桜の木の下で
待ち合わせは1年前のここだった。
桜の木の下。
ちょうど1年前、桜が満開になる季節、私は彼に告白をした。彼はすごく喜んでくれたけれど、「すぐに返事は出来ない。夢を追いかけるから、来年同じ日まで待ってくれないか?」と返してきた。
たかだか365日。すぐに過ぎる。彼のことを思ってきた何分の一、何十分の一に過ぎない。待ってる、と私は返事をして、その場を別れた。そして、今日。あれから1年が経ち、彼を待っていた。
いや、待っているというの言葉は適切ではないのかもしれない。彼は私より早くここに来ているのだ。
昔からよく語られる逸話に、桜の樹の下には死体が眠る、という話がある。まさにそれ。そう、ここには私が殺して埋めた彼が眠っている。
最初はもちろん1年後、つまり、今日まで待つつもりだった。追いかける夢がある男の人は素敵だし、彼のこと諦めきれなかった。しかし、そのあと彼は浮気をし、夢を追うどころか遊び歩いていたのだ。それを設置していた盗聴器で知った。それを許せなかった私は彼を追い詰め、そしてーーーー。
だが、後悔はしていない。なぜなら、これで彼とずっといられるのだ。
桜の木の下に埋めた彼を掘り起こす。土で茶色くなっていたものの私が好きになった彼は変わらずそこにいる。そっと口付けを交わし、また土に埋めた。
またね、と呟いて桜の木から離れた。彼が彼としていなくなるその日までもう少し生きて行こうと思う。
END
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