第2話
幻聴だ。
「違うよー」
それか、幽霊だ。
「それも、違うよー」
……いや、じゃあ、なに! これ脳内に直接聞こえてるっぽいんだけど!
「幽霊って、脳内に直接話すの?」
知らないよ!
「あと、幻聴じゃないって言ったの私だけどさー、別に、幻聴が『幻聴じゃない』って言ってるだけの可能性もあるよ?」
え、なに? やっぱ幻聴? 酒飲んでないし、睡眠不足でもないけど?
「幻聴だとしたら、他に原因になりそうなのはストレスとか? まあ、私は幻聴じゃないけどさ」
これだよ、ストレスは! でも、ストレスが先、幻聴は後だろ! 順番おかしい!
「まあ、幻聴じゃないからね」
ヤバいよ……。ホントに原因分からないんだけど……。ストレス……ストレス……。
「ストレスかー。そういえば、雨の日に洗濯物干してダメになってたよね」
小さい! 小さいよ、その程度のストレスで幻聴聞こえだしたら、このストレス社会で生きていけない!
「そんな、怒んないでよー。本当にストレスで幻聴聞こえるようになっちゃうって」
お前が幻聴だろ!
「いや、だから幻聴じゃないって」
……っていう幻聴だな。
「あー、私が幻聴の可能性があるなんて言わなきゃよかったなー。面倒くさー」
幻聴じゃないなら、証拠見せろよ、おい。
「えー? いいけどさ。うーん、どうしよっかなー」
……。
「はー。いやー、どうするかなー」
…………。
「まいったなー」
証拠の見せ方思いついてない! あるだろ、僕が知らない情報を言うとか!
「あー確かにね。うーん。……あ、そうだ『ソラハトオク』って映画知ってる?」
知ってる。予告映像見たよ。宇宙舞台のSFアクションのやつだろ?
「あれ、面白いよ」
なんだそれ! 幻聴でも言えること言うなよ!
「あー、じゃああらすじ言っていい? それで映画の内容と合ってたらいいよね?」
うーん。別に予告でもあらすじは分かったけどな。
「でも予告では、ストーリーの最後まで言わないでしょ?」
ラストは教えないでよ。ラスト分かった状態で映画見たくないんだよ。
「ネタバレ嫌い派か」
そう。
「えー、でも、他に言える情報ないからなー。やっぱ、ラスト言っていい?」
おい!
「ごめんごめん、冗談冗談。うーん……。序盤のストーリー関係ないシーンなら言ってもいい?」
……まぁ、それならいいよ。
「ダサいリュックを買うシーンがあるよ」
どんな映画だよ。そこだけ言われたら見る気失せてくるな……。ってか、あの映画もう公開されてたっけ?
「今週末公開じゃなかったっけ?」
今週か。っていうか、なんで今週末公開の映画の内容知ってんの?
「え。……まあ、それはいいじゃん」
よくないよ。
「いやいや、いいでしょー。だって、君が知らない情報が本当の情報だったってことが分かれば、幻聴じゃないってなるじゃん」
まあ、そうだけど。未来のこと知ってるって、なに、預言者?
「違うよ。あと、別に映画関係者でもないよ」
映画関係者……。最初にそれとか試写会とか、思いつくべきだよなぁ。今週見れるようになる映画の内容知ってるから未来のこと知ってるなんて、どういう発想だよ。
「まあまあ、しょうがないよ。突然、脳内に声が聞こえ始めたら、そういうオカルト系な考えになっちゃうって」
誰のせいだよ。
「まあまあ」
はぁ……。いや、っていうか、今週末まで待たないと合ってるか分からないじゃん。
「そうだねー」
なんかないの? 僕が知らなくて、調べればすぐに分かること。
「そうだなー。サブスクなんか入ってる?」
エヌフリには入ってる。
「それで見れる『スター・ホーム』って映画にどんなシーンがあるか言うよ」
僕も見てるよ、それ。
「あーそっかー。それじゃあ、『流星と宇宙』とか『無火星計画』とかは?」
それも見てるよ。
「まじ!? 私たちめっちゃ趣味合うじゃん!」
やっぱ、幻聴じゃん……。僕が知ってること知ってることしか知らないじゃん……。
「こんだけ趣味合うなら、『ソラハトオク』絶対面白いから。今週末まで待ってさ、見に行こうよ」
もし、そこまで待って、リュック買うシーンなかったら、幻聴確定じゃん……。
「別に確定ではないと思うけど」
あと、幻聴じゃなくても、結局何!?
「普通の女の子だよ」
そんなわけあるかぁ! 脳内に直接聞こえてんだよ!
「まあまあまあまあ。それよりさ、映画いつ見にいく? 別に私はいつでもいいけど」
……はい?
「映画いつ見にいく?」
え、間違ってたら言って欲しいんだけど、一緒に見にいくの?
「え、そうだよ」
……幻聴じゃない証明それでできるじゃん!
「あー、確かに。そうだね」
そうだねじゃないよ……。っていうか、実体あんのかよ。それなら、すぐ会えばそれだけで分かるじゃん。幻聴じゃないって。
「女の子には色々準備があるの。まあ、会うだけでもいいけど、どうせなら映画見ようよ、ホント面白いから」
……会うのかぁ……。
「何?」
僕、お金とか、全然ないよ。
「あ、詐欺じゃないですよー」
いやー、怪しいぞー。脳内に直接話しかけて、錯乱しているところで会う約束を取り付けるなんて、絶対おかしい。……お前は、詐欺師だ!
「違う違う、違うって。極貧大学生を詐欺るなんて、意味わかんないじゃん」
そもそも、脳内に直接話せる時点で意味不明なんだから。絶対! お前は! 詐欺師だ!
「えー……」
詐欺師じゃないなら、証明してみろよ!
「じゃあ、映画館の前で会って、すぐ解散。それなら、幻聴じゃないこと分かるし、詐欺れないでしょ?」
……まあ、それならいいか。
「面倒くさいやつー。話しかける相手間違えたかもー」
そもそもなんで、僕に話しかけて来たんだよ。
「えー? あー……。なんか暇そうだったから?」
家にいるんだぞ、どこから見てんだよ。……洗濯物雨でダメになったのとか、なんで知ってたんだ? いつから、どこから見てんの……?
「ところで、映画館って駅前のでいいんだよね?」
話逸らすな! ホントに、ホントに、ねぇ、ホントにいつから見てんの?
「まあ、駅前か。このあたり映画館、駅前しかないよね、確か。じゃあ、また連絡しまーす」
あ、おい! おーーーーい。……どういうことなんだよ、これ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます