第3話 かわいそうなゴブリンたち
一応、最低限の戦いのルールを決めて勇者と魔王は再戦を期し別れる事となった。
「なお死んだ魔物の魂は我の元に戻り、再び世界に戻る」
「魔王様!そこまで、言うのは不要なのでは…」
従者らしきカラスが言う。
「かまわん!こうでも言わんと『あら、この世界の魔王様は自分の欲望の為なら部下の命なんて、どうでも良いのですね』など言うに決まっておるからな!!!!」
「あら、よくわかってらっしゃるのね」
「わからいでか!この口の減らぬ小娘が!!!」
「では、正々堂々この世界をかけて戦いましょう」
「その言葉後悔させてやろう!!!」
「あの、ワシの意志は…」
この10分で10年は年を取ったかのように憔悴した王が抗議の声を挙げる。
「あら?まだ居ましたの?」
「そういえばいたな…。この小娘の次は貴様だ。せいぜい首を洗って待っておれ」
「すごい理不尽ではないか?それは」
こうして、世界を賭けた戦いは始まったのである。
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「あー、お主には3人の御目付役…もとい仲間をつけてやる。」
疲れ切った顔で王様は魔王以上に厄介な生物を追いだそうと『勇者と3人のお供が魔王を倒す』という言い伝えに従って、用意していた3人の仲間を紹介する。
「彼らは賢者のソーカに、ホビットのキスミ、ドワーフのベッキーである。旅の供に連れていくがよい」
○賢者 ソーカ=ヨシオカ
地球に2年ほど滞在し、世界を救うのに適した人材を捜していた……のに何故か彼女を選んだポンコツ。
ニートの様な生活をしていたため日本の常識とマンガなどにやけに詳しい。
○ホビット キスミ=ウス
気むずかしいシーフ。罠の解除や鍵開けを得意とする。
○ドワーフ ベッキー
歴戦の戦士。この地方の地形や天候、魔物に詳しい。
「あら?ベッキーさんはともかく、このお二人は戦い慣れしているようには見えないのですけど?」
綾香が王様に尋ねる。
「お主に必要なのは戦いの仲間よりも常識的を教える案内役の方が必要だと思ってな」
皮肉たっぷりに王様が言う。
だが、これは非常に正しかった事が後で判明する。
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『この女、アホか?』
ホビットのキスミは思った。
ここは草原を通る一本の道。
広い広いふつうの道である。
その中を軽快に移動する一団がいた。
勇者の一行である。
「我が吉弘家は元々武家の一族ですから」
そういうと吉弘綾香は、疲れた様子もなくしっかりとした足取りで歩いている。
「いや、問題はそこじゃねぇんだがな…」
たしかに移動ペースは常人よりも早く、しかも安定している。これなら戦闘になってもバテたりはしないだろう。
だが、彼女は歴戦の勇者でも英雄でもない。
ただのLV1の新人。
こちらに呼ばれたばかりのひよっこだ。
そうベテラン冒険者である彼女は思っていた。
整った道は見晴らしがよく、移動には適しているが、発見される可能性も非常に高い。
仮に敵に見つかって大軍で襲いかかられたら、隠れ場も逃げ場もない。
そして、予想通り、小さな矢が放たれた。
「あら」
お嬢様は危なげなく矢をかわす。
そして、矢の飛来した方を見ると魔物の姿が現れた。
草原でも草むらに身を隠し、いきなり襲撃するのに適した小さな体躯の持ち主。
ゴブリンである。
その数、5匹。
「囲まれてるぞ!!!」
前と左右を取り囲まれている事に気がつくパーティー。
これだけの数が一斉に矢を放ってきたら、重装備の戦士でも危ないだろう。
ましてやパーティー会場から抜け出したような軽装のお嬢様ではちょうどよい的にしかならない。
「クッソ!だから心配だったんだよ!!!」
悪態をつきながら、冷酷に見捨てるかの判断をしていると
「おうおう!そこの人間!!!何しにここに来た!!!」
非常に口の悪いゴブリンが問いかける。
「あら、あなたたちが魔王さんのおっしゃってた魔物さんたちですのね」
珍しい動物を見つけたように綾香が言う。
