旅の始まり サイキ国 解放篇

第1話 この国の救助料はおいくらかしら?

(※本作はフィクションなので実際の団体、人物、環境、大分とは一切関係ありません。)


 本作はフィクションですが、地形や地名は考えるのも覚えるのも大変なので、大分県の地名をカタカナにして使用させて頂きます。


 大分の地図を見ながら佐伯>庄内間の侵攻方向を見ていただいたら、その位置が分かりやすいかもしれません。(※しつこいようですが本作はフィクションなので実際の団体、人物、環境とは一切関係ありません。)


 人物と紐付けたら実際に住む人の批判が怖いので、地域の特徴だけ上げまする。

 人物はいっさい本当に、ガチで関係ありません。

 あったら、困る。            登場人物が変人なので。


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『ヒダリニマガリマス!!!ゴチュウイクダサイ!!!!』

 猛スピードで迫るトラックが電子的な声で進行方向を告げる。

「$U’%=I)(#’()=#!!!!」

 あわてて右に逃げるゴブリンたち。

 何とか進行方向から外れて一息ついた。

 ……と、見せかけてウインカーをリセット!流れるようなハンドルさばきで右に急カーブ!あざやかにゴブリンたちを引きつぶすお嬢様。

 実に自然で、極悪なフェイントだった。


「「「ひでぇ!!!!」」」


 ソーカ・キスミ・ベッキーの仲間3人が声を合わせて勇者の非道を非難する。


『こいつ人間の心がねぇ。』


 その場の誰もが思った。

「戦いとは騙し合いですわ!!!命のやりとりをしているのに相手に情けを求めるなんて、ずいぶんと可愛らしい事をおっしゃってますのね!!!」

 そう言いながら、今度は『ヒダリニマガリマス!!!(ボイスレコーダー改造済み)』と音を出し、その予告通り左に曲がる。

「ギャアアアアアアアア!!!!」

 あわれなゴブリンは3分の1の確率で次々轢殺されていった。

 生ぬるい臓物が、彼女たちの頬を濡らしていく。


『なんでこんな事になってしまったのだろう』


 そう思いながら、賢者ソーカは勇者をこちらの世界に呼び出した時の事を思い出していた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「なるほど、魔王と言う軍団に攻撃されている貴国を助けてほしい。そうおっしゃりたいのですね」


 この世界の救世主として召喚された少女はわずかな説明で事態を把握したようだった。


「で、この国だけではなく他に点在する6国、及び世界中を救うとして、予算はいくらぐらいお出しになれますの?」


 彼女の言葉に王様は耳を疑った。


 救世主とは、わずかな援助で見返りを求めず世界を救う都合のよい存在。

 そこまで考えてなくても、ここまで露骨に報酬を要求されるとは思ってもみなかったのだ。


だが、目の前の少女ははっきりと言った。

「旅行中の食費。衣服は着たままだと不衛生な状態となり、病気のリスクも増しますから、使い捨てになるでしょう。それに、武器の調達もこちらの原始的な武器では話になりませんから、銃弾などの消耗品を常に補充する必要がございますの」


 まさか、国を救うという大事業を無料でできるなどと夢物語のような事は考えていませんことよね?


