第二十話 ノア、それはズルい
「さて、みんな落ち着いてきたことだし、あれを素材にいいもん作るか」
俺はブラックスパイダーの死骸に手を当てると、そう言った。後ろから、騒がしくなった原因はオメーにあるんだよ~の視線が送られてくるが、しっかりスルーしている。
「まずは、はあっ!」
俺は剣をブラックスパイダーの腹に突き刺すと、そのまま腹を切り裂いた。そして、中から糸を引っ張り出した。
「取りあえず布にしとくか。〈創造〉!」
俺は〈創造〉で、ブラックスパイダーの糸を横三十センチ、縦十メートルの布にした。
「ケイン、その布はいい感じにまとめておいてくれないか?」
「分かった」
俺は作った布をケインに渡すと、今度はアースドラゴンの死骸を見た。
「作るとすれば防具なんだけどなぁ……」
ただ、アースドラゴンの素材で作った防具なんて身に着けていたら、めちゃくちゃ目立ってしまう。そして、強欲な奴らに目をつけられてしまうだろう。かと言って、この素材を売ろうにも、同じように目立ってしまうだろう。
「う~ん……爪を加工して短剣にして、マジックバッグに入れておくのが無難かなぁ……あの岩の甲羅は置いて行った方が良いかな……」
そう思った時、ケインがポンポンと俺の肩を叩いた。
「そういうことなら俺に任せろ。次に行く街で、ある程度なら売りさばいて来てやる。もちろん、俺達が売ったとバレないようにな」
「分かった。頼むぞ」
流石はケイン。仕事が出来る男だ。
「じゃあ、ノア。あの硬い甲羅を俺たちが持ち運びが出来るサイズに切り分けてくれ」
この状況で、あの硬い甲羅を切れるのは、ノアしかいないだろう。
そう思った俺は、ノアに甲羅を切り分けるよう頼んだ。
「うん。任せて」
ノアは頷くと、両手にシザーズをつけた。そして、アースドラゴンの目の前に行くと、右手を振り下ろした。
ザン!
綺麗な音を立てて、アースドラゴンの甲羅が切られた。ノアはこれを何度かやることで、アースドラゴンの甲羅は、持ち運びが出来るサイズまで切り分けられた。
「ありがとな、ノア」
俺は毎度の
「これでいい感じに引っぺがすか」
俺は剣を爪の下に突き刺すと、それを上に上げることで、爪をべりっと引っぺがした。その後、俺は残り十九か所でも、同じようにやった。
「よし。後はこれを、〈創造〉!」
俺はアースドラゴンの爪を〈創造〉で短剣の刀身の形にした。その後、森で切ってきた木材と、加工された爪を〈創造〉で組み合わせることで、持ち手が木、刀身がアースドラゴンの爪で出来ている短剣が二十本も出来た。
「よし。ケイン、お前の武器は短剣か? それだったら一、二本はあげるぞ」
諜報部員をやっていたことから、ケインの武器は、隠し持つことが容易な短剣だと思った。
「ああ、確かに俺の獲物は短剣だ。じゃあ、遠慮なく二本貰うぞ」
ケインはそう言うと、短剣を二本手に取った。そして、自分のポケットの中に入れた。よく見ると、ポケットが簡易的なマジックバッグになっている。
「ふぅ……後はマジックバッグの中身を整理しつつ、今作ったものを入れるか」
俺は自分のマジックバッグと、ノアのマジックバッグを手に取ると、中身を整理した。具体的には、俺の方にアースドラゴンの素材、短剣、金。ノアの方に生活用品、金、シザーズを入れた。
「はぁ~終わった……最近剣の練習してないから、少しやるか。ノア、ちょっと俺と戦ってくれないか? 頼む!」
俺はノアの前で両手を合わせると、そうお願いした。
後ろから、それ恋人に頼むことじゃねーよ~と、声が聞こえてきたが、これもしっかりスルーしている。
「分かった。じゃあやるね」
ノアはマジックバッグからシザーズを取り出すと、両手に装着した。
「じゃあ、俺から行く。はあっ!」
俺はノアに切りかかった。今の俺ではどうやったってノアには勝てないので、殺す気で切りかかった。
キン!
ノアは、俺の剣を右手で防いだ。
「はっ!」
俺は左手の追撃を呼んで、即座に後ろに飛びずさった。
予想通り、ノアは左手を前に振り下ろした。
「はあっ!」
俺はノアの左腕を左手で掴むと、素早く近づき、無防備となったノアの左腹に剣を振った。
キン!
だが、ノアは腕をクロスさせながら、右手を伸ばしてきたことで、防がれてしまった。
だが、この状況ならノアが追撃することは出来ないだろう。
「はあっ!」
俺はノアとの距離を詰めると、ノアの足に自分の足を引っかけて、転ばそうとした。だが――
「ええ!?」
ノアの足は、地面にくっついていることを疑うレベルで動かなかった。逆に、急に力を入れたことで、俺が後ろに倒れた。
「〈創造〉砂!」
俺は後ろに大量の砂を作ることで、怪我するのを防いだ。
「あー降参だ。ノア足腰強すぎだろ……」
俺は両手を上げて降参すると、深くため息をついた。
「ドラゴンに勝とうなんて百年早い。体重を一時的に戻した私の勝ち」
ノアはドヤ顔で、そんなことを言ってきた。
「おい! それはズルだろーが!」
「ズルじゃない。ちゃんと己の力のみで戦った」
「あ~~……」
うん。一瞬でも勝てると思った俺が馬鹿でした。本当に申し訳ありません。
そう思っていると、俺の肩にポンと手が置かれた。
振り返ると、そこには冷や汗をたっぷりとかいたケインがいた。
「なあ、ドラゴンってどういうことだ?」
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