ゲーム9:ナイスデート対決②
パソコンの電源を入れ、あるアプリを開けば、すぐに四つの点が現れる。
「全然違うとこ行ってんじゃん……今十二時か」
伊織はパソコンを見ながらニヤニヤ、ニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべている。
事前に持っておいてもらった発信器をしっかりとみんな持っているようだ。
「姉ちゃん姉ちゃん」
と、早織が降りてきた。
「ん? どうした?」
「何この点……」
「あ、いやいやいや、これね、シュミレーションゲームみたいなやつのアレよ」
「アレってどれ……姉ちゃん、これ絶対シュミレーションゲームじゃないよね。そういうメニュー表示とか無いし、なんか見たことのある形してる。これ、うちの県の周りでしょ」
「いやいや、そんな」
パシンと頭を軽く叩くが、早織の顔が本気で、思わず伊織は口をキュッと結んだ。
待ち合わせ時間に、平良真緒はジャストでやってきた。
「おはよえっ……」
思わず健吾は絶句した。
真緒がヒラヒラと黒と灰色のチェックのワンピースをはためかせてバタバタと走ってくる。
「……今日は誘ってくれてありがとう」
前の家庭教師対決の時から変わらず、ため口で話してくれた。
「お、おう……こっちこそ、なんかそういうゲームだって分かってんのにサンキューな。り、リボンと髪形すげぇ様になってるじゃん」
胸のリボンと顔のクルッとした髪を目で追う。
「そ、そう? あ、ありがと……」
はにかんだ笑顔
「今日はよろしくね」
「お、おう……このデカいリュックには何入ってんだ?」
「ラッキーズの応援グッズ」
「マジで? めちゃめちゃあるじゃんか」
「いや、そりゃ
「……あの人って誰だよ」
「後で分かるよん」
そうか、これが真緒の本来の姿だったのか。
――じゃあ、俺も緊張してられねぇ。
「よっしゃ! どこ行くか? まだキックオフまで時間あるぞ。なんかする? 映画見たりとか……」
「あ、そういえばさ、『ミスター・ブルー』っていう映画やってるよね。あれとか見に行かない?」
「何だっけ」
「サッカーの映画じゃん。日本代表の選手の話」
真緒はプクーと口を膨らませた。
「え? マジか。全然知らなかったわ。じゃ、行くか? チケット代払ってやるし」
「え、良いの? やったぁ! 健吾君大好き!」
――大好きって?
その言葉は心臓の奥深くに突き刺さり、甘い成分をどんどんと注入していくのだった。
ガッタン……ゴットン……ガッタン……ゴットン……
信号待ちか、電車の動きは緩やかになってきた。
三十分ほど、静かで、席の空いた車内に居続けている。隣には星朱が座っている。で、弘人はその隣のドアの手すりにつかまっている。
「……あと二駅」
「……」
何の反応もしてくれない。この、心臓を大きな手で握られているかのような思い空気が二人の間に漂っていた。
「……」
「……」
キキィッという耳を切り裂くような音が響く。電車が止まった。
やっとのことで車内から解放され、スーハーと外の空気を思い切り吸い込んだ。それでも、胃のムカムカはまだ残っている。
「美術館ってどっちだっけ」
「多分……あっちじゃない?」
「あ、そう」
ズンズンと朱は大股で改札へと向かっていった。僕は慌てて、小走りで朱を追いかけた。
と、ピタッと朱が立ち止まった。
「ん……? んだよ」
「ちょっとすごくない? この絵めちゃめちゃカッコいいじゃん。思わない?」
背伸びして朱の肩から顔を覗かせるとなるほど、確かに大荒れの海の様子を描いた浮世絵のポスターが貼ってある。それによると、博物館は右に曲がって、また左に曲がって、信号を渡り、高架下を抜けるとすぐなんだそうだ。
「……すぐじゃねぇじゃんか。めちゃ複雑」
「思った」
初めて朱がクスリと笑った。
電車で三駅の映画館に来ると、すでに樹莉はチケットブースに並んでいた。
「お、樹莉キュ……」
「あ、あなたね……なんか見覚えがあるけど、まあとりあえず、さっさと買って! 三十分後のやつ観るから」
振りむいた女性はまさしく前の家庭教師対決の時の人だったが、それと違うのは明らかに目が輝いていることだった。
「いやぁ今回刑事映画二本もここでやってるんだから最高! いやぁありがとホントに。しかもどっちも
「あ、そうだね……」
「でしょでしょ? あ、空いた空いた。はい、買って買って。八百円で買えるから! 二枚分!」
「はい……え、二枚ともっすか?!」
「さぁてと、そんじゃ最初どこ行く?」
「そ、そ、そだな……ええっと、とりあえずこのお寺行きません? すごい貴重な仏像があるらしくて……」
「じゃ、そうしようか。あと前も言ったけどさ、敬語使わなくていいから」
「は、はい……」
よく栄えた城下町には、人力車まで走っている。着物を着ている人も多く、まるで時代を遡ってきているかのような感覚がした。
「人力車でも乗ってみるか?」
「いや、それは帰りで……行きはしっかり、ここの感触を楽しまないと」
一瞬、キラリとあずきの目が光ったのを勝太は見逃さなかった。
「なるほどな。じゃ、行ってみるか……うわっと危ない!」
自転車が走ってきたのを避けるように、勝太はあずきの手を引く。
「わっ……」
勢い余ってあずきがこっちに倒れこんでくる。
「おっと」
何とか勝太はあずきを抱え込むようにして抑えた。
――いや、これ結構危ない形じゃんか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます