第21話 もしものお話
──次の日。
相変わらず動きにくく重い鎧に身を包んだエギルは控室に来ていた。
予選では座れる場所がないほど大勢の参加者がいて、和気あいあいと笑い声が響いていた控室だが、扉を開けただけで雰囲気が昨日とは違うと全身が理解する。
「……」
本選に残ったのはエギル含めて十六人。
笑顔はなく、体型や見える傷痕からもお祭り気分で参加した者ではないと人目で理解した。
慣れ合う様子がないのを理解して、控室の端の方で本選が始まるのを待っていようかとも思ったが、同じく控室の端に昨日の彼女を見つけた。
「隣、いいか?」
腕を組み壁に背を付けた彼女。
顔を上げ、エギルを認識すると、少しだけ笑みを浮かべて横を見る。
「ああ、構わない」
濁りのない聞き取りやすい声。
同性が惚れる凛々しくカッコいい女性と表現するのが正しいだろう。
隣に並び立つと、エギルから話しかける。
「名前を聞いてもいいか?」
「質問ばかりだな、貴様は」
「すまない、ただ聞きたいことばかりでな」
「それもそうか。それにこちらだけが相手の名前を知っているというのもフェアじゃないな。私はシンシアだ」
「シンシア?」
「ああ」
名前を教えてくれるということは家名も教えてくれると思ったのだが、どうやらそこまでは教えてくれないようだ。
それに彼女の家名を知ったところで彼女の正体がわかるわけではない。
「そうか。よろしくな、シンシア」
「こちらこそ、よろしく。エギル・ヴォルツ」
自分は家名を名乗らないくせにこちらのことはフルネームで呼んでくるのになんとも言えない気持ちになった。
「シンシアは、この大会にはどうして参加したんだ?」
「もちろん優勝賞品を手にする為だ。……と、言いたいところだが違う。色々と目的はあるのだが、最もな目的は強者と戦う為だ」
「なるほど。確かに大陸中に強者の参加者を募ったと言っていたから、中にはそういう者もいるかもな」
「いいや、残念ながらいなかった」
シンシアは呆れているような笑みを浮かべながら首を左右に振る。
「まあ、なんとなくわかってはいた。本当の意味での強者はこんなところには来ないと」
「どういう意味だ?」
「私の中での強者の部類は二つある。一つは絶え間ない努力を重ね、日夜研鑽を積み、他者を圧倒するほどの剣技や体術を会得した者。もう一つは、神に与えられた聖力石の力を得た一級品の冒険者だ。だがこの大会に後者は参加しない」
「大会のルールで聖力石の使用は禁止されているからな」
「ああ」
「その退屈なルールのせいで、ここにいるのは非冒険者ばかりだ。そしてそんな退屈な大会だとわかってか、さっき話した武を極めた者もいない。本選に残っている者のほとんどが賞金目当ての盗賊やならず者といったところだ。まるで……誰か特定の者を優勝させる為だけに開催された大会のようだな?」
含みのある笑みを浮かべながら横目で見られ、エギルは「そうだな」と話を誤魔化す。
「そもそも冒険者の力でもある聖力石の使用を許可したら、一般の者は相手にならないんじゃないか?」
「どうだろうな。ただBやAランク冒険者程度なら、聖力石の力に頼らなくても圧倒できる武人もこの世にはいるとは思う。そもそも冒険者の力は絶対ではないからな。もしそうなら王国の騎士なんて不要、冒険者を集めた方がよっぽど強力だと思わないか?」
王国を、国王を、国民を、それら全てを守るのは騎士の役目。
それが世界中の認識。
対して冒険者は国に属さず自由に生きる者たち。
これも世界中の認識だ。
ただエギル含め冒険者であれば一度はシンシアの言ったように”騎士制度を廃止して冒険者だけにすればいい”と思ったことはある。
それは騎士にはない”神が与えた力”を持ち、その強さを目の当たりにしているからだ。
「騎士が鎧を身に付け槍を持ったまま突撃するよりも、武器を消耗することもリスクを伴うこともなく離れた位置から魔法を使って圧倒できる冒険者の方が優れている。百発百中の弓の技術を習得した狩人よりも、冒険者になったばかりの魔弓士の職業の子供の方が優秀だ。ではなぜ、王国を守るのは今も騎士だけだと思う?」
「……それが、王国だからだ。昔から王国を守るのは騎士であって、冒険者は一つの場所に留まらず旅を──冒険をする。だから王国を守るのは騎士だ」
「そうだ。そして王国の騎士の中には優れた者もいる。Aランク冒険者を剣技のみで圧倒するような者が。だから王族も、騎士の役目を冒険者に代えることをしない。だが、もしも」
笑みを浮かべて、シンシアは預けていた壁から背を離す。
「固定概念を取っ払い、多くの聖力石を持った騎士たちを所有する国が現れたら……騎士しかいない王国は太刀打ちできるのだろうか?」
「それは」
問題ない、と即答できなかった。
それはエギル自身が冒険者であり、そこまで騎士を信用していなかったからだ。
中には優れた武力と知能を兼ね備えた騎士もいた。だがその他大勢いる騎士が、聖力石を身に付けた冒険者よりも優れているとは思わない。
騎士百人に対し、冒険者百人なら、圧倒的に冒険者百人の方が強い。
何よりそうなりつつある王国も存在する。
フェリスティナ王国のように騎士の他に王国直属の冒険者ギルドを飼っている国もある。
だから、
いや、エギルは深いところまで考え首を左右に振る。
「近い将来、そうなるとシンシアは思っているのか?」
ここでエギルが大陸中の王国と騎士と冒険者の有り方について考えたところで何か変わるわけではない。
それよりもなぜ、彼女がここでこんな話をエギルにしたのかを考えるべきだ。
話の流れとして受け答えしたが、冷静に考えると少しばかり不自然さがあった。まるでこの話をエギルにしたかったような、そんな意図を感じた。
「さあ、どうだろうな。ただ、もしもこの場で話した想像が実現したならば、騎士しか属していない王国は、冒険者や聖力石を手にした騎士たちに襲われれば一瞬で潰れるだろう」
「もしもの話しだな……。だが、もしもの話を続けるのならば、対抗する為に自分たちの国も聖力石や冒険者を抱えようとするだろう」
「だが既に──新しい冒険者が生まれなくなってきているとしたら、どうだ?」
「それは……」
エギルが深く考え込むのを見て、シンシアは「例え話だがな」と笑って動き始めた。
どうやら本選が始まるようだ。
そして一回戦はシンシアの出番のようだ。
「だがもしこれから、職業の──冒険者同士の本気の戦い、例えば……Sランク冒険者同士の戦いを目の当たりにすれば、王国や国民を守る役目は騎士だけでいいのか、疑問に思う王族も出てくるだろう。そしてまともな王族は、優秀な冒険者を抱えたいと思うだろうな」
「かもな。まさか、お前……」
「ふふっ」
去り際、シンシアは対戦表をエギルに投げる。
その対戦表を確認すると、エギルとシンシアが戦うのは決勝だった。
「決勝で待っているぞ、エギル・ヴォルツ。遠い地からわざわざここまで来たんだ、”目的の為”だけでなく”私個人”も楽しませてもらおうか」
シンシアは決勝まで負けることはないといった、そんな自信満々な笑顔を浮かべて会場へと向かった。
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