第17話 セツナの屋敷へ

 セツナちゃんが杖で床に円を描くとそこに魔法陣が浮かび上がった。彼女の使用する魔法は転移だった。これで異世界にいるマムと連絡を取る屋敷へと飛ぶのだという。

 奴は以前に学校にいる私に介入してきた事があったが私はテレパシー系は使った事が無いし、無駄にスキルを使うつもりも学校を敵の標的にするつもりもないのでここは乗っておく。

 間近で見る魔法に菜々ちゃんは目を輝かせていた。


「凄い、セツナちゃん。こんなこともできるんだ」

「修行すれば菜々さんも出来るようになるかもしれませんよ」

「え!? あたしにもこの技が使えるの!?」

「才能があって修行に耐えられればですが」

「無理かなあ。今のあたしにはまやかちゃんについていくだけで精一杯だよ」

「そうですか……」


 セツナちゃんは残念そうに呟いた後、杖を掲げる。すると、魔法陣から光が放たれた。発動する状態になったのだ。後は乗るだけで目的地へ飛ばされる。


「行きましょう」


 セツナちゃんは手を差し伸べてくる。私にはもう迷いはない。菜々ちゃんと一緒に足を踏み入れる。

 そして、私達は屋敷へと転移するのだった。




 その頃、モンスターの現れる警報を聞いた正也は校門で敵を迎え撃っていた。

 相手はスライム、ゴブリン、ウルフ、リザードマン、オークからなるグループ。最近近所で目撃されていたモンスターがまとめてきた。


「敵もこちらを見習って手を組んで来たってわけか? こんな忙しい時にセツナはなんで来ないんだ?」


 手に負えないほど強いモンスターはいない。だが、やはり種類と数が多いと手を焼いてしまう。


「ちっ、まとめて吹き飛びやがれ。ファイアバースト!」


 とにかく威力と連発で押し切るしかない。セツナが来たら交代して休憩させてもらうつもりで戦っていたら校舎から光が飛び出した。


「あの魔法はセツナか? 仕事をさぼってどこへ行くつもりなんだよ。まさか!?」


 さぼりで思い出したのはよく校舎のどこかで避難もせずに呑気に見ているまやかの姿だ。振り返ると、校舎のどこにもまやかの姿がない。いつも一緒につるんでいる菜々の姿もだ。


「まさかあいつ絡みなのか!?」


 正也も最近まやかの様子がおかしいのには気づいていた。それに転校生であるセツナが絡んでいる事も。

 なぜか転校してきた時からセツナはまやかを気にしていた。だから似合わない二人が一緒に教室を出て行く時にこっそりと立ち上がった菜々と一緒に後を付けることにした。

 だが、モンスターが現れて追跡は妨害されてしまった。菜々に任せてきたがその判断は正しかったのだろうか。


「日向はスキルマスターじゃないんだぞ。もし何かあったら……」


 考えている間にもモンスターが迫る。光は山の向こうに消えていく。


「くそっ、ここが片付いたらすぐに俺も行くからな!」


 学校を置いて出ていく事はできない。仲間ができて安心したところを狙われてしまった。

 正也は今は目の前の戦いに集中して、モンスター退治をしていくしかないのだった。




 気が付くと私達は山の中の屋敷の前へと転移していた。


「これがセツナちゃんのスキルなんだ。魔法みたいだね」

「実は魔法なんです」

「へえ」


 スキルマスター達の戦いは何度も見てきたが移動系に乗ったのは初めてで菜々ちゃんは感動している。

 私だって魔王のスキルで同じような事が出来るかもしれないが、不用意に使う気はない。知り合いに見られたら目も当てられないし、運の悪さには自信があるから。

 今は菜々ちゃんも傍にいるし……


「あれ? 菜々ちゃんは……?」

「さっきまでそこにいたんですけど」

「おーい、早く入ろうよー」


 傍にいたはずなのにいないと思ったら、元気な彼女はもう屋敷の門の前まで行って手を振っていた。

 行動の早い子だった。私はセツナちゃんと一緒にそこへ向かう。


「今開けますね」


 セツナちゃんが杖を翳して呪文を唱えると門はひとりでに開かれた。


「すごーい、手も触れずに。電気とかじゃないんだよね」

「はい、これも魔法です」

「便利だね。私もスキルを使おうかな」

「魔王のスキルをですか?」

「うーん、やっぱりめんどくさそうだからいいかな」


 面白さとめんどくささを考えるとやっぱりめんどくささの方が勝ってしまう。門ぐらい鍵で開ければいいし、スキルに頼る生活というのも気が進まない。

 めんどくさがりの私は何よりも変化というものを嫌うのだ。

 そんな私を菜々ちゃんが覗きこむようにして訊ねてくる。


「まやかちゃんもスキルを使えるの?」

「私は何も使えませんよー。あはは……」


 今更誤魔化しても意味がないかもしれないが、そう答えるしかない私だった。

 菜々ちゃんはどこまで気づいているのだろう。明るい様子の彼女からは何も伺い知る事は出来なかった。

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