第7話 空気 × 彼の第六感
翌日。
翌日といっても、寝れなかったまま仕事に追われている。
午前中はまだ良かった。
プロジェクト会議で色々なサービスや商品構成の打ち合わせ等、英人が好きな業務が目白押しだった。
だが、昼食後の15時。遂に英人は眠気に苛まれながら、最も苦手とするルーチンワークに追われていた。
こくっ、こくっ
ときおり頭が下に落ちる。
瞼も重く、自然に段々と下がってくる。
これは不味い状況だ。
英人は、またあのメッセージの題名を思い出す。
『eightersワンより御礼と信仰のお願いについて』
あれは一体なんなんだろうか?
英人はなんとなくあのメールは気軽に開いてはいけない気がしていた。
彼の第六感が警笛を鳴らしている。
開いてしまったら……
読んでしまったら……
英人の現実が崩れてしまいそうな漠然とした予感。
自らの人生観、いや、人生事態が変わってしまいそうな予感さえする。
そんなことを考えるだけですぐに眠気はなくなり、逆に背中にゾッとした感覚が。
今日は定時に帰ろう。そして、少し仮眠していつも通りチャットで超回復を図ろう。
そんな事を考えているとすぐに定時のチャイムが鳴った。
英人は、そそくさと足早に帰る。
あのメッセージは……
おそらく、ネタをぱくってソーリー! いい動画になったよ。また、今度ぱくらせてくれないかな? 今回は少し御礼は出すよ。ぐらいの感じだろう。
信仰?
……
深耕?
もっと知識の深堀りのお願いか。
それとも『最高』の打ち間違いだろうか?
うん、信仰は『最高』と打ちたかったのが誤字ったんだっ! きっとそうだ! そうしよう! それでなければ『深耕』の誤変換だっ!
そう考えた理由には、eightersの身なりも少なからず影響していた。彼らは仮面を付けていることもあり、国籍は不明だ。流暢な日本語を話していることから、その知識は見てとれるが、当然『話せる=書ける』ではない。
こういったことも加味して、なんとかスッと腹に落とす事に成功した。
英人としては、まさか現実になるわけもないと思って話した話題だし、秘匿性のある場所で話している時点で、それを真似たからだけで損得はあり得ない。と、思っている。
『いい動画を見れただけでも、得したと考えよう』
きっとあのメッセージはそんな感じの軽いものだろうから、一旦は脳内から消去しよう。
そう心に決めて家路につき仮眠をとった。
深夜0時。
起きた英人はいつものようにパソコンを起動してチャット画面を2つ開く。
今日の日本の議題は『空気について』だった。
地球環境が悪化してる今、どうすればより効果的に酸素を生み出せるのか。
なかなか社会的な話題であるが、ここは会社の会議室でもなく、大学の研究室でもないし、ましてや国会でもない。
そう、ただ自由な書き込みをして、好き放題主張して良い場所だ。
空気……酸素……
英人は、中学・高校で習った浅い知識を捻り出す。
植物を多く植える。
eightersの動画が脳裏をよぎる。
ここにもいるのだろうか?
そんなことは関係ないっ! 好きなことを吐き出して超回復を図ろう!
動物や人間から酸素は生み出そう。
植物が光合成をして、夜には二酸化炭素、昼には酸素を生み出せるのなら、動物や人間にその機能を付加すれば酸素は自ら生み出せるはずだ。
光合成動物、光合成人間への進化。
『e-to』は自由でなければならない!
そこに人権や論理感は必要ない。『e-to』は突拍子もなく、むしろここでしか議論できないことを発言することに存在意義がある。
『e-to』の発言を皮切りに、いつものメンバーが発言し始める。車の排気ガスで酸素を生み出せないか。人間が造る建物に光合成機能を付加できないか。
巨大なオゾン発生機を作ればいいのでは?
オゾン(O3)は非常に不安定な気体だから、常温で徐々に分解して、酸素(O2)になるはず。
二酸化炭素を排出する生物(人間)を減らせば?
う~ん、ごもっともだ。
酸素を生み出すという観点から言えば、的外れではあるものの、空気を最も汚しているのは人間だ。
人間が減れば空気綺麗になるよね。的なのは100人に賛否を問えば90人はyesと答えるだろう。
『ピロンッ』
海外のほうでも、議題が立った。
『今日は忙しい夜になりそうだ』
英人はニヤリと笑った。
……
彼たちは9ヶ月後、クリーンエネルギー会社を買収する。
空気から水を生み出す。
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