第15話
次の日の朝、まだ出発の時間よりも早い時刻。
エギルは横で寝ていたエレノアが立ち上がり、その音で目を覚ました。どうしたのか? そう思い、後を追うようにテントを出ると、朝日が眩しかった。
静かな朝だ。そして湖には、ローブをまとったエレノアがいた。
「……起こしてしまいましたか?」
フィーと別れてから、エギルは彼女から聞かされた話を二人にも説明した。二人は深く考えていたが、結局のところ決断することができなかった。
「テントから出ていったエレノアの表情が暗いように見えて、少し気になって付いて来たんだよ」
「そう、でしたか……。あ、そうです。エギル様が昨夜お相手をしてくれなかったから、怒っているのですよ」
笑っているエレノアだったが、エギルは嘘だとすぐに気付いた。
「幼なじみと会うのが今日かもしれないから、そんな表情をしてるんだろ?」
そう問いかけると、笑顔だったエレノアは俯いた。
「エギル様には、わかりますか?」
「まあ、なんとなくな」
「……その時が迫ってくると、自分がどうしたいかなんて決まってるのに、少しずつ怖くなってしまうのです。一人ぼっちになってしまったような感じがするのです」
その瞬間、エギルはエレノアの身体を抱き寄せた。
「エレノアは一人じゃない。俺も、セリナもいる。だからそんな悲しい顔はするな」
エギルの胸元に顔を埋めたエレノアは「そうですよね」と言うが、まだ表情には暗さがあった。
「エギル様もセリナも、これからもずっと一緒にいてくれる。心ではそれをわかっているのです。ただ、わたくしもセリナも、ずっとあると思っていた平穏がある日、突然に奪われたのです。だから……怖いのです。焦ってしまうのです。エギル様ともし、今日でお別れになってしまったら、そう思うと怖いのです」
エギルにとってはずっとこれからも二人と一緒の人生は続くと思っているが、一度平穏を奪われたエレノアとセリナにとっては、三人の生活がいつ終わってもおかしくないと思っているのだろう。だから怖くて、その日その日を最後かと思い、充実させたいと焦ってしまう。
身体を求めるのも、側にいる安心感が欲しいからなのかもしれない。抱かれて、肌と肌を触れ合わせて、相手を感じたいのかもしれない。
「そう、だよな……」
エギルは微かに震えた身体を抱き寄せる。
エレノアとセリナは心に大きな傷を負った。そしてエレノアはその傷とこれから決別しに行く。
いつも笑顔で、エギルとセリナを明るくさせてくれるから、エギルは忘れてしまっていたのかもしれない。不安に押し潰されそうな彼女の弱い部分を。
「すまない。俺はこれからもずっと一緒にいられると思ってたが、二人は不安だったんだな」
「すみません、わがままでしたよね」
「いいや、わがままなんかじゃない。だけどこれだけは言わせてくれ」
エギルはエレノアの頬に手を触れ、
「俺は二人を守る。約束する。何があってもだ」
そう伝えると、エレノアはにっこりといつもの笑顔を浮かべ、背伸びをする。
「では、わたくしも。必ず、何があっても、エギル様の元へ帰ってきます。絶対に離れませんから……」
柔らかな唇が触れ合うと、二人はお互いを求める。
※Rー18
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