第五話 「がしっ」「ぽいっ」「ぴょんっ」「ぶすっ」
「ノア、近くに魔物はいるか?」
「ん~と……百メートル先に魔物がいる」
「分かった」
俺はノアのドラゴンの感覚を頼りに魔物を探し出すと、そこに向かった。
「いた! あれは……フォレストウルフか」
フォレストウルフは危険度Bの魔物だ。体長は二メートルほどで、灰色に薄く緑がかった体毛をしている。
基本的に素早い動きで敵を捕らえる厄介な魔物だが、群れで行動しないので対処はしやすい。
「まあ、こいつなら剣のみでもギリ勝てそうだな」
身体能力ではフォレストウルフの方が少し上だが、そこは技術でカバー出来るから問題はない。
「じゃ、ノア。やばくなったら手助けを頼む」
「うん。任せて」
ノアは手に力をこめると、力強く言った。
「では、はあっ」
俺は木の裏から素早く跳び出すと、鉄剣を横なぎに振ってフォレストウルフを上下に真っ二つにしようとした。だが、フォレストウルフは反応が少し遅れたのにも関わらず、後ろに跳ぶことで回避した。だが、胴体にうっすら線が入っているのを見るに攻撃が当たらなかったわけではないようだ。
「ちっ仕留められないか」
俺は不意打ちをしたのにも関わらず、仕留められなかったことに
「はあっ」
俺は素早く剣先をフォレストウルフの首元に向けると、素早く刺突した。
「グガァ……」
鉄剣はフォレストウルフの首を貫通し、フォレストウルフは息絶えた。
「よし、倒せた。じゃ、あとは素材を取るか」
俺は小さくガッツポーズをとりながらそう言うと、鉄剣で首を切断した。そして、フォレストウルフの死骸に触れると、〈創造〉で死骸から毛皮を作った。
「すご~い。一瞬で毛皮になった」
ノアはフォレストウルフの毛皮をつまみ上げると、毛皮をじっと見つめた。
「そうか? ただ解体なら〈解体〉のスキルを持っているやつの方がもっときれいに取れるぞ」
俺は頭を
ここで、〈操作〉を使って穴を掘らないのは魔力を少しでも節約する為だ。まあ、ノアの魔力譲渡があるので必要なかったと思うが……
「これくらいでいいかな。じゃあ、あとは入れるだけだな」
俺は二十分かけて掘った穴の中に、素材にならない毛皮以外の部位を放り込むと、〈創造〉で作った火をつけて燃やした。その後、程よく燃えたところで土をかけて埋めた。
「ふぅ……これで良し」
魔物の死骸には魔素が大量に含まれているので、そのまま放置してしまうと、強さと引き換えに高い再生力を持つアンデッドになる可能性が高い。それを防ぐ為に、魔物の死骸を適切に処理することは冒険者のルールでもある。
「じゃ、ノアの方はどうかな?」
ノアには、俺が死骸を埋めている間に強い魔物を倒して持ってきてほしいとお願いしてある。
「う~ん……確かノアはあっちに行ったよな?」
ノアならここの魔物ぐらい直ぐに倒せる。それなのに、なかなか帰ってこないことに心配した俺はフォレストウルフの毛皮を
だが、少し歩いたところでノアがこっちに向かって歩いてくるのが見えた。
「あ、カイン! 遅くなってごめん。強そうな魔物がなかなか見つからなくて……でも、ちゃんと狩ってきたから安心して」
ノアは左手を振りながら笑顔で近づいてくる。だが、俺は自分の目を疑った。
何故なら、ノアは岩の
かわいらしい少女が、巨大な亀を担いで歩いてくる光景には、違和感しか感じられない。
「あ、ありがとう……ていうかそれ、ロックタートルじゃないか!」
ノアが担いできた魔物はロックタートルだった。ロックタートルは、危険度S−の魔物で、動きは遅いがとにかく硬いのが特徴だ。そんな魔物を、特に傷つけることなく倒したことに、俺は更に驚愕した。
「なあ、そいつをどうやって倒したんだ?」
「ん? 普通に、がしっ、ぽいっ、ぴょんっ、ぶすっ、で倒したよ」
ノアの理解出来そうで理解出来ない説明に、俺は思わず吹き出した。そして、そんな俺を見たノアは顔を真っ赤にすると、「むう」と頬を
「ご、ごめん。ちょっとそれじゃ分かりにくかったから……え~と……例えば『首を剣で切り落とした』とか、『投げ飛ばした』とかさ、そんな感じの説明を頼むよ」
俺の例えは、前者ならよく使いそうだが、後者は絶対に使わない。自分でも、「この例えはどうなんだ?」と思うほどのものだった。
だが、ノアはそれを聞くと、「あ、確かに」と
「え、え~と、まず頭を
ノアはニコッと笑いながらとんでもないことを言いやがった。
こんな重たいやつを投げ飛ばすなんて理不尽にもほどがある。
「ん? てかドラゴンクロウって何だ?」
「あ、それはこれのこと」
そう言うと、ノアは右手を前に向けた。その次の瞬間、ノアの右手だけがドラゴンの手になった。
「わ、凄ぇ」
俺はノアの右手をまじまじと見つめた。よく見ると、爪が本来よりも長くなっているように見える。
「こ、これは体の一部を元の状態に戻して、少しだけ爪を変化させただけ。だから私からしたら普通」
ノアは右手を人の状態に戻すと、視線を横にそらした。
「まあ、ありがとな」
俺はノアの頭を優しく
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