第28話 剣と鎧




 銀色の鎧は薄い霧を纏う。

 手には剣や槍や斧といった体格に合った武器を持ち、小型の鎧人形は弓を構える。

 瞳の部分を明るいエメラルド色に輝かせ、標的であるエギルを真っ直ぐ捉えていた。

 一瞬にして生まれた鎧人形の軍勢を前に、エギルは飛び退き剣を振るう。




「無限剣舞」




 エギルの背後や地面から召喚された無数の剣。

 それらは地面を這ってシンシアに向かって伸びたが、目前で鎧人形が壁を作り防ぐ。


 片方は鎧人形の軍勢を。

 もう片方は無数の剣の道を。


 一瞬にして変化した光景を前に、観客席からは歓声があがるのではなく困惑した声が響く。

 状況を理解していないのだろう、実況の男が説明を始めた。

 けれどエギルは実況に耳を傾けることなく、鎧人形に囲まれ守られる形となったシンシアに声をかける。




「……パエラ山脈で助けてくれた礼をするべきか?」




 パエラ山脈で謎の集団に襲われたとき、エギルを助けてくれた巨人に雰囲気が似ていた。

 銀色の鎧に、人形を覆う霧。

 大きさは違うが共通点はあった。




「ふふ、不要だ。あの時は訳あって助けただけだ」

「なるほど」




 崖の上で助けてくれた鎧人形ほどの大きさのものはいない。ということは、あの時に見た巨大な鎧人形を隠しているということだろう。

 手の内を見せてもらっているぶんこちらが有利と考えるか、いや、どうせシンシアもエギルのことは調べているはずだ。


 戦況としては均衡。

 睨み合っていても進まないと考え、エギルはゆっくりと、歩いてシンシアとの距離を詰める。




「遠距離からの牽制はいいのか? まずはリスクを回避する為に剣を召喚して出方を探る。それがお前の戦法だと伺ったが」

「それを理解している奴にそんなことしても無意味だろ。どうせ手の内を見せてはくれないんだろ?」




 彼女の背後に剣を召喚して突き刺そうとするが、鎧人形がそれを察知して持っていた剣で防ぐ。

 笑みを浮かべたシンシアに、エギルはため息で返す。




「だが、こうも狭い場所での戦闘だとそっちの方が不利なんじゃないか? 召喚できる鎧人形の数も大きさも限られる」

「もちろん、あまり好条件というわけにはいかないな。だがそれは追い込まれて戦場を支配された場合であって、広範囲を使える序盤から押し込めば問題はない」




 シンシアの細剣が太陽の光を反射して輝くと、二体の中型鎧人形が両端からエギルへ向かって駆け出す。

 地面に剣を召喚して足を封じようとするが、鎧人形は宙を浮き、飛行したままエギルを襲う。




「ちっ、飛べるのかよッ!」




 片方の鎧人形と鍔迫り合いをしながら、背後を狙う鎧人形の攻撃を防ぐように剣を召喚する。

 まるで見えない騎士がエギルの背中を守っているような光景を目の当たりにして、シンシアは楽し気に笑った。




「ははっ、器用な奴だ。では、これならどうだ!?」




 小型の鎧人形が弓を構えると、一斉に矢を放つ。

 中型の鎧人形と鍔迫り合いしながら、エギルは横目で矢の勢いと弾道、そして本数を把握して適切な場所に剣を交差させた壁を配置する。


 壁に弾かれ地面に落ちた矢は後ろの方から粒子となって空へ消える。


 実体のない職業の力で生み出した矢ということだろう、そして鎧人形が持っている剣や槍や斧も同じ。


 鍔迫り合いするエギルは鎧人形を押し出し剣を弾く。




「武器の破壊は意味がないということか」




 地面に落ちた剣が矢と同じく粒子に変わり消えるが、気付くと中型の鎧人形の手には同じ形の剣を持っていた。


 たった一人で軍隊を操っているかのようだ。

 それに当のシンシアは開始から一歩も動かず、表情にも余裕が見える。


 個数が限られる剣と、無限に生成できる武器を持った鎧人形。

 長期戦になれば向こうが有利だが、全ての鎧人形に共通するのは淡い光を放つ武器を持っているということ。

 武器に違いはなく、鎧人形にも大中小あるがどれも似たようなものだ。


 長期戦であれば向こうが有利だが、短期決戦であれば様々な武器を使えるこちらの方が有利。


 シンシアの周囲を守る鎧人形へ、無数の剣で牽制しながら駆けだす。

 手に持つ剣を鞘に納め、一歩、また一歩と距離を縮めてからエギルは右手を前に出し剣を召喚した。


 パエラ山脈で見せた刀身が炎でできた奇妙な剣。

 風に吹かれて火がゆらゆらと揺れても消えることも火力が落ちることもない。




「……パエラ山脈で見せた剣か。また奇異な武器を」




 中型の鎧人形がシンシアの前に立ちふさがった。



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