第34話 連絡 × 決める権利
彼は、モデル会社の他にも、広告代理店業や飲食業等かなり手広く他事業に手を出していた。
そのため、様々な業界に顔が聞くが、モデルの宣伝営業にはかなり黒い噂があった。
サラとセレナは、モデルをしていた時、別々の小さな会社に所属していた。その会社は比較的自由に仕事をさせてくれたし、自分でオーディションに行くことも許してくれた。
彼女たちは15歳の時に、Antonioに目を付けられ、ずっと自分の会社へ所属するように勧誘を受けていた。
その時の労働条件の提示は凄かった。世界的に移動をさせられるし、オーディションに出ることも禁止、営業は会社がして、それで取れた仕事が配分され働かされる。その代わり給料は非常に良かった。
ただ、サラとセレナはその働き方は性分でないと断り続けていた。何より、Antonioは金としてしか人を見ていない感じがして、2人は嫌いだった。
もちろん2人とも異性として口説かれてもいたからというのも理由の一つだった。
ただし、彼は言いかえれば、金には純粋だったので、多少世の中ではやばいとされることでもリターンが大きいと投資はする傾向にあった。
国際電話をかける。
「こんにちわ。久しぶり」
サラの声が半音上がる。
「やあ、久しぶりだね、サラ。最近仕事で会わないけど、モデルはやめたのかい?」
「私は今アメリカにいるわ。セレナも一緒よ。モデルは今はしてないわ」
「そうなんだ。セレナも一緒にいて、連絡をしてきてくれたということは、僕の会社で働く気になってくれたってことかな?」
「ノー!」
Antonioの話し中に、食い気味に否定する。
「じゃあ、何の連絡かな?」
「ビジネスの話よ」
「君からそんな言葉が出るなんて信じられないよ。それは僕にとって良い条件になるのかな?」
「きっとなるわ」
「そうかい、じゃあ、僕に何を依頼したいのかな? あと、報酬は? 君とセレナがうちで働いてくれるとかかい?」
「まさか。それよりもっといい報酬よ」
「そんなにいいものなんだね。じゃあ、教えておくれ」
「eightersはもちろん知ってるわよね?」
「それはもちろんだよ。歴史的な発見もしたからね。僕も彼らは大好きだよ」
『これは、しめたっ!』
サラがガッツポーズをして、そのまま話を続ける。
「彼らのサインをあげるわ。彼らはまだサインなんて書いたことないから、あなたは世界に1つしかない絵画をもらえるのと同じことになるわね」
「彼らが書いたという証明はどうするんだい?」
サラがガッツポーズから一転、困惑した表情になる。
「それはっ……」
「それが本物なら、価値はあると思うよ。だが、例えば彼らがその後に100枚書いたら、一気に1/100に価値は下がるよね」
「くっ……」
サラの言葉がつまる。
「サラは彼らを知っているのかい?」
「もちろんだわっ!」
サラはちょっと怒った。
「なら、こうしないかい? 僕にeightersと会わせてもらって、一緒に写真を取ってくれないかな? もちろん、その写真の用途はフリーにしてもらいたいね」
「公に出すのは駄目だわ」
「じゃあ、営業ツールとしてならいいかい? VIPに会ったときに、『eightersと会って写真を撮ってもらったんだよ』って具合にね」
「まあ、それならいいかもしれないわね」
eightersは仮面を付けて活動していて、彼らの写真は盗撮ぐらいしか出回っていないので、基本はeightersと誰かが一緒に仲良く撮影されたものはない。
「でも、君がそんなこと決める権利はあるのかい?」
サラは確かに、リンとエミリオには相談せざるを得ないと悟った。
「そうね。なら、また相談して連絡するわ」
「あと、依頼はどんなことだい?」
「あるチャットサイトを調べて、1人の居住地を割り当てて欲しいのよ。できるだけ詳細に」
「なんだ、そんなことでいいのかい?」
Antonioから意外な返事が返ってきた。
「君が連絡してきたんだから『会社1つ買収して欲しい』とか『どこかの国の政治家を弾圧してほしい』ぐらいのことかと思ったよ」
サラは、たしかに若いときは、オーディションに落ちれば、そんなことを言っていたな。と昔を思い出した。
「あのときは若かったのよ。とりあえず、相談してまた連絡するわ」
サラは電話を切って、ため息をつく。
「サラ大丈夫なの?」
セレナが心配そうにサラを見つめる。
「どのみち、リンとエミリオには相談しなくちゃいけなくなったわ」
サラはすぐにリンとエミリオを呼んだ。
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