第49話 遅刻 × 領有権の主張
『ヤバいっ!』
起きたのは午後五時だった。
『あ…… ワンが言ってたのはこういうことか!』
「クリスティーヌ! アンナ! ヤバいよ、もう十七時だよ、起きて!」
まだ、二人は眠そうにして、起きてるのか寝てるのかわからない様子で目を擦っている。
「もう十七時だよ!」
「多少遅れてもいいじゃない」
クリスティーヌが寝ぼけてる。
「じゃあ、誰かに遅れるって連絡してよ! 僕は誰の連絡先もわからないんだから!」
「わかったわ」
髪をくしゃくしゃしながらアンナが携帯を探す。
『この二人ってやつは!』
今まで好き放題されている。
英人は、最初が肝心でお灸をすえる必要があると判断した。
「起きろっ! そしてこっちにこいっ!」
英人がリビングのほうから叫んだ。
クリスティーヌは一気に飛び起きた。
アンナは携帯を手から落とした。
彼女たちは、今まで怒られた経験がほとんどなかった。怒られた記憶といえば、鍼の先生をしていた
「座れっ!」
クリスティーヌとアンナは床に座った。
「好きって言ってくれるのは嬉しいけど、eightersとの時間も大切なんだ! これからみんなで世界を変えていくんだろ? それなのに遅刻はよくないだろ? わかるよね?」
二人とも声をあげて泣き出した。頷いているようにも見えるが、嗚咽混じりで息を乱してるからよくわからない。
「もちろん、二人との時間も大事だと思ってるけど、スイッチが必要だろ?」
やっぱり頷いているのかはわからない。
「ずっと、一緒にいてくれるんだろ?」
これには激しく頷いているのがわかった。
「なら、約束したら守る。これを忘れないで! って自分も寝過ごしたんだけどね」
そう言いながら、二人の頭を撫で撫でする。
「「ごめんなさい」」
「わかってくれたらいいんだよ。じゃあ、遅れるって連絡して、急いで用意しよう~」
結局、英人は午後六時にeighters宅に着いた。
「ごめんなさいっ!」
英人が頭を下げる。
「昨日の予想どおりだからいいよ。むしろ早いぐらいかな」
ワンが笑いながら返してくれた。
二人は、『泣いたから準備に時間がかかるので先に行っておいて』とのことだったので英人だけ取りあえず来た。
「じゃあ、軽くつまみながら、昨日の話の続きをしよう」
ワンはそう言ってテーブルにつく。
机には色んな種類のピンチョスが並べられている。
『どれも美味しそうだなあ』
「あ、英人はそこね」
ドゥーエが席を指差して教えてくれた。
「食べる前に、簡単にこの家のルールを説明するよ。普段食事するときは、そこのコースターに『赤』『白』『ビール』『水』『炭酸水』『なし』って書いてあるから、それを選んで自分の席に置いてね。そしたら、サラかセレナが持ってきてくれるから。『なし』の場合だけ自分で冷蔵庫に取りにいくんだよ」
「あと僕とドゥーエは、撮影以外はみんなもリン、エミリオって呼ぶことが多いから、英人もそっちで呼んでくれたほうが嬉しいかも。他のみんなは名前よりeighters名で呼ぶことが多いかな」
リンが流れるようにすらすら説明してくれた。
「英人はHidetoとe-toどっちがいいかな?」
「どっちでもいいけど、議論するときは『e-to』でいたいかな」
「なら、僕たちはエートって呼ぶことにするよ!」
「じゃあ、早速食べながら話を始めようよ」
オイトがピンチョスの爪楊枝を流れるような所作で手に取った。
「まずは、エジプトと交渉してビル・タウィールをもらおう! スーダンも説得しないとだね」
エートがそう言うと、みんなが笑った。
「ん?」
「何かおかしなこと言った?」
「午前中に交渉して、既に許可は取り付けたよ」
リンが笑いながら言った。
「え? 早すぎない? しかもそんなにすぐいいよとはならないんじゃないの?」
「ぼくたちはエジプトには『貸し』があるからね」
タラータが堂々としている。みんなは笑顔だ。
研究の結果、ミイラはそれほどすごいものだったらしい。
「スーダンは?」
「エジプトに紹介してもらって連絡したよ。スーダンももとから領有権を主張してないしいいんだって」
「そんな…… どうやって? 交渉材料は?」
「僕たちはあそこに国を作るから、それができたらパスポートなしで入らせてあげるよ。あと税金もかけないで置いてあげるよって感じだね」
「さすが、リン! すごいよ、もしかして僕の考えも読んでくれたの?」
「少しはね」
「じゃあ、あの土地は自由にできるんだね。もう次のステップか、思った以上に早いね! 次はアントニオに油田掘削会社と、地下工事ができる土木建設会社を買収してもらってほしいんだ!」
「それも終わってるよ。まあ、まだ会社を完全にとはなってないけど、アントニオには依頼しといた」
エミリオもニヤニヤしている。
「作るんだよね?」
チルがそう言ってみんなに合図した。
『そろそろ地底国家造って避暑地とか良くない?』
eighters全員の声が揃った!!!
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