第25話



 エギルが家の扉を開けると、ピンク色の髪がふわりと舞った。




「は、はじめまして! 私はセリナ・マーベリックです」




 外はすっかり暗くなったが、彼女の髪は鮮明に映った。




「あ、ああ……よろしくな」




 エギルは少し緊張していて、右手で頭をかきながら、何処か遠くを見て返事をした。

 そしてエレノアが笑っているのに気付いた。




「……どうした?」

「いえ、なんでもないですよ」




 何かあるのだろうが、エギルは特に聞かなかった。




「あ、あの……。助けていただいて、ありがとうございました」

「いや、大丈夫だ……。それより、明日は服でも買いに行くか。さすがにその服じゃあ、あれだろ……」

「い、いいんですか? あの……ありがとう、ございます……」




 ぎこちない雰囲気の二人。

 初々しいというよりは、壁があるといった感じだろう。

 そんな空気を察したのか、エレノアは手を叩く。




「それでは、もう遅いですから夜ご飯にしましょうか。セリナも手伝ってください」

「あ、うん」




 エレノアとセリナは一緒に料理を始めた。

 エギルは「手伝うか?」と何度も聞いたが、「今日は二人で手料理を振舞います」と丁重にお断りされてしまったので、大人しく待つことにした。

















「へぇ、お風呂って広いんだね」




 エレノアとセリナは一緒に風呂場にいた。




「そうですね。それより、これ……痛いですか?」

「あっ、まあ、ちょっとね。えへへっ」




 服を脱いだらよりわかる、セレナの身体には元主に付けられたであろう生々しい傷が体中に広がっていること。そのほとんどが殴打の痕跡で、体感してないエレノアでも彼女の苦しみは痛いほどわかった。

 そしてセリナは傷痕が恥ずかしいのか、全体を隠すようにタオルを巻いている。




「わたくしになら、見せてくれてもいいのではないですか?」

「いや、ちょっとだけ恥ずかしいかな。それにほら、私ってスタイル良くないからさ」

「スタイルが良くない、ですか……」




 湯船に浸かる前に体を洗う。

 その為にむかれたセリナの肢体は健康的でムッチリとした太股と、キュッと引き締まった腹部が露わになっており完全に無防備な姿となっていた。

 だからエレノアは、彼女の背後から手を伸ばし、




「では、このおっきなお餅はなんですか?」

「──きゃ! ちょ、ちょっと!?」




 Dカップほどの柔らかい乳房を下から持ち上げ、プルンと下ろした。そしてセリナは、可愛らしい反応を見せる。

 その姿を見て笑っているエレノアに、セリナは「もう」とふてくされながら、揉みしだいていた手を優しく叩く。




「今度は私が洗ってあげる」




 泡の付いたスポンジをセリナに渡すと、二人は洗う側を逆転させた。




「私はエレノアと違ってそういう経験ないんだからね。だから、いきなり触るとかは止めてよ」

「あら、でも経験はなくても、知識は沢山あったではないですか?」

「……経験があるのと、知識があるのは違うのよ。ほら、体の泡、流すね」

「はい。それでは、湯船に浸かりましょうか」




 お互いの体を洗い終えると、二人は湯船に並んで座る。

 そして、隣で両の手足を伸ばしたセリナにエレノアは問いかける。




「そういえば、まだセリナは匂いフェチなのですか?」

「……」

「あら、聞こえなかったみたいですね。セリナは──」

「聞こえてるから。まあ、昔は匂いフェチだったけど……今はどうかな。わかんない」

「男性が怖いからですか?」

「うん」

「そう、ですか」




 エレノアがセリナと別れるまで、彼女は超が付くほどの匂いフェチだと認識していた。そのことは、奴隷商人に捕まってる時にセリナ本人から直接聞いていて、初めて知った時は驚いた。




