ゲーム5:キュンです動画対決②

 ついに……ついに……念願の早織キュンまであと一歩だ。

 あの人気者、五十嵐一馬の弟なんだから、他の下民どもなんぞすぐに蹴散らすことができる。

「クハハッ」

 思わず少し笑みがこぼれてしまった。

 小鳥ちゃんをこの胸で抱きしめる日が迫っていると思うと……どうしてもこそばゆくなってくる。


 さて、次は「キュンです動画」だ。

 一体何を撮ればいいかな……幸いにも、僕と兄ちゃんは結構身長が近い。僕が高身長だからだ。高身長は恋をするうえで有利になる。

 取り合えず、今は外出中の兄の部屋に忍び込み、机の上のスマホを取ってクローゼットを開ける。

 僕は兄ちゃんのスマホで女子にモテる高校生のファッションを片手で素早く調べる。

 ――なるほど。

 細身に見えるズボン。お勧め商品はクロップドパンツだったため、それを選ぶ。

 高校くらいになると、派手な蛍光色ではなく、落ち着いた色が良いそうだ。また、清潔感を出すためにインナーは白が良いと。

 白いVネックのTシャツ、黒いジャケットを取る。

 ――それにしても、兄ちゃん、結構たくさん服持ってるんだな……。


 さて、次は動画だ。

 一体何をすればいいんだろ……。




 勝太としては、もう決まっていた。

 この夏の季節からして、一番合うのはアロハシャツだろ。

 自分は結構オシャレだったから、アロハシャツもいくつかある。

 今回は、白いTシャツに黒いヤシの木が書かれた白いアロハシャツを着用した。下は青のGパンで行く。結構暑いけど……これのためならば、我慢できる。

 クローゼットの横の姿見で見ると……何かが足りない気がした。

 こういう時のために、クローゼットにはピアスやネックレスも溜めてある。アロハシャツに似合うのは、当然サングラスだ。

 ――これ、勝っちゃったんじゃね?




 ウソだろ、おい。

 ファッションとか一番苦手なやつじゃん。

 高校生は制服通いだし、休みの日は母に服を用意してもらってる。自分で服を選んで……なんてやったことがない。

 ――どうする、健吾。

 彼は自分で自分に問いかける。

 こういう時は、着慣れている“あれ”しかないんじゃないだろうか。あれが正直一番に合ってる気がするんだけど……。

 これに、いつものネックレスを付けておけば……。




 弘人はかなり迷っていた。

 オープンカラーのTシャツに、カーディガン、さらにテーパードパンツで良いと思うが……これには大して迷っていない。

 問題は。

 ――本当に、これにしていいのか。

 ということだ。

 今、弘人はスマホを片手にクローゼットの引き出しを掘り返している。

 この時代、スマホを調べると良いコーデというのはすぐに見つかるものだ。今回も「高校生 男 夏コーデ」と調べると出てきた。

 そこに載っていたのが、グレーのオープンカラーシャツに青いカーディガン、黒いテーパードパンツというわけだ。

 かなり大人っぽい良い服装だと思うが……。

 さらに黒縁メガネを付けるという手も紹介されていたが、そこまでやると正直自信がない。

「気持ち悪っ」

 と言われかねないからだ。


 ここまでは完璧なのだが、弘人には前科がある。

 ラブレター対決の時にネットで調べているからだ。そして、見破られ、このグループ追放の崖っぷちまで行ってる。

 だから、これはOKになるのか……正直これはバレないとは思うが、相手が伊織なのだ。何を言われるか分からない。

 ――かくなる上は。

 思い切って、素直になろう。


 弘人『伊織先輩、質問があります』

 弘人『自分ファッションセンス無いんですけど、インターネットで調べてコーデを作るってありですか?』


 このまましばらく待った。こんな質問して追放されたらどうしよう。心臓がバクバク言っているのが分かった。

 ピコンという音が鳴る。

 LINEからの通知だ。


 伊織『まあ確かに、弘人クンはファッションセンスの微塵も無さそうだから許してあげるよ。必要なのは動画だからね……ファッションセンス対決じゃないんだから』


 ホッ。

 まだ汗が首に浮かび上がっている。少しずつ心臓も鳴りやんできた。

 が、まだあるのだ。

 ――キュンです動画って、なんだ?




「どーしよっかなぁ」

 早織は姿見と睨み合っていた。

 どうも、良いコーデが見つからないのだ。

 今日は久しぶりに中学三年生の時の一組のメンバーと再会するのだ。そして、遊園地に遊びに行く。

 将来、“彼”とのデートの視察も考えて、私はLINEグループのメンバーを遊びに誘った。


“三年一組すみよし先生”

 参加者 早織・岡村・ミカ・咲来・織子・ひめ・ルカ・moe


 早織『久しぶりにみんなで遊ばない?』

 咲来さくら『いいね』

 岡村おかむら『行こう行こう。いつどこへ?』

 早織『じゃあ、九月五日の日曜、とよやま園に集合。どう?』

 ミカ『おぉ』

 ルカ『全員まだ何も予定決まってない? 私はもう決まっちゃってるんだけど』

 moe『私は……ダメだ』

 織子おりこ『私は全然いけるー』

 ひめ『私もダメだー! ゴメン』

 早織『じゃ、萌とヒメとルカ以外は行けるんだよね』

 早織『じゃ、当日の朝九時集合』


 取り合えず、ファッションは決めた。一年ぶりの再開だろうか。卒業式の時にこのグループ作ったから。




 そして当日。

「おぉ、さお! 久しぶり!」

 私は二番目に遊園地「とよやま園」に到着した。一番最初に着いていたのは冨野美佳子とみのみかこだった。

「ミカ、どう? “あれ”はもう見えないの」

「あぁ……超能力はもう出ないんだよね……まあ、そもそも最近もう一回見たいとも思わなくなってきた」

 美佳子は一度、二年のときに超能力で人の片思いの相手がどう思っているかというのを見ることができていた。最も、ホントかどうかは分からないが、私たちはみんな信じてやってる。

「それにしても、さおモテてそうになったねぇ。かわいいよ。おしゃれだし」

「そりゃどーも。ミカ的にどう?」

「いや~、なんか恋してそうだよね。神様によると“思い人”もきっとさおのこと見てるよ。そいえば、藍川君と同じなんだよね。藍川君も見てるんじゃない?」

「まさか。てか、超能力もう無いって言ってたじゃん」

 ハハハハハと二人で笑い合っていたが、実際ピンポイントで勝太のことを言われて、私の心臓は跳ねるように鳴っていた。

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