第十話 エピローグ
豪鬼が窓から飛び落ちてから数日が経過した。
俺は特に何もお咎めはなく、いつもの変わらない日常を過ごしている。豪鬼は勢いあまって自分で落ちていった間抜けという事で処理がされた。
今日も不味くも美味くもないパンを口に押し込みながら、家を飛び出した。
しかし、前とは少しだけ違いその足取りは軽い。
俺が教室の扉をあげると、皆がこちらを見た。
すると、
「おはよう! テツジン!」
「おはよ〜。テツジン君」
テツジンってのは俺につけられたニックネームみたいなやつだ。
どうやら豪鬼を追い出したから鉄人って敬意があるとかなんとか……
呑気な挨拶が聞こえてくる。
俺も「おはよう。」と挨拶をしながら自席に向かう。
落書きが消えたピカピカの新しい机だ。
机に寝そべり、遠巻きにクラスの様子を伺う。
クラスメイト間での会話が生まれていたのだ。
同じEランク同士。元々、通じる物があったのだ。豪鬼に支配されていた一学期を取り戻すように互いに活発に交流している。
仲良くなるまでに時間は必要なかった。
少ないクラスメイトたちは笑い合いながら、授業が始まるまでの間、会話を続けている。クラスの雰囲気は驚くほど明るくなっていた。
豪鬼はどうなったのかというと、現在治療中ということで三ヶ月の休学をとっている。
窓から落ちた事を、「滑って落ちた。」とだけ言っているそうだ。
それもそのはず、「Eランクをいじめていて、反撃されてやられました。」とはあいつのプライドが許さないし、Eランクにやられたと言えば、自分の社会ランクすら下がる可能性もある。口が裂けてもいえないだろう。
豪鬼にべったりとくっついていた金髪の女は俺がやったと言ったらしいが、豪鬼本人がはそれを否定し、クラスの奴らも誰も見てないと言ってくれたのだ。それはそうだ、豪鬼を庇う理由なんてクラスの奴らにはない。
先生すらも豪鬼の自己中心的な立ち振る舞いには嫌気がしていたのだろう。大した調査もされる事なく俺は証拠不十分としてすぐに解放された。
あいつが居ないだけでこの教室はすごく平和な空間になるのだ。物思いに耽っていると、クラスメイトの一人が俺に声をかけてくれた。
「なぁ、テツジン。これから皆でベーカリーまるじょうにいこうって話してるんだ! お前も来ないか?」
とはいえ、俺たちはEランク。遊べる場所なんて限られている。選択肢なんてまるじょうくらいしかないわけだ。
「いいね!」
ふふっと小さく笑って応じる。
「それじゃ放課後なー!」
「あぁ!」
先生が来たためクラスメイトは自分の席に戻っていった。
「それじゃ、授業始めるぞ。」
先生の声色も少しだけ明るく聞こえる。
俺は、この空気嫌いじゃない。
窓の外を見つめながら、俺はそう思っていた。
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