第23話
「お前には関係ねぇだろッ! 邪魔すんじゃねぇよッ!」
エレノアに向けられたモルドレットの剣を、セリナは弾き返す。
戦況は三つに別れた。
セリナはモルドレットと。フィーはクルドと。そしてエレノアはムスリナと。
だがモルドレットの言う通り、セリナとフィーは関係ない。これはエレノアと三人の問題だ。けれど親友を置き去りにして、一人で苦しめることはセリナにはできなかった。
「奴隷商人にいた頃のエレノアはずっと泣いてた……。泣いて、泣いて、誰も信用できないって、怖いって、そう小さな声で叫んでた! だけどエギルさんと一緒にいるときは、心の底から笑ってた。私はそんなエレノアの笑顔が好き、エレノアには笑っていてほしい! だから、エレノアをもう苦しめないでよッ!」
「そんなの知らねぇよ、クソがッ!」
モルドレットの振り下ろす一撃一撃は重い。力任せなのに、セリナはその乱撃を防ぐことしかできない。けれど負けられない。ここで負ければエレノアも、自分も、ただの哀れな存在だ。それに笑顔をくれたエギルを悲しませる。だからエギルに教わった剣技でセリナは押し返す。
非力なら頭を使え。押して駄目なら引いて戦え。ただの力任せな攻撃なんて、エギルには教わってない。
縦に振り下ろされた剣を、刀を横向きにして防ぎ、そのまま腹部を蹴り飛ばす。深く入った一撃だったが、それを固い鎧が邪魔をする。そして地面を擦って下がるモルドレットは、こちらを睨みつけながら唾を吐く。
「……チッ。お前も奴隷か。奴隷は奴隷らしくしてろよッ!」
そしてすぐさまこちらへ走ってくると、今度はゆっくりと、セリナの動きを見ながら攻撃してくる。右から、左から。そして左、左。利き手とは逆側を執拗に責められる。
黒色に光る剣と、銀色に輝く刀が交錯すると火花が散った。
「奴隷にだって人権はある! 私も、エレノアも、フィーも、私たちとあんたらのどこが違うっていうのよ!?」
「黙れよクソ奴隷がッ! 奴隷なんて誰かに人生を左右される存在だろッ! お前らの首に付けてるそれが、誰かに縛られてる証だろうがッ! そこに跪けよ、犬が俺たちみたいに立ってんじゃねえ、人間様の前に立ってんじゃねえよッ!」
「ふざ、けんなッ!」
セリナは剣を反らして攻撃をかわすと、刀を両手で握り横に薙ぎ払う。
これはエレノアを救うため。なのに目の前の男を見てると我を忘れ怒りが込み上げる。
何が犬だ、何が人間様だ。お前は何様だ。エレノアの人生を、自分の人生を、奴隷と決めつけ無茶苦茶にしたお前らが見下すな。
普通に生きたかった者を奈落へ突き落とした奴が人間様だとするなら、セリナは人間様になんてならなくていいと思った。ただ小さな幸せでも喜べれば、それで十分だ。
「ずっと続いた暗闇を照らしてくれたエギルさんの元に、私たちは絶対に帰るのよッ!」
会いたい、ずっと側にいたい。セリナもエレノアも心の底からそう思ってる。
世界中から冷たくされても、エギルだけは自分らを温かく側にいてくれる。だからセリナは攻めに転じる。会いたい、その想いがセリナに刀を握らせ、振らせる。
「——ぐっ!?」
力任せの攻撃は防御が疎かになる。重みのある剣に刀を交わすことなく、右へ左へ避けて、セリナはモルドレットの間合いに入り込む。
「全て失ったから、私たちは小さなことで喜べる」
「しまっ——」
モルドレットの隙をつき、セリナは刀を真っすぐ横から突き刺す。
表現できない初めて聞いた人間の肉を貫く音が耳にスッと入ってきて、両手で握った柄からは、嫌な感触が全身に伝わる。
「う……はっ」
口から吐血するモルドレット。
セリナは刀を抜き、力無く倒れる男を見下ろす。
「に、人間を……殺すのか……? お、俺は……俺はこんなとこで、死にたくねぇ」
地べたを這ってこちらへと近付いてくるモルドレットを、セリナは目を反らすこと見つめた。
「躊躇ったら全て失う。……もう、私は大切な存在を失いたくないの。それに、私の大切な親友に笑顔を取り戻したいのよ……」
「くそっ、たれが……」
モルドレットがセリナに向けて上げた右手は、彼の涙と共に力なく地面に伏せた。
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