逆にゴブリンも綾香が珍しいのか、よだれを垂らして
「ああ、人間の見た目なんて俺たちにとっちゃ犬や猫ていどの違いにしか見えねぇが、おまえは上等な餌で飼育されてたんだろうなぁ!!少し臭ぇ(香水の香りです)が、肉は柔らかそうだし食いではありそ…」
ぱぁん
間の抜けた銃声があたりに響くと、急に静寂が訪れた。
いつの間にか突きつけていた散弾銃の弾が、前方に立ちふさがる3体の真ん中にいたゴブリンに深々とめりこみ、見るも無惨な挽き肉に変えたためだ。
「………………」
「………………」
剣で斬られたのと違い、散弾銃という面を抉りとる攻撃によって、原型をとどめない死体となったゴブリン(モザイク処理済み)を見て仲間二匹は、言葉を失った。
いや、思考が停止していた。
「淑女に向かって『臭い』だなんてひどいですわ」
傷ついたように綾香は言う。
いや、魔物を即殺したお前ほどでは…。と、ホビットが心の中でツッコミを入れていると、
じゃこん
聞きなれない不吉な音がした。
4匹のゴブリンはリロードの音など聞いたこともなかったし、仲間のゴブリンがなぜこのような悲惨な状態になったのかも理解ができなかったが、それがなにか良くない音であることは生存本能から理解できた。
そして、このままだと次にこの悲惨な死体になるのは自分たちである事も。
「さて、次はどなたの番かしら?」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ゴブリンにとって必死の鬼ごっこの始まりである。
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ふたたび あの『じゃこん』という不吉な音が聞こえる。
「「「%#’#)RJRPIRッッッッッ!!!!」」」
綾香たちを取り囲んでいたゴブリン達3匹が声にならない声を挙げる。
5対4。
数の上では勝っていたはずの自分達が、気が付けばあっさりと少数になっていた。
何故、このような事になったのか?
何故、仲間がいきなり死んだのか?
訳が分からないままゴブリン達は走る。
魔物なら通る事のない整備された道を。
魔物なら身を隠すために飛びこむ草原を無視して2匹のゴブリンは作戦通り、まっすぐに逃げていた。
ぱぁん
銃声が鳴り響き、4匹目のゴブリンが倒れる。
「お前、可愛い顔して容赦ねぇな」
「やるじゃねぇか。と言いたいとこじゃが、ここまで無残な死体だと褒めて良いのか悩むのう」
ホビットとドワーフが複雑な表情で次々と倒れるゴブリンを見ながら、綾香の後を付いていく。そのはるか後ろを賢者が息を切らして歩いている。
「賢者様はだらしねぇなぁ。」
「勇者様の方がしっかりしているぞ」
インドア派に厳しい2人。だが、賢者の口を見て表情を変える。
賢者の口が、『罠です。敵が待ち伏せてます』と言っていたからだ。
「やばい!おい勇者どのいったん止まれ!!!」
慌てて叫ぶホビットのキスミ。
そこで初めて50を超えるゴブリンに囲まれている事に気が付いた。
「おい!どうするんだ!いくらアンタに特別な力が有っても、これだけの数に襲われたら危ないぞ!!!」
ゴブリンの群れはタダの小鬼から体躯の大きなホブにメイジまでさまざまな種類がいる。単純に逃げるだけではすぐに包囲されるだろう。
相手との距離を見ながら、何体倒せるか計算する。
勇者が使う、あの不思議な呪文でも全て倒すには5分は必要だろう。
そのあいだに左右に展開されて毒矢を打たれれば、あの勇者はかわせるだろうか?
被害を無視してゴブリンが群れて襲ってきたらどうするか?
そんな事を考えていると
「これは、スキルと吉弘流護身術の出番ですわね」
と、気合いを入れて綾香嬢は言った。
そして、柔道の様な構えを取ると右腕を天高く掲げ、吉弘は透き通るような声で
「スキル『私物取り寄せ!』&吉弘流護身術、その10!ですわ」
高らかに叫ぶと、お嬢様は片手を高く上げ、与えられた能力で自分の私物を取り寄せた。
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