第2話 我が中学校の正義の味方
私は誰とも関わることなく日々を過ごしてきた。菜々ちゃん以外には話をする友達もいないし、今日も一人で勉学に励むつもりでいたが、そうはさせない奴がいた。
「おい、お前ら。避難しなかったそうじゃないか」
「うわっ、正也君」
「正也君だ」
いきなりのスキルマスターのおでましである。彼は転校生というのもあって地元の男子とは何か雰囲気が違うし、かっこよくてスポーツもできて強いと人気もあるそうだが、色恋沙汰に興味がない私にとってはどうでもいい存在だ。
菜々ちゃんはうろたえていたが、私は面倒だなと思っただけである。
「うちには優秀なスキルマスターがいるからね。安心して眠らせてもらったってわけよ」
「信頼してくれるのはありがたいけどさ。万が一ということもある。避難命令が出ている時は避難しないと駄目だ」
「違うの、正也君。話を聞いて」
「いいや、日向さん。こいつを甘やかしたら駄目だ」
正也君は菜々の言葉も遮って私を睨んでくる。何か睨まれるような事をしただろうか。さすがの私もうろたえてしまう。
ぼっちの私は余裕そうに見えても根は小心者なのだ。スキルパワーをどれぐらい持っているかとか関係なく。
「正也君の炎で私を焼き尽くしちゃう?」
「茶化すなよ。真面目な話をしているんだ」
「あ、正也君、まやかちゃんは悪くないんだよ」
「日向さんは黙ってて。大方こいつに付き合わされて避難できなかったんだろう」
「まあ、そうなんだけど」
スキルを発動してなくても正也君は強い。リア充オーラとでもいうのだろうか。そういう充実してそうな光の刃が陰の者である私を焼き尽くそうとするのだ。
スキルの勝負なら私は負けるつもりはないが、その場合は今正也君がやっている仕事を私が担当させられる事になる。
そんなのは嫌だ。私は面倒事は嫌いだし誰にも頼られたくない。なぜ私が同じ学校に通っているというだけの理由でみんなの為にモンスター退治をしないといけないんだ。
今のまま全部正也君に任せておきたい。私は嫌なのだ。何かをするのが。
そんな事を考えていると、正也君の視線が私の手元に向けられてきた。
「お前、まさか本当は……」
「まさか本当は?」
スキルに目覚めている事がバレているんじゃないか。私は内心で震えたが、それをおくびに出さないように注意して涼しい視線を向けてやる。
スキルに目覚めたら体に印が出るが、それをこいつが見る事なんて絶対に無いだろうし。彼は少し迷うように考えてから言った。
「いや、何でもない。ただ、一つ注意しておくことがある。避難していない生徒は指導室行きだから覚悟するように」
「え、なんで?」
「なんでもだ。言いたい事があるなら先生に言うんだな」
「はあ」
正也君が去っていく。私はずるずると机にしがみついた。
「めんどくさい、何もかもが。行きたくない」
「あたしも一緒だから頑張ろうよ」
「菜々ちゃんは元気だねえ」
「うん、世界は平和だし、まやかちゃんが一緒だからね」
「私と一緒だと元気が抜けるのかと思ってた。菜々ちゃんに吸われてるのかな」
「そんなことないと思うよ。それより正也君ってちょっと怖くない?」
「そう? ただ炎を使うのが上手いだけの奴だと思うけど。あいつってあんまり自分の力をひけらかさないよね」
「そうなんだ。まやかちゃんって正也君の事はよく見てるよね」
「それなりにだよ。面倒な仕事を率先してやってくれる物好きな人だからね。目に入るのかも」
「いいなー、うらやましい」
「?」
今の話のどこにうらやましい要素があったのだろうか。菜々ちゃんの感性は分かりにくい。まあ、私に分かる事なんてほとんど無いのかもしれないが。
そうして二人で話し合っている内に、私達の教室に担任の教師がやってきた。
スマートな男の教師だが、別に恋愛ドラマが始まったりはしない。ここは退屈な現実の世界なので。私はあくびをするだけだ。
「授業を始める前に大事な話があるからみんな席に着いて」
ざわついていたクラスメート達がすぐに静かになる。どうしたんだろうと首を傾げる私達だったが、先生の話を聞いて納得した。
「実はさっき、国の方が来て、モンスターが現れた時のマニュアルみたいなものを配ってくれたんだ。スキルマスターのおかげで平和は守られているが、我々も何もしないわけにはいかないからね。みんな、この冊子をよく読んでくれ」
先生が配った小冊子をパラパラっとめくって読んでみる。そこには、こう書かれていた。
『もしモンスターが現れた時に外にいた場合』
1、まず近くの避難所に逃げてください。
2、近くに避難所が無い場合は、最寄りの警察署に行ってください。
3、そこで避難の指示に従って避難しましょう。
4、なお、モンスターと遭遇したら逃げて下さい。
5、もしもモンスターと戦うことになっても決して戦わないでください。
私は隣の菜々ちゃんに小声で相談する。
「これって必要なの?」
「必要なんじゃないかな。だってあたし達じゃモンスターと戦えないし。いざという時の心構えは必要だよ」
「そうだね。そうなるか」
危険な物が現れたら近づかずに避けるのは言われるまでもなく普通だと思うけど。
見るとクラスのみんなも真面目に頷いている。なら必要なのだろう。
面倒な私はすぐに納得する。教壇に立つ先生が言う。
「以上、五項目だそうだ。みんなよく覚えておいて欲しい」
「なるほど、よくできていますね」
「そうだね。これなら大丈夫かな」
「うん、みんな、分かったかい?」
みんながこくりと首を振る。私達も素直に頷いておいた。平穏な学校生活を送るにあたって周りに合わせるのは大事だ。
なぜかこちらを見ている正也君と目が合ってしまったが気にしないようにしよう。
私は一般人なのだから、一般人らしく振る舞うのだ。
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