 彼女の笑顔からはそのような言葉が透けて見えた。


 そこで王様は、とりあえずの金額を提示した。

 この国は魔物から侵略を受けていること。

 そのため勇者と呼ばれる救世主を召還した事。ついては、魔物を退治して魔王を倒して欲しい事。


 以上の事情を説明し、軍資金(金貨50枚)と武器を渡した所、このような返答が返ってきたのである。


 ファンタジー的お約束を台無しにするが如きセリフに、目元をひくつかせながら

「現状では、これが精いっぱいの資金なのだ」

 というと、黒真珠のような美しい目が宙を向き

「熊とか鹿とかの害獣退治の費用と勘違いしてませんこと?」

 と、誠に失礼な言葉がかえって来た。さらには

「貴方がおっしゃっている『国を救う』と言うのは退もしくはという事でしょう?」

 と言って、金貨を一枚持ちあげる。

「これ、体積の割に重さが重いですしK10(純度41.6%)…いえ、K5(純度21%)程度ですわね」

 金相場が8000円まで高騰した2022年でも1g1600円の価値しか無い。

 それが50枚。

 約80万円で世界を救ってくれと言われたら、文句の一つも出ようものである。

「拠点の確保にかかる兵器の金額、部隊の補給。雇う人間の賃金。それらを考えたら、金貨の枚数がのではございませんか?」

そして

「国を救うために、たったこれだけしか資金を出せないんですの?この国の財政は大丈夫ですか?」


 と、心の底から心配した声で、美しい顔をした救世主は言った。


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 小国の王様にとって、勇者とはたった4人だけで魔物を退治し、そこから強奪した資金で装備を整え、魔王を退治する現代日本に例えれば『自分の頭で考える暗殺者』だと思っていた。故に成功報酬で3000万円程度用意すれば良いだろうと考えていた。

 だが、救世主アサシンとして召喚されたはずの相手が悪かった。


 彼女の名は吉弘綾香。


 世界を股にかける吉弘財閥の令嬢であり、大企業の跡継ぎとして数百万人の社員の扱い方を教育された戦争の操作まで出来る、勇者指揮官だった。


 そんな彼女にとって戦闘とは軍隊を揃え武器と食料を確保し、外交の一手として停戦までを含めた一連の流れをプロデュースする数十兆円単位の仕事だった。


 本来なら、こんな小国に呼んではならない人材だったのである。色んな意味で。


 地図を見ながら、拠点の確保と工作兵の人数。相手戦力の仮定を推測する綾香に、王様は『お前は一体どれだけの魔王を退治する気だ?』と突っ込みたくなったが、ぐっとこらえて


「いや、そんな金はこの国にはないのじゃよ」


 と、困窮具合を訴えると

「だったら、その王冠や服、または城をお売りになればよろしいではございませんか?」


 可愛い顔をしてヤクザも真っ青な事を容赦なく言われた。

「戦闘とは、生きるか死ぬか。全てを賭けたギャンブルですのよ。金を惜しんでは勝てる戦いも勝てませんわ。」


 総力戦が地球で行われたのは1914年の第一次世界大戦からである。


 この世界では人類の存亡をかけてはいるが、兵農分離も未発達な、まだまだ牧歌的な状態だった。

 王様にとって彼女は、魔王よりも恐ろしい戦闘狂に見えた。ゆえに

『何故、このような者を連れて来たのだ…』

 王様は、彼女を召喚した賢者を怨みがましい目で見るのであった。


そして


「我が国は困っているのだ、それを助けないとは貴女には人の心というものがないのか?」


 どうしても払えない金額に王様は哀れさを装って、情に訴えかけた。

「確かに、貧しい者、困っている領民を助けるのは領主の勤めですわね」

 綾香嬢はそう、うなずいて

「でも、国を代表する者や人の上に立つ者が人を呼びだして、無償の奉仕を要求するのはいかがなものかしら?」

 次の機会に生かせるから、今回は無料でやってくれ。

 世の中にはそんな言葉を平気で吐ける金持ちがたくさんいるそうだが、そんな言葉は彼女には通じない。


「払える対価をもっているにも関わらず、無料の成果を求めるのは物乞以下の精神ですわ。そのような方との取引はお断りしてますの」


 きっぱりと言った。

 

 だが、彼女も鬼では無い。

「例えば、貴重な鉱石がでる鉱山を割譲するとか、こちらにとって未知の技術を提供するとか、いかがかしら?」

「ふむう。鉱山か…」

 王はものすごい渋い顔をしながらいくつかの鉱山を提示したが

「こちらの世界ではちょっと価値がないものばかりですわね…」

 と、あっさりと価値を見捨てられた。


「仕方ありませんわね。だったら、、技術援助をして差し上げましょうか?」


「魔王でもないのに国を乗っ取ろうとしてきた!!!」

 数百万の家族の生活を守る予定の彼女は、ビジネスに関しては鬼よりも冷血だった。

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