第35話 「旦那様に言ってほしいんだ」
エリアスの要求に私は本気で戸惑った。
今まで言わなかったツケがここに!? それとも、嫌がらせ!?
いやいや、告白した直後に嫌がらせはないでしょう。ということは、どう見てもこれは自業自得。
あぁぁぁ。本当は言うつもりはなかったのよ。エリアスを侯爵にするまでは、絶対に。
だけど、エリアスが限界だと言うように、私ももうダメだった。
オレリアと並んだ姿を見送るしかなかった、私。
ユーグからエリアスの愚痴を聞いて。さらに結婚の話まで持ち出されてしまったら、意識しない方がおかしい。
さらに護衛だからという理由に腹が立った。そんなところへトドメとばかりに、告白されたら……!
もう押し止めておけなかった。言いたかった。エリアスと……恋人同士になりたかったから。
「マリアンヌ」
早く、とでも言いたげにエリアスが私の名前を呼ぶ。キスか告白か。どっちかを選んで、と。
私はそっとエリアスの両頬に手を伸ばす。
どれが正解? 選択肢はすでにエリアスが掲示してくれている。だから、私が出す必要はない。
両頬に触れると、エリアスが目を閉じて、気持ち良さそうに擦り寄せてくる。開ける気配のない目。
こ、これは! もう一択じゃない!
私は勇気を振り絞って、顔を近づけた。目を閉じて、唇にそっと触れる。
それは一瞬だったのかもしれない。けど私、頑張った! 頑張ったよね! と思っていたのは、どうやら私だけのようだった。
なぜなら唇を離した瞬間、エリアスの腕が背中と頭に回されたのだ。
「あっ」
驚いて、僅かに口が開く。その瞬間をエリアスは見逃さなかった。すかさず私の口を塞ぐ。
深い口づけに、いく
「んっ……はぁはぁはぁ……」
唇が離れた時にはもう、息を整えるので精一杯だった。それなのに、エリアスの顔はまだ足りないとでも言っているように見える。
「ま、待って」
頬を撫でられて、再びキスされそうだと思い、エリアスの胸を押す。
「大丈夫。これ以上はしないから」
「本当?」
「うん。その代わりにお願いがあるんだ」
お願いって? でも、しないって言っていたし。
「な、何?」
「そんなに警戒しなくてもいいだろう。もう何もしないって言ったんだから」
「だって、下ろしてくれないんだもの。信用できないわ」
エリアスの胸を軽く叩き、抗議を示す。
「マリアンヌはそんなに俺と離れたい?」
「そ、そんなことを言ってないでしょう」
「なら、このままでいいじゃないか。そんなことより明日の朝、旦那様に言ってほしいんだ」
そんなこと! この体勢がそんなことなの!? 私は恥ずかしくてしかたがないのに!
「言うって、何を?」
「……旦那様に、俺のことが好きだって……言ってきてほしい」
「あっ!」
すっかり忘れていた。
『好きな相手ができたら言いなさい。どんな相手でも、後押ししてあげるから』
お父様にそう言われていたことを。でも、早くない? さっき告白したばかりなんだよ。
「別に明日じゃなくてもいいんじゃない。オレリアだけじゃなくて、ユーグも帰った後。その方が、落ち着いて話せると思うの」
「それじゃ、遅いんだ。明日じゃないと」
叔父様が私とユーグを婚約させようとしているから?
私はいまいち納得できずにいると、ふとユーグの言葉を思い出した。
『エリアスの言うことを聞くことかな』
状況を把握できていない私とエリアスでは、持っている情報も違う。ここは大人しく従うべきかな。
「……エリアスがそう言うなら、明日お父様に言うわ」
「できれば朝がいい」
「え? 朝ってオレリアが帰るから、バタバタしているのよ。そんな時間をわざわざ選ぶのは、あまり良くないと思うんだけど」
下手したらお父様を捕まえることができない。夕食の席で、頼んでみる? ううん。オレリアもいる場で、そんなことを言えないわ。
「大丈夫。旦那様には俺から時間を取ってもらうように都合をつけるから」
「ということは、エリアスも同席してくれるのね」
「いや、俺は用事があるから……」
「なっ!」
わ、私だけ恥ずかしいのを我慢しに行くの!
「酷い!
「マ、マリアンヌ!?」
驚くエリアスを余所に、私は
なぜなら、明日の朝に用事とは、オレリアを見送ることしかないからだ。
「傍にいてほしい時にいてくれないと意味がないの。もう
「あれはそうしないと、マリアンヌが危険だと思ったんだ。刺激するより、機嫌を取る方が――……」
「分かっているけど、私の機嫌は?」
エリアスの胸に顔を埋めて、服を握り締める。すると、優しく髪を撫でられた。
「勿論取るよ。何がいい? 厨房に行って、マリアンヌが好きなフルーツケーキを持って来ようか? それともこっそり外に出てみる?」
意外な提案に、私はエリアスの顔を真っ正面に見据える。
「え? 外に出られるの?」
「うん、と言いたいところだけど、夕食まで時間がないから、今度。どうかな?」
「行きたい! 連れてって」
思わず前のめりになると、エリアスは私の頬に触れて、軽くキスをした。
「いいよ。これで機嫌を直してくれた?」
「~~~っ!」
もうしないって言ったのは嘘だったの!
私はエリアスに抱きついて、赤くなった顔を隠した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます