【R・T・B】底辺からの成り上がりチート無双

REX

第一話 鉄人

 俺は、一人の少年とそれを取り囲む30人のクラスメイト達の姿を俯瞰して見ていた。

 中央にいる少年は生まれたままの姿になり、中央にいる少年は泣きじゃくっている。周りに助けを求めるように涙を浮かべた顔でキョロキョロと首を必死に動かしているが、誰も助けてはくれない。それどころか、そんな少年の姿を見てクラスメイト達は、少年に無邪気で残酷な笑顔を向けている。それは、人を痛みつける事を楽しむ残酷な笑みだ。


――この少年は昔の俺だ。

 

 この時の俺は、こんな状況に置かれて初めて社会の残酷さを理解した。

 この世は弱肉強食なのだ。

 それは成長した今もそんなに変わらない。


 俺は最底辺の人に落ちたのだ。


 いや、人ではすらないのかもしれない。

 クラスメイト達の残忍な笑みがその事実を突きつけていた。


 最底辺の底の底。

 これは何も持たない、何もできない少年――小杉山こすぎやま鉄人てつひとが覚醒する物語。

 

☆☆☆


 キーンコーンカーンコーン!


 授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。

 時間は十二時。

 お昼の真っただ中、俺は、昼休み時間に入って直ぐに眼鏡をはずして顔を机に突っ伏した。

 疲れていた訳ではない。

 その理由は――


「おい!!! ポチ!!!!!」


 教室の中に轟いた男の怒号。これが寝たふりをした原因だ。


 ポチとは俺のことだ。

 俺は一縷の望みにかけて、声の主を無視して寝たふりを続ける。

 こうすることで、この声の主が俺に話かけることをやめてくれることもあったのだ。

 

「寝たふりとかやめろよ。ぶっ飛ばされてーのか!」


 だが、そいつの二声目はその望みをぶち壊すものだった。

 こいつなら本当にぶっ飛ばしてくるだろう。

 机に突っ伏していた顔を上げて、声の主の方に振り向いた。


「なんですっ!? ――っ、い〝っ〝!」


 ガンっ!

 振り向いたと同時に飛んできた空き缶が額に当たり視界がぼやける。

 額から生暖かい感触が伝わり、床にポトポトと赤い水が垂れていくのがわかる。

 強烈な痛みで額を押さえる俺に向かって、小ばかにしたような小さな笑い声が聞こえてきた。


「ポチ、無視してんじゃねーよ。」


 額を抑えながら、改めて声の主を見る。そいつは金属バッドを片手に持ちながら、にやけ顔でこちらを見ていた。

 こいつの仕業だった。


「おう? なんだその目は反抗するってのか? あぁん?」


 こいつは剛山ごうやま豪鬼ごうき

 ピアスが沢山つけられた耳、反りこみの入った金色の短い髪、ゴリラみたいな筋肉とその体に入れられた厳つい入れ墨。

 見た目通りの札付きだ。


 こいつとは小学生の時からの腐れ縁だ。

 誕生日が近い事もあり、なにかと縁のある。

 いや、縁があるといえば聞こえはいいかもしれない。

 今では思い出したくないほどの黒歴史というやつになっている。


「早く昼飯、買いに行けよ!」


 豪鬼の声にはイライラとした感情が籠っている。

 当然、憤りたいのは俺の方だ。「しらねーよ。馬鹿。勝手に買いに行けよ。」っと、喉から出かかる言葉を飲み込む。

 そんな言葉を返したら今日一日はまともに歩くことはできないだろう。

 

「ポチ~、さっさと買いに行きなよ~w また豪くんにボコボコにされたいわけ~」


 豪鬼の隣にいた肌の焼けた金髪の女がニヤニヤとしながら俺を挑発してくる。

 金魚の糞のように豪鬼の後ろでイキる女。怒りを込めて握りしめたこぶしには力がこもってしまう。

 こいつらは嫌いだ。

 でも、俺は喧嘩になるのは、あの地獄を体験するのはもう嫌なのだ。そもそも力では勝てるはずもない。

 穏便にすますためにはこいつらの命令を聞くしかない。

 しかし、先週、全財産はこいつらにカツアゲされてしまっている。俺は生憎、お金を持っていない。

 だから今日だけは、余計に関わり合いになりたくなかったのだ。

 

「あのっ……今日はお金持ってないですから……」


 俺は何も悪くないのだが、申し訳なさそう顔をしながら謝罪の言葉を口にした。


「「はぁ~。」」


 わかっていることだがこいつらは痴呆のクズだ。

 呆れた声を上げた豪鬼と金髪女にイラっとする。


「お金をもらえれば、パンを買ってきま……」


 俺の言葉はここで止まる。

 豪鬼は鬼の形相を浮かべて立ち上がると持っていた金属バッドをへの字に曲げた。

 まるで己の怪力を誇示するかのように。


「てめぇ? まだ舐めてんな?」


 折れ曲がったバットを投げ捨てると、目元をピクピクとさせながら豪鬼がこっちにやってくる。

 びくりと体が震えてしまう。


「お、俺の持ってきたお弁当ならあげますから……」


 俺は自分のバックから、国から支給されている半固形の非常食を雑多に詰めた弁当箱を差し出して、豪鬼の前に差し出す。


 豪鬼は何も言わずに弁当箱を乱暴に奪い取ると、俺の頭に思いっきりたたきつけてきた。

 弁当に入っていた色のついた粘度の高い非常食がぼとぼとと頭上から地面に垂れて、床に落ちて弾けていく。


「あっ…あっ……」


 普通ならばこんな事にする奴に激昂するのが当然だろう。でも俺はなにも言えない。変な音が喉から出てしまうだけだ。

 その残骸を踏みつけながら、豪鬼は吠える。

 

「テメー、俺様に喧嘩売ってるな?」


 胸倉を掴まれて、悠々と持ち上がれてしまう。

 豪鬼は身長190㎝もある筋骨隆々とした男だ。

 自分のようなヒョロガリではどうしようもない。

 それに、こいつの怪力は化け物といっても過言ではない。

 そういうギフトをもらっているのだから、実際に化け物なのだ。


「……」


 何も言えずにいるとそのまま突き飛ばされてしまう。

 俺がよろめくと、豪鬼は殴る姿勢をとった。


「やめっ!」


 俺が言葉を言いかけた瞬間、世界が硬直した――

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