……っと」


「そ、そんなこと――」


 異世界からの侵略。

 そんな世界の危機に玲は顔を蒼褪めるも、





「そうね、そんなこと」


「させると思っているのか」





 二つのそんな声が響いた。



「来たか」


「来ましたねェ」



 その声にアズールとアレハンドロは不敵な笑みを浮かべて振り返った。



「よく来たな」


「歓迎しましょうォ!」





「勇者よ」「魔法少女よォ!」





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