第10話 気に入られるまやか
長かった話がやっと終わった。照市さんは私なんかの何が気にいったのかご飯にも誘ってくれたが、私はもう疲れていたし遅くなると親が心配するからと断った。
帰りは来た時と同じように正也君が自転車で送ってくれた。今度はもうそんなに急いだりはせずに私は落ち着いて彼の自転車の後部座席で揺られる事ができた。
前で自転車を漕ぎながら正也君が話しかけてくる。
「親父の話、長くて大変だっただろ」
「うん、でもいろいろ教えてくれたから良かったよ」
「親父は普段は口数が少ない方なんだが、自分に興味がある分野になると途端によく喋るんだ。きっとまやかの事を気に入ったんだと思う」
「気に入られたのかなあ」
私には他人の考えてる事なんて分からない。それは魔王のスキルに目覚めた今だってそうだ。
「正也君は魔王は本に書かれてるような悪い奴だと思う?」
「ドラゴンやミノタウロスを倒して学校を守ってくれたし、意外とスーパーヒーローなのかもな」
「それ私が言ったやつ」
「あはは、冗談はともかく、俺達の前に現れた魔王は意外と悪い奴じゃないかもしれないな。だが、異世界の魔王はどうだろう?」
「異世界の魔王?」
魔王に世界の違いとかあるのだろうか。私はきょとんとしてしまう。正也君は自分の考えを話してくれた。
「ああ、本に書いてあったのはおそらく異世界にいた頃の魔王だろう。こっちに現れた魔王が同じ奴なのかは知らないが、気を付けておいた方がいいだろうな。お前も足元を掬われないように気を付けろよ。魔王ともなればドラゴンのようにはいかないだろうしな」
「うん、気を付けるよ」
それからは特に話す事は無く、私はただ黙って後ろの席で揺られていった。
その頃、部活を終えた菜々は着替えて昇降口を出るところだった。
「ふう~、やっと部活が終わった。まやかちゃん、正也君と一緒にどこ行ったんだろう」
二人がどこかへ出かけるのは見えていた。でも、部活中だったのでついていく事はできなかった。
部活が終わってみればもうすっかり遅い時間である。校門は修理が続いている。菜々は通り抜けて道路に出た。
「こんな時にまやかちゃんを語り合える友達がいれば協力しあえるのにな」
みんなまやかの凄さが分かっていないのだ。あんなに一人で何でも出来て、モンスターが現れてもしっかりしている人なんてなかなかいないのに、みんな背景のキャラのように思っている。
それならそれで有名人を独占できているようで嬉しいのだが、やはり気持ちを共有できる仲間が欲しいとは思ってしまうのだ。
「まやかちゃん同盟作れないかなあ」
そんな事を呟きながら石を蹴っていると、その石が前から来た人の足に当たってしまった。菜々は慌てて謝った。
「すみません。考え事をしていて」
「あなたはあの方と一緒にいた方ですね」
「え……?」
不思議な魔法使いのような恰好をした同い年ぐらいの少女だった。彼女は気を悪くした風でもなく、気さくに帽子を下ろして話しかけてきた。
「わたしはセツナ・カガリビ。あの方を訊ねて遠くの国から来た者です」
「セツナ・カガリビちゃん……?」
日本人なのか外国人なのかよく分からない名前だ。もしかしたらハーフなのかもしれない。そんな雰囲気を感じた。
「もしよろしければ、あの方の話を聞かせていただけませんか?」
「まやかちゃんの事を聞きたくてわざわざ遠くから? いいよ、いくらでも話してあげる!」
ちょうど話し合える仲間が欲しいと思っていたのだ。相手は誰でもいい。遠くの国から来た人なら遠くまで話が広がるかもしれない。
菜々は近くの喫茶店に彼女を連れていって本格的に話す事にした。
テーブル席について注文を済ませてから菜々は熱く語った。
「まやかちゃんはね、すごいんだよ! 一人で何でも出来ちゃうし、モンスターが現れても全くうろたえたりしないの! 人付き合いは苦手なんだけどそこはあたしがフォローするからいいかな。あの正也君でもまやかちゃんには一目置いてるぐらいだし、ドラゴンが現れた時なんてあたしは気絶しちゃったんだけど、まやかちゃんは起きててあたしを守ってくれたんだ」
「まやかさんは凄い人物なのですね。だから選ばれたのでしょうか」
「そう、選ばれたの。きっと近所のスキルマスターの誰よりもまやかちゃんは凄いと思うよ。だって、みんなあのドラゴンにうろたえていたのに、まやかちゃんはしっかりとあのドラゴンの動きを見ていたもの」
「あなたはまやかさんをよく見ているのですね」
「親友だからね。あなたもスキルマスターなの? 魔法使いみたいな恰好をしてるけど」
「あなたの期待するほどの物かは分かりませんが、あなた達がスキルと呼ぶ物なら少しは扱えますよ」
彼女は手をコップに翳してみせる。すると水面が揺れたかと思ったらコップが少し宙に浮いた。
菜々は凄いと思って目を輝かせた。相手が納得したのを確認するとセツナはスキルを解いてコップを下ろした。
「凄い、セツナちゃん、スキルマスターなんだ」
「これをスキルと名付けたのは実はわたしの先生なんですよ。わたしはマム先生の命令を受けてここへ来たんです」
「へえ~、そうだったんだ」
何だか思ったより凄い人物と知り合えたようだ。スキルを使えるという事は彼女も中学生のようだし、菜々は思い切って誘う事にした。
「ねえ、うちの学校に来ない? 正也君ってスキルマスターがうちにはいるんだけど、最近彼一人じゃ厳しくなってきたし、うちはスキルマスター大歓迎だよ」
「お誘いいただけるのであれば」
「やったー。校長先生にはあたしから話を通しておくね。一緒にまやかちゃんを盛り立てよう!」
「はい」
こうして菜々は彼女と握手を交わし合うのだった。
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