第23話
「いいや、こっちの話さ。ところで、フェリスティナ王国の目的がアロへインってのは……確実な証拠があるのか?」
「確実な証拠はありません。ただ、この情報をエギル様に伝えた方が嘘を付く理由も、他に思い当たる理由もありません」
「まあ、フェリスティナ王国の所有する領土はここから離れてるからな。わざわざ領土拡大のために、大金を払ってクエストを依頼する理由もない、か」
「ええ」
「引っかかる部分は多いが、まあ、理解はできた……んで、エギルが帰ってくるのがいつなのか決まってるのか?」
「……」
エギルが帰ってくるのがいつになるのか、それは四人にもわからない。エレノアたちができることはこの場所を守ること。そしてエギルがシュピュリール大陸の者を連れて帰って来た時に住みやすくすること。
ただそれだけ。
「まあ、あいつの考えは間違ってないと思うぜ。誰だって悪巧みに使おうとしてる奴らんとこに属したいとは思わんだろう。だけどさ、これからもフェリスティナ王国がクエストを発注すんだろ? そうなったら最悪な事態になるだけじゃねーの?」
「そう、ですが……」
「だったら、根本的な部分を改善して、喜んでもらったほうがいいんじゃないか?」
「どうやって、ですか?」
セリナが首を傾げながら問いかけると、シルバはニヤリと笑った。
「要するに、エギルが帰ってくる前に、ここをあいつの王国だってフェリスティナ王国に公言すんだよ」
「それって……」
「フェリスティナ王国は大陸中に発信できる力を持った国なんだから、大陸中に公言してもらって、ついでに、今あるクエストを取り下げてもらうように頼めばいいだろ」
「ですが、アロへインの栽培を考えていたのですから、向こうも素直に頷いてくれるとは思えません」
「その狙ってる理由を利用するんだ。領土拡大が目的ならわかるが、麻薬の栽培となっちゃあ、向こうも大それたことはできんだろ?」
「つまり、フェリスティナ王国の国王様に、こちらが目的を知っていることを利用して交渉しに行くということですか?」
「交渉というよりも、脅しだな。向こうだってこの事はバラされたくないはずだからな。それを盾にすんのさ。最終的に、フェリスティナ王国に公言しなければ意味はない。どうよ、一石二鳥だろ?」
シルバのドヤ顔を見て、四人は再び顔を見合わせる。
確かに、ここに王国を築くのであれば、いつかは必ずその行程を踏むことになる。だがそれを、エレノアたちの独断で決めるのには抵抗がある。
四人はエギルの行動を邪魔しないことが最優先だ。勝手な判断をして、エギルの邪魔をしたくない。言われたことを、ただ忠実に守るのが自分たちの役目であると思っている。
「嬢ちゃんたちはあいつに喜んでほしくないのか? これじゃまるで、エギルの命令待ちの犬じゃんか?」
「犬って、私たちは別に……」
はっきりとは言い返せなかったセリナ。それはエレノアも、サナもルナもだ。
シルバだって四人を怒らせたいわけではないだろう。雇われた冒険者なら命令通りの行動でいい。だが四人は雇われた冒険者ではない。好きでここにいる、エギルが愛する妻たちだ。
「わたくしたちだって、できることなら、エギル様の力になりたいですよ」
エギルが皆を住みやすいように頑張っているのを、エレノアだって、他の三人だって知っている。
力になりたいと、何度も思った。だけど、何か自分たちで考え行動して、エギルの立場や、この場所が無くなってしまったらどうしようと、そういう不安があって四人は与えられてる仕事を誰よりも一生懸命にこなすことしかできなかった。
「ここは王国だ。エギルが王様で、四人はその妻で后なんだろ? だったら四人も考えて行動してみねぇか? それとも、勝手に行動したら怒るような器の小さい男なのか? エギルはよ」
「エギルさんは違う!」
あ、と声を発したセリナは恥ずかしそうに俯く。
彼女たちはまだ自分たちが奴隷であるという意識が抜けきれてなかったのかもしれない。それに、エギルの頑張りを邪魔をしてはいけないと、自分たちが何か行動したら邪魔になるのだと、勝手に決めつけていたのかもしれない。
──自分を奴隷だと蔑むな。
エギルに言われていたことを思い出して、エレノアは、ふう、と息を吐く。
「それも、そうですね。やれることがあって、エギル様の抱える負担を少しでも軽くできるのであれば、そうしたほうがいいですね」
「……まあ、それもそうかな。うん、私もそうしたいかな」
「あたしも、エギルさんが楽になってくれたら嬉しいかな」
「そうですね。それに、忙しくなくなれば、一緒の時間が生まれて、私も嬉しいです」
セリナ、サナ、ルナも同意していた。
「よし、それなら行動するのは早いほうがいいな」
シルバは嬉しそうにしながら手を叩く。
「ここはあいつと嬢ちゃんたちの王国だ。俺様は方法を教えてやるし、危険から身を守ってやるが、言葉で戦うのはお前たちだからな?」
♦
──フィーは初めてそのことを聞いた。
『報告が後になってしまって、ごめんなさい。どうなるかわからなくて』
「ううん、気にしないでいい。それより大丈夫なの?」
『大丈夫だと信じたいですね。というより、ずっと王国を築くと決めた時から、わたくしたちは思っていたんです。エギル様の力になりたいと。それが叶って、少し嬉しくもあるのです』
「そっか……わかったよ。エギルにはどうする?」
『内緒にしていただけると嬉しいです。帰ってきてから報告したいですし、王国の発展の為に頑張ってるエギル様に、迷惑はかけられませんから』
「そっか。うん、わかったよ。だけど状況が変わったら言って。エギルに戻ろうって言うから」
『わかりました。フィーさん、わたくしたちの我が儘に付き合ってくれて、ありがとうございます』
「ううん、大丈夫だよ」
『それでは、また明日、連絡します』
会話を終えると、フィーは白ウサギと黒猫を膝に乗せてため息をつく。
「……報告、しない方がいいよね。エレノア、エギルに迷惑かけるの嫌だっていつも言ってるから」
エレノアは、普段はアレな性格だが、エギルを慕う彼女の中で誰よりもしっかりした性格で、誰よりもエギルを支えようと想うタイプだ。
そんな彼女だからこそ、心配かけたくないと感じてるのだろう。
──また、あの日のように自分は相手を想って嘘をつくのかと悩んだ。
過去の苦しい記憶が蘇ってきて、フィーは膝を抱きしめる。主のそんな苦しそうな雰囲気に気付いて、白ウサギのエリザベスと黒猫のフェンリルは近くへ寄って顔を擦り付ける。
「……心配してくれて、ありがとうね。だけど大丈夫。大丈夫だから」
二匹の頭を撫でると、フィーの表情は和らぐ。
大丈夫。きっと大丈夫。
それに、もう少しでエギルと共に帰るのだから、不安になることはない。
「……あの死人」
エギルが意識を失った華耶を担いであの場を離れた時に見た死人に、フィーは違和感を覚えていた。
あれはフィーがまだ終の国の住人だった頃、湖の都へ出向いた時に見た──華耶の側役に似ていたのだ。
♦
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