第19話 魔王の復活
正也はセツナの魔法の光が向かった先を目指してここへ来た。山の周囲には気配を遮断する結界が張ってあって、方向が分からなければ見つけられないところだった。
入ってしまえば戦っている気配はすぐに分かった。スキルマスターはこうした気配には敏感だ。急がなければならない。
正也はもう走って昇るのは止めて、炎のスキルを波にして乗り、一気に屋敷へ突入した。
目的地に到着した正也はすぐにその場を見回した。倒れている菜々に必死に回復魔法を掛けているセツナ。ぼろぼろになって座り込んでいる私。そして、冷静に見つめ返しているマムに目を留める。
「こちらの世界のスキルマスターとやらか。一足遅かったな。今からわしが魔王にとどめを刺すところじゃ」
「まやかまで……何そんな奴に負けてるんだよ!」
そう言われても。心臓のすぐ近くに爆発を食らったんだ。生きているだけでも褒めてほしいんだけど。
私には言い返す元気もない。代わりに回復魔法で元気を取り戻してきた菜々ちゃんが叫んでくれた。
「正也君! その小さな女の子がエックスデイを起こしたんだよ! あたしもセツナちゃんもまやかちゃんもそいつに……やっつけちゃって!」
「分かった!!」
正也はもう多くを聞かずに素早く飛び出す。相手が幼い女の子の姿をしていても戦ってきた者として敵の強さは感じる。ましてや友達を傷つけた者を彼が許すはずもない。
「覚悟しやがれ!」
「それは何の覚悟かの」
正也は炎のスキルで攻撃するがマムには簡単に避けられてしまう。戦いのレベルがまるで違う。見ているだけでもすぐに分かった。
「こちらの世界のスキルマスターとやらか。羽虫のようだが、一応見てやるとするか」
「うるさい! お前がこの世界にモンスターを放ったのか!」
「いかにも。少しは楽しい世界になったのではないか? お前達もスキルとやらに目覚めて良い気分になれたはずじゃ」
「ふざけるな! こっちはいい迷惑なんだよ!」
正也の攻撃はまるで通用しない。彼のキックをマムは大きな杖で防ぐ。完全に遊ばれている。スキルで防ぐまでもないと判断されている。
「遊んでやろう。すぐに終わるでないぞ」
後方に跳んで、マムは杖の先に大きな火炎の渦を巻き起こした。
「そのスキルとやら、わしの世界の魔法とよく似ておる。興味深い力じゃ」
凄まじい炎が放たれる。正也も炎のスキルで反撃するが全く歯が立たない。火炎の渦は止められない。避けるしかなかった。
「くそっ、まやかもお前も俺の専売特許をあざわらいやがって!」
「なら今度は氷を食らってみるか? 炎使いには堪えるかもな」
「まじかよ」
マムは氷のつららを放っていく。賢者というだけあっていろんな魔法が使えるのだ。正也はよく戦っているが、このままではやられてしまう。
立ち上がろうとする私のところにセツナちゃんがやってくる。
「今、回復をします」
「いいの? 私魔王なんだけど」
「そんな冗談は止めてください」
冗談じゃないんだけど。セツナちゃんの真剣な顔を見ていたら私は何も言う気が無くなってしまう。彼女もいろいろ考えた結果なのだろう。
その結果、私達を助けてくれる気になったんだ。それが嬉しい。菜々ちゃんは何をやっているんだろうと思ったら、マムに向かって手を振っていた。
「おーい、こっちだ。へっぽこ賢者!」
「ほう、お前もわしと遊びたいのか。フェニックスを見せてやるぞ」
「ええ!? そんなのも出来るの!?」
「俺のアイデンティティ……」
時間を稼いでくれているようだ。だが……
「大丈夫なの? 菜々ちゃんは。フェニックスを出されてるんだけど」
「魔法を防ぐお守りを上げたんですが……」
そんな物で防げたら誰も魔王や賢者に苦戦したりはしないだろう。案の定、菜々ちゃんの掲げたお守りバリアはフェニックスが近づいた熱だけで簡単に破られていた。
慌てる菜々ちゃんを正也君が助けてくれる。
「下手に相手を挑発するな!」
「ごめん……」
だが、二人が稼いでくれた時間は役に立った。セツナちゃんの魔法は優秀で、私の体は大分楽になってきた。
今のうちに私にはセツナちゃんに伝えておかなければならない事がある。
「マムを倒すと多分セツナちゃんは元の世界に帰れなくなると思うけど、それでもいい?」
「構いません。わたしはもうあなた達の学校のクラスメイトですから」
「心得た」
私は立ちあがる。セツナちゃんの回復魔法は私なんかよりもずっと優れていて、すっかり元気になる事が出来ていた。菜々ちゃんもあれだけはしゃぎ回れるわけだ。
私の復活に菜々ちゃんは喜んで、正也君も安心した顔をしていた。マムはたいして驚いていなかった。
「セツナが何かをしておるのには気づいていたが、今更弱者を復活させて何かが出来ると思っておるのかの。同じ結果になるだけだとは思わぬか」
「思わない! なぜなら私は魔王まやかだから!!」
もう決意は揺るがない。瞬時に自分のスキルを爆発させる。
ずっと隠して生きてきた。私が溜め込んでいたその力は凄まじい奔流となってマムを飲み込み、屋敷の屋根まで派手に吹っ飛ばした。
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