「ほんと、懐かしいですね。男性の臭い匂いが好きで、その匂いを嗅いで何度も一人でしたと聞いた時が」

「それは昔の話よ」




 セリナは悲しそうに、ボソッと呟く。

 男性が怖くなったから匂いフェチではなくなったと言いたげだが、エレノアは違うと思った。




「フェチというのは、そう簡単に治らないと思いますよ?」

「そうかな? だけど奴隷商人が凄い汗臭かったけど、なんとも思わなかったよ」

「それは嫌いな奴隷商人だからではないですか?」

「まあ、そうかも」

「では、好きな人の匂いを嗅いだら思い出すかもですね。それか──男女が愛し合った匂いを嗅げば、その匂いでオナニーしてた記憶が戻るかもしれませんよ」

「ばっ、馬鹿じゃないの!? あれは黒歴史だから言わないで。もう忘れたい過去……って、男女が愛し合った匂いなんて嗅ぐわけないでしょ?」

「ふふっ」




 エレノアが不気味に笑うと、二人は見つめ合った。

 すると、セリナは何かに気付いたのか、口角をピクピクとさせて、引きつった表情でエレノアを見る。




「エレノア、もしかして……」

「セリナの所有権は今、わたくしにあるのです。だからセリナはわたくしの奴隷で、わたくしに逆らっては駄目なんですよ?」

「ちょ、私に何させる気よ……」

「いえいえ、別に何かをさせるつもりはありませんよ。えぇ、セリナにさせるつもりはないですとも……」

「……あんたの性癖がおかしいのは知ってたけど、私が予想してるようなことをしたら、ほんとうに引くからね?」

「セリナに引かれても、わたくしは何も困りませんよ。ほら、行きますよ」

「い、いや、待って。ほんと、待ってよ。イヤだ、イヤイヤッ、絶対に嫌だから!」




 騒々しく暴れるセリナを、エレノアは無理矢理に二階へと連れて行く。

 そこはエギルの寝室、そして今ではエレノアの寝室でもある場所。

 ずっと愛を育んできた部屋にセリナと一緒に入ると、エレノアはセリナをクローゼットに入れた。




「ここなら座れますしね。ほら、服と服の間に隠れたら誰もいないように見えますよ」

「あ、あんた、やっぱ変態よ!」

「もう、そんなに褒めないでくださいよ」

「褒めてない!」

「それに、これはエギル様の為でもあるのですよ?」

「どういう意味よ……?」




 怪訝そうに見つめるセリナを見下ろしながら、エレノアは高ぶるように赤く染めた頬を触りながら答える。




「わたくしがセリナに見られながらすると、わたくしはとても興奮してしまうでしょう。なので、エギル様も気持ちよくなってくれると思うのです」

「それって……あんたが興奮したいだけじゃないのよ!?」

「まあ、そうかもしれないですね。とりあえず全てが終わった時にセリナをここから解放します。もしその時にオナニーをしていなかったら、セリナの匂いフェチはなくなってしまったということでしょう」

「いやいや、上手くまとめてるようだけど、全く意味わからないからね? それに、オナニーなんてするわけないでしょ。人のエッチを見ながらなんて……」

「そうですか、では終わった時のセリナの表情を楽しみにしてますね」




 ふんっ、とそっぽを向くセリナ。

 そしてクローゼットの扉を閉めて、エレノアは着替えを始めた。

 クローゼットの扉には小さな丸い穴があり、そこからセリナはこちらの様子を伺うことができるが、エレノアからは暗くて何も見えない。




「よし」




 今日のエレノアは本気だった。

 なにせ大好きな友人に見られながら性行為ができて、セリナに自分の愛した相手の本当の姿を見せられるのだから。




「お待ちしてました、エギル様」

「エレノア……その格好はどうしたんだ?」




 エレノアはエギルと出会った時に着ていた薄灰色の地味な奴隷服に身を包んで、ベッドに座って主人を迎えた。

 月明りが照らす部屋の中。

 エギルが隣に座ると、エレノアはいつも通りの二人の雰囲気で伝えた。




「今日は正真正銘の奴隷として、エギル様としたいのです」

「したいって……セリナは部屋で寝てるんじゃないのか?」




 セリナに空いていた部屋を用意したのだが、そこは元々、エレノアに与えられた部屋で一度もその部屋で寝たことはない。




「セリナはもう寝てますよ。それに安心してください、あの子は一度寝たら起きませんから」

「そうなのか?」

「えぇ、そうなのです」




 ベッドの前にあるクローゼットの中からはおそらく怒りを含んだ視線をこちらに向けているだろうが、セリナは声を発することも姿を現すこともしない。

 口では嫌がっていても、少なからず二人の性行為が気になるのだろうか。

 だからエレノアは言葉を続ける。




「これから先もセリナと三人で暮らすのですよ。なのにずっと、我慢するのですか?」

「……それもそうだが、いつもみたいに大声は出すなよ?」

「それは約束できませんね。エギル様とすると、気持ち良くて声が我慢できないんですもの」




 満更でもなくエギルはため息をついた。

 褒められて嬉しいのだろう、どう言われれば喜ぶのかを熟知しているエレノアはベッドに横になった。




「今日のわたくしは奴隷なので、わたくしに何でもしていいですよ」

「何でもか。じゃあ、目を閉じて待っていてくれるか?」

「えっ、はい……」




 ここまではエレノアの予想通り。だが、いつもなら獣のようなキスをするエギルが迫ってこなかった。

 そしてエギルは部屋を出ていった。

 エレノアは不安に感じたが、言われた通り目を閉じて待っていた。

 それから少し経つと、ギシッ、ギシッ、と床を踏む音を鳴らしながら、エギルは部屋へ戻ってきた。

 目を開けていいのか? それともまだなのか?

 そう悩んでいると、横になっていた上半身が優しく起こされた。




「両手を後ろに持ってきてくれるか?」

「えっ、はい……目を開けてもよろしいですか?」

「いいや、駄目だ」

「あっ、はい……」




 何だろう、やはりいつものエギルと違う。

 エレノアはベッドに正座し両手を後ろに持ってくると、エギルはその手首を何かできつく縛った。




「エ、エギル様!? こ、これは……」

「ん、変態なエレノアなら知ってるんだろ? それと、これも──」




 エギルは手首を縛ったまま、エレノアの目元を何かで覆う。

 目をゆっくりと開けても前が見えない。黒色の布で目元を覆われているのはすぐわかった。

 そして様々な性行為を知ってるエレノアはすぐに、これが目隠しプレイと後ろ手縛りだと気付く。





※Rー18

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