第24話

「来たね。ハルヒちゃん。」

かおりの目はまっすぐハルヒを見据えている。

手に構えた火縄銃の口からは煙が漂っている。

「あら、あんたも来てたのね。キョン。」

かおりには目もくれず、ハルヒは俺のほうを見る。

目が青く光っている。

「気を付けろ兄ちゃん。こいつはハルヒだけどハルヒじゃない。」

状況はいまいち掴めない。が、ヤバいことが起きていることはなんとなく察することができた。

「ホント、どこまでもキョンのことかばっちゃって馬鹿じゃないの。」

「馬鹿で結構さ。告白する勇気もないハルヒちゃんよりはマシだね。」

「ふん、まあいいわ。そこまで言うなら勝負しようじゃない。」

望むところだ。とかおりは自信満々に答えているが、俺はこの展開を望んではいなかった。特に次に出てくるハルヒの一言は俺の神経をすり減らせた。

「合戦よ。勝ったほうがキョンと付き合うということでいいわね。」

「ああ。いいぜ。」

いや、よくねーよ。

何勝手に約束してんだよ。

どちらのルート選んでも女の子と付き合わなけらばいけないなんて、世の男性、特に恋愛シュミレーションゲームが好きな紳士諸君には夢のような出来事かもしれないが、俺は違う。

俺は朝比奈さんが好きなんだ。

「待って・・」

と言いかけたとき、涼宮ハルヒはすでに馬を翻し、玄関を通り過ぎていた。

「合戦は明朝、場所は戦場ヶ原で!」

ハルヒはそう捨てセリフを吐いて一気に駆け抜けていった。

俺は遠くなっていくハルヒの後姿をただ見つめることしかできなかった。

背後から衝撃が走った。

体が宙に浮いている。

何が起こったのか一瞬理解できなかった。

俺はかおりに首根っこをつかまれていた。

いつの間にかかおりは馬にまたがり、片手で手綱を引きながら、

もう片方の手で俺を持ち上げていた。

そのまま俺は後ろに放り投げられた。

このまま落馬するのかと思ったが、かおりの後ろにぴたりと付く形で俺は馬上の人となった。

「飛ばすぜ兄ちゃん、しっかりつかまっていろよ。」

俺は必死にかおりにしがみついた。

馬が猛スピードで走っているせいか、激しく上下に揺れる。

俺はかおりのみぞおちに手を回したが、たまに柔らかい乳房があたり、赤面した。

「安心しろ兄ちゃん。兄ちゃんは必ず守るからな。」

俺の恥じらいとは裏腹にかおりの声は真剣そのものだった。

その眼に涙が光っていたことに俺は気づけなかった。

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