第22話
「セリナ!」
「──エレノア!」
エギルはエレノアに「最初は俺抜きで話して安心させたほうがいいだろう」と言って、二人にした。
なのでエギルは今、奴隷商人にゴールドを支払いに銀行へ行っている。
そして、エレノアは奴隷オークションの建物から出てきたセリナに走り寄る。
ボロボロの奴隷服を着たセリナは、エレノアを見た瞬間、涙を流しながら走ってきた。
「お待たせ、セリナ」
「うっ、ううっ……ありがとう。ほんとに、ありがとうっ」
奴隷商人に捕らわれていた頃はエレノアが泣き、セリナが肩を抱いていた。だが今の二人は逆の立場だ。
「感謝するのはわたくしではないですよ。今は奴隷商人とやり取りしてるのでいないですが……」
「隣に居た人? そういえば、いないね」
エギルは「そのまま自宅で待ってる」と言っていたので、セリナとエギルが初めて顔を合わせるのは家へ帰ってからになるだろう。
奴隷二人でいるのは危険だが、二人の安全のためにゲッセンドルフとハボリックが遠くから見守っているため、帰るまでは元主が襲ってきても安全だ。
そして、エレノアはセリナの頭を撫でながら伝える。
「あの方がわたくしの今のご主人様なんです。さっ、帰りましょう?」
だが、セリナからは震えた声が返ってきた。
「……ねぇ、このまま逃げない?」
「……なんでですか?」
「だって怖いよ」
セリナはまだ元主に殴られた傷が癒えてないと思われる二の腕を触っていた。
顔の傷は少し消えたように見えるが、若干は残ってるので化粧でごまかしてる。傷物は値段が下がるということだろう。
「言い方は悪いけど、奴隷を買うような人なんでしょ? そりゃあ助けてくれたのは、そのエギルさんって人かもしれないけど、私は……私は……」
セリナの言いたいことはエレノアもわかってる。
元主に暴力を振るわれ逃げて、そしてまた奴隷商人に捕まって売られた。
男性が怖くなってもおかしくない──というより、近付きたくたくないと思ってもおかしくない。
だけどエギルは違う。なのでエレノアは優しく伝える。
「そう思ってしまうのは無理もないですね。だけどエギル様は違います。わたくしも側にいますから安心してください」
エギルも、ゲッセンドルフもハボリックも、自分の身を削ってセリナを助けてくれた。だからとは言わないが、信頼できる人間だ。だがここで彼女にそれを伝えても理解するのは難しいだろう。だからこそ、側にいて安心させることを選んだ。
「本当に……?」
「本当です。これからはずっと側にいますからね」
そう伝えると、セリナは目を閉じて二度頷いた。
「……ごめん。本当にごめん。助けてくれたのは嬉しかったし、感謝もしてるの。……だけど怖いの。もう殴られたくないの。男が私を見る目が怖いの。さっき会場にいた人たち、私のことを人じゃない──まるでただの性的な道具を見るような目をしてたの」
彼女は自分よりも重症だ。エレノアはそう思いセリナを抱き寄せた。
「わたくしはエギル様を心の底から愛しています。きっともう、他の男性に恋をすることはないでしょう。一度奴隷になってしまったわたくしには、少しですがセリナの気持ちは理解できます。だけど──エギル様だけは、信頼してほしいです」
「……そんなに、他の男と違うの?」
「えぇ、とっても頼りになる方です。わたくしは一生、あの方に付いていくつもりです」
「だけど、まだ奴隷具を外してもらってないよね。やっぱり従わなかったら──」
「これは自分自身の戒めですよ」
エレノアは首に付けた奴隷具を触りながら言葉を続けた。
「きっと、このままエギル様の側に居られたら幸せになれると思います。冒険者として一緒に稼いで、結婚して、子供を産んで──ですが……わたくしをこんな目に合わせた者たちを許すつもりはないです。これは、わたくしの怨みの象徴なのです。エギル様との幸せな時間で、この怨みを忘れないための……」
「……そっか。変なこと聞いて、ごめんね」
「いえ、大丈夫ですよ。セリナも、行く場所がないのでしょ?」
エレノアから離れたセリナは、無理に作った苦笑いを浮かべた。
「……まあね。私のいた村は奴隷商人に捕まった時に焼かれたから、身内の居場所はもうわからないかな。行く場所も、帰る場所もないね」
「そうなのですね。じゃあ、わたくしとエギル様と、三人で一緒に暮らしましょうか」
「……エレノアがそんなに信頼してる人なら、そうさせてもらおうかな。だけど……邪魔じゃないかな?」
「全く。それにセリナもきっと、エギル様に惚れると思いますよ」
そう言うと、セリナは口をポカンとさせて固まった。
「セリナ?」
「あっ、ごめん。エレノアが変なことを言ったからビックリしちゃった」
「あら、わたくし何かおかしなこと言いました?」
「エレノアは、エギルさんって人のことが好きなんだよね?」
「はい、大好きです」
「それなのに、私が惚れるの?」
「はい、そうです」
「いや、言い方を変えるね。私が好きになったら変だよね?」
「いえ、なにも変ではないですよ?」
「……そう、エレノアって変わったね。色々と」
「そうですかね」
「エレノアさん、そろそろいいっすか?」
と二人の不思議な空気を切り裂くように、ハボリックとゲッセンドルフがやってきた。
そして案の定、セリナは脅えるようにエレノアの背中に隠れた
「この方たちはセリナを助ける為に手伝ってくれた方々ですから。ほら、セリナ」
「そ、そっか。うん……あ、あの、今回はどうもありがとうございました!」
ピンク色の髪がバサッと舞うように頭を下げる。
「いや、気にしないでほしいっすよ」
「そうですよ。それより、お二人はエギル様に付いていくのですか?」
「わたくしは勿論です。セリナはまだ悩んでますが、行く場所はないみたいですね」
そう伝えると、二人は顔を見合わせた。
少し困ったような、だがゲッセンドルフが口を開く。
「エギル様は自分のことを話したがらないので、きっとこの先も自分からは話さないでしょう。なので、もしお二人がどうしてエギル様がSランク冒険者になったのか、その理由を知りたいのであれば、お教えします」
「エギル様の……」
ゲッセンドルフとハボリックが悩んでいたのは、自分達が勝手に話していいのかどうかに迷っていたのだろう。
だがエギルは自分の過去を話さない。
だから聞くチャンスはここしかないかもしれない。
「わたくしはエギル様のことをもっと知りたいのです。ですので、良ければ教えてください」
「……わかりました」
渋い顔をしていたゲッセンドルフだったが、エギルの過去の話を語ってくれた。
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