第33話
「さて、これからどうしますか?」
あれから少ししてから、エレノアに聞かれた。
「レヴィアの話だと、これから世界が大きく変わるらしい。まだどんな風になるかわからないが、きっと俺たちも少なからず巻き込まれると思う」
「わたくしたちも、ですか?」
「そうだ。だから身を守るためには、このまま冒険者をしてるだけじゃ駄目なんだ」
そう伝えると、フィーがボソッと言う。
「……冒険者の国が幾つもある。それと同じことをするの?」
「さすがにフィーは詳しいな。それが身を守るのに一番いいと思う」
「ええっ!? それってエギルさんが王様になるってこと!?」
「王様ってのはちょっと違うな、サナ。別に国を支配したいわけじゃない。俺はきっかけを作るけど、王国として機能させるのは俺だけじゃなくて、他の冒険者だ。要するに、冒険者が集まってお互いを守る王国を作ろう、そう思ってるんだ」
「身を守るため。ですがどちらに作るのですか?」
エレノアは首を傾げる。
場所ならある。誰も所有していない拠点が。
「ここ、ゴレイアス砦に作ろうと思うんだ」
「ゴレイアス砦にですか? 広さはあると思いますけど、エギルさん、ここ使っていいんですか?」
セリナは不思議そうに周囲を見渡す。
「まあ、大丈夫だろうな。世界中にある冒険者の王国のほとんどは、こんな感じで魔物に支配された場所から生まれてるんだ。だからここを拠点にして、大勢の冒険者がここで暮らしてくれれば、この場所を奪おうとする奴は誰もいないだろう」
「ここが拠点。わたしたちの、お家になるんですね。大きい、お家です」
「ちょっとルナ、気が早いって。エギルさんが困っちゃうよ?」
「あ、うん。ごめん、なさい」
「謝らなくてもいいさ。だけどまず、ギルドを結成しなきゃだめだな。だからまずは戻るか」
王様にならなくても、ギルドを組んでない者が作った王国を拠点にしようと思う冒険者はいない。だからまずはギルドを作って──話はそれからだ。
なのでエギルたちは、このゴレイアス砦を後にした。
その帰り道、隣を歩くエレノアは鼻歌交じりに言う。
「そういえばエギル様は知ってましたか? ギルドって名称、元々は家族って意味だったそうですよ」
「そうなのか? 俺は初めて知ったな」
「じゃあエレノア、私たちがギルドを結成したら、もうこのメンバーは家族になったってこと?」
セリナの質問に、エレノアはニコリとした笑顔で返す。
「ええ、そうなりますね」
「じゃあ、エギルさんが作るギルドは奴隷ギルドですね」
「奴隷ギルド?」
「……でも、二人は奴隷じゃない」
「あっ、そっか。二人も奴隷かと思ってた。ごめんね」
「あ、ううん、あたしたちもエギルさんに助けてもらう代わりに奴隷になるって約束したよ。ねっ、ルナ」
「あ、はい……奴隷になったらいいって、サナが言ってたので」
「……奴隷の考えが軽い気が……まあ、わたしも同じだから、いいや」
「奴隷ギルドか。おかしな感じだが、たしかにその通りかもしれないな」
するとエレノアが他の四人を見ながらニッコリとした。
「では、このギルドの名前は『奴隷だけのハーレムギルド』にしましょうか?」
その名前を聞いたセリナは顔を引きつらせて明らかに嫌そうな顔をした。
「えっ、ダサッ! エレノアってネーミングセンスないんだね」
「もう、冗談ですよーっだ。これはあくまで例えですからね」
「例えが悪すぎでしょ」
「じゃあ、セリナは何か良い案があるのですか?」
「え……えっと、じゃあ、エギルさんと——」
「却下です! やはり頭がお花畑なセリナに聞いたのが間違いでしたね」
「はあ? だったら——」
二人が恒例となりつつある口喧嘩を始める。
それをサナとルナが笑って、フィーが無表情で見つめる。
——傷を負った彼女たちを幸せにしたい。
これはきっと、エギルが誰かを守りたいと思ったから、彼女たちがエギルの下に集まってくれたのだろう。
レヴィアは神を嫌っていた。
だけどエギルは、もし本当に神様とやらが五人と巡り合わせてくれたのなら、少しだけ感謝してる。
彼女たちが笑ってると、心の中にある何かが満たされて救われる。救って、救われて、互いが互いを必要とする。
だからエギルは大切な彼女たちを守るために、拠点を築く。
弱き者を守りたいって気持ちが、エギルの──先導者としての選択だ。
二章 